新たなる選択ルート
俺は死なない程度にボコボコにされ罪人として縛られるとそのまま木に吊るされた。
現代でいえば公然わいせつ罪と軽犯罪法違反でしょうか?
最近の童話事情とかよく知らないのですが俺の知っている桃太郎とは少し違うと思うのは気のせいですか?
いわれなき罪〈?〉により過剰ともいえる刑罰を受けた俺は精も根も尽き果てもはやどうすることも出来ずにいた。
すると下からコソコソと話す声が聞こえてくる、何か?と思って下を向くと、そこには数体の鬼たちが俺の事を見上げていた。
「なっ、何だ、お前らは?ここに何しに来た⁉」
会談前に鬼たちが来るなんて想定外だ、まさか約束を破って攻めてきたのか?
「どうしてここにいる?お前らの頭領である残虐鬼はこの事を知っているのか⁉」
「いや、残虐鬼には知らせていない。ここに来たのは俺たちの独断だ」
命令無視の独断行動だと⁉そういえば残虐鬼が〈鬼の中には人間との戦いを望む強硬派が多い〉と言っていたな。
くそっ、油断していた。一番の強敵である俺が無抵抗になる瞬間を狙っていたというわけか、何と狡猾な。
「俺たちは、アンタと折り入って話をするためにここに来た」
「は?俺と話を?だったら今度の会談ですればいいだろう」
「いや、今度の会談はあくまで村の人間と俺たち鬼との話し合いだろう?俺たちはアンタ個人と話がしたいのだ」
一体この鬼たちが何をしたいのかさっぱりわからんが、戦う意思はないようだ。
「とりあえずアンタを助けるぜ」
木の上に吊るしあげられていた俺をなぜか鬼たちが助け出してくれた。
もはや物語的にどちらが敵でどちらが味方なのかわからなくなってきた。
「俺たちはアンタと話をするためにこっそりとこの村に侵入したのだが
どうやってアンタと個人的に話をするか、好機をうかがっていたんだ。
するとアンタが味方にボコボコにされて木に吊るされたからこうして話ができることになった。よくわからんが幸運だ」
この一連の流れをラッキーとらえられる事にはいささか不満があるが、この際プロセスは問わないでおこう。
「それで?俺に個人的な話とは何だ?ていうか、とりあえず縄をほどいてくれない?」
木からは下ろしてもらったものの依然俺は体を縄でぐるぐる巻きに縛られたままなのだ。
「実は我々は鬼の中でも人間たちとは戦うべきだと主張してきた強硬派なのですが
今回アンタの仲間の三人の女を見て戦うのをやめようと考えを改めたのです……」
「じゃあ何の問題も無いじゃないか」
俺がそう言うと鬼たちはゆっくりと首を振った。
「事はそれ程単純じゃないのです。今まで残虐鬼を中心とする和平推進派と我々徹底抗戦派はいがみ合いに近い言い争いをしてきた。
それ故にアンタの仲間の三人の女たちが暴発して鬼を攻撃してきた場合、生贄とされ、真っ先に殺されるのは我々でしょう」
「いくらアイツらでも、和平を結んだ相手に攻撃とかしないとは思うが……それと、早く縄をほどいてくれない?」
「そうでしょうか?先日の彼女たちの言動を見ると、とてもそうは見えませんでしたが」
まあ確かに、あの状況はいつ攻撃が始まってもおかしくはなかったな。
〈鬼=悪〉というのがアイツらの考えみたいだし。元々三人共思い込みが激しいタイプだし
俺と違ってアイツらは融通が効かないからな。もう完全に〈鬼は絶対殺すマン〉になっていた……
「で、俺に何をしろと言うのだ?それと、何度も言うけれど、いい加減縄をほどいてくれない?」
「アンタに頼みたいのは、絶対にあの三人を抑えて欲しいという事とこのまま人間側と和平が成立すれば
今まで強硬派だった俺たちの立場が悪くなってしまうのです。だから
〈俺たちのお陰であの三人と戦わなくて済んだのだぞ〉といった実績というか
手柄というか、俺たちが和平推進派に鞍替えする大義名分が欲しいのです」
何だか複雑な話だな、鬼の中にも派閥争いがあるのか。あいつら三人より鬼たちの方がずっと色々な事を考えている印象だ。
「話はわかった、でも俺はアンタらのリーダーである残虐鬼と同盟の約束をしたんだ。
それなのに敵対派閥に味方するような真似は正直したくないな。悪いけれどこの話は……」
「待ってください、もちろんタダでとは申しません」
「賄賂か?確かに金も魅力ではあるが、そこまでして危ない橋を渡りたくはないよ」
「いえ、金ではありません。あなたと我々を強く繋ぐための盟約ですからね
単刀直入に言いますと私と義理の兄弟になって欲しいのです」
なんじゃそりゃ?義兄弟って、やくざの盃を交わすみたいな感じか?
「いやいや、いきなり義兄弟って……それは無理でしょう」
「すみません、言い方がわかりにくかったかもしれませんが義兄弟というのは私の妹の婿になって欲しいという事なのです」
この鬼の妹?でもこいつらの容姿を見る限り、妹とやらも相当ゴツイ見た目をしているはず
俺は見た目で女性を判断しないとはいえモノには限度というモノがある。ここは丁重に断りを入れて……
「これが私の妹です、鬼族の中で行われている【ミス 鬼娘コンテスト】では二年連続で優勝しているほどの器量良しです、貴方にも気に入ってもらえると思います」
そう言って一枚の写真を差し出してきた。だが美人とはいえ鬼の中での話だろ?こんなゴツイ連中の仲間というだけで……
しかしその写真を見た瞬間、俺の頭に電が走った。マメ芝にも勝るとも劣らないダイナマイトボディに均整の取れた顔立ち
目の前の鬼と血がつながっているとは思えない程の超絶美人である。俺は思わずゴクリと息をのんだ。
「妹は常々〈鬼族の男には好みのタイプがいない〉と漏らしていましたので、きっとあなたの事を気にいるはずです」
「詳しく話を聞かせてもらおうか」
俺は鬼たちの内部分裂を防ぐため建設的かつ前のめりになって話を聞くことにした。
「はい、貴方が我々の側に付いてくださるならば、妹との結婚を進めていきたいと思っています。
鬼と人間の間で婚姻関係が成立すればこれ以上の友好の印はないと思いますから」
「いや、俺が詳しく聞きたいのは妹さんの事だ。人間と鬼の友好関係とかそんなのは村長と残虐鬼に任せておけばいい、
もっと妹さんのパーソナルデータを教えてくれ」
「は、はあ……妹の名前は妲己。年齢は二十一歳、身長165cm、体重51kg
隠し事なく物事をはっきり言うタイプですね、ちなみに料理が得意です」
いいじゃない、いいじゃない。料理上手の鬼娘とか最高だよ。
もし妲己ちゃんが彼女になったら〈ダーリン〉とか呼んでもらおうかな?
俺が幸せな妄想に胸を膨らませていると、後ろの鬼たちがヒソヒソと話をし始めた。
「おい、本当に妲己ちゃんを嫁に出すつもりか?」
「俺たちのアイドル妲己ちゃんが、こんな男に……」
「ちくしょう、俺、昔から妲己ちゃんが好きだったのに……」
おいおい、強面の鬼たちが中学生みたいな事を言い出したぞ⁉
でもそれほどまでに人気がある超絶美女が彼女とか、考えただけでも最高だ
この羨望の声がなんとも心地良い。俺は今、人生で一番の優越感に浸っていた。
「おい、でもこの男は女に向かって小便をかけるような鬼畜だぞ⁉」
「ああ、俺ら鬼でもしないような非道を平気でやる、人でなしだ、妹の未来を滅茶苦茶にしてもいいのかよ‼」
物凄い言われようである、鬼に鬼畜とか人でなしとか言われる俺って……
「仕方がないだろう、これも俺たちの未来の為だ、心を鬼にしてでも……」
体を震わせながらこぶしを握り締めるお兄さん。よくわからんがこれってどう見ても俺が悪い奴に見えるな。
言っておくけれど、言い出しっぺはそっちだからね。
今更だが俺がこの世界に来た理由は、鬼退治の為なんかじゃない。可愛い彼女を作るためである。
あの三人は見た目こそいいが中身はポンコツのダメ女だ。
幸恵さんは文句なしにいい女なのだが、な ぜ か うまくいかない。
二人には運命の障壁があるかの如く、色々な事件が次々と巻き起こる。まるで名探偵コ〇ンだ。
したがってこの先、彼女とのカップル成立にはかなりの困難が予想される。
ならばいっそここで心を切り替え妲己ちゃんにパワー全開、全力トライで行ってもいいのではないだろうか?
俺はそんな哲学的な事を考えていた。そしてふと思うのだ、俺はいつになったら縄をほどいてもらえるのだろうか?と。




