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口づけを君に

俺たちが村に戻った頃にはもう夜になっていた。


そして今回の話し合いの内容を話すと村長さんは満足げな表情を浮かべ大変喜んでくれた。


「そうですか、鬼達と和平を⁉︎」


「はい、先方もそれを望んでいると。互いに細かなところで誤解があるようですが


それを話し合いで解決したいと言っていました。今後の方針も含めて一度鬼側と会談を開いてみてはどうですか?」


「わかりました、早速会談の準備をいたしましょう。それにしてもさすがですな、岩谷殿。私が見込んだ男だけはある、はっはっは」

 

俺の背中をバンバン叩きすこぶる上機嫌な村長さん。


少し距離の詰め方が気になるが俺にとっては未来のお義父さまになる人物だけに無下にはできない。


「じゃあ明日は感謝と前祝いを兼ねて宴会を開きましょう。


祭りも近いし派手に行きましょう。いや〜めでたい、めでたい、はっはっはっは」


「ありがとうございます。明日のことはいいとして実は我々はお昼も夜もまだ何も食べていないのですよ


よろしければ何か食べる物をいただけないでしょうか?」


「おお、これは失敬。すぐに用意させます。後で皆さまのお部屋に持っていきますので少々お待ちください」


「ありがとうございます、感謝します」


こうして俺の外交特使としての役目は無事に終わった。自分でいうのも何だが成果的には十分だったと思う。


長い一日が終わった、あとは飯を食って寝るだけ……と、思っていたのだが本当の波乱はここからだったのである。

 

部屋に戻ると今日の反省と今後の事を含めて、仲間全員を俺の部屋に集めた。


「いいかお前ら、鬼たちとは和平を結ぶ、実に平和的な解決だ。誰にも損は無いし文句もない、わかるな?」

 

なぜか終始不満顔の我らが三人娘。俺の説明にも納得できていない様子だ。


「どうしてそんな顔をしている、何が不満なんだ?」


「モモは甘いよ。鬼は悪い奴、悪い奴らはやっつける、当たり前のことじゃん」


「そうね、鬼は生かしておいてもロクなことはないわ、さっさと滅殺してしまうのが吉よ」


「鬼は悪、悪は斬る、悪・即・斬です」


彼女たちは鬼を完全な害悪としてとらえていて、その考えを変えるつもりは無いようだ。全く困ったモノである。


「お前らはどこの過激派だ?今時は何事も話し合いで解決するのがトレンドだ


平和を望む相手に一方的に戦争を仕掛けるのはコンプライアンス的にも問題だしな。


いいか、絶対にこちらからは戦いを仕掛けるなよ、絶対に、だぞ‼︎」

 

何度も何度も念を押して言い聞かせるが、三人とも終始不満顔で本当にわかっているのか?という感じの態度である。

 

そんな時、女中さんが部屋に来て飲み物とつまみを持ってきてくれた。


「今、夕食の鍋の用意をしておりますがもう少々時間がかかるので、その間これでも召し上がっていてください。


地酒とお水、そして近くの畑で採れた枝豆です、近海で採れた塩を振ってお召し上がりください」

 

おお、何という気遣い、至れり尽くせりだな。


だがこいつらはまだ未成年なので水を飲ませ俺は美味しい地酒をいただいた。


畑で採れた枝豆も非常に美味しく、ついつい酒が進む。

 

俺が上機嫌で酒を飲んでいると、ハルカスがとんでもない事を言い出す。


「ねえ、戦ってはいけないというのならば鬼どもが会談にきた時、こっそり毒を盛るというのはどう?」

 

俺は飲んでいた酒を思わず吹き出した。


「それいいじゃん、それならモモに言われ通り戦っていないし」


「それは名案ですね。実は私、暗殺用の猛毒を持っていますよ、これで奴らを……」

 

そう言って、懐から紙に包まれた粉状の猛毒を取り出す。


「待て、待て、待て‼︎平和的な話し合いにきた相手に対して一服盛るとか


どこの世界にそんな卑怯なヒロインがいるのだ‼︎俺が読者なら、そんな女は絶対に推しにしないぞ。


それとつばめ、そんな物騒な物は早くしまえ‼︎」

 

全くこいつらときたら……酒でも飲まなければ、やっていられないぜ。

 

俺は気を取り直しておいしい地酒とつまみを堪能する。


「おいマメ芝、そこの枝豆と塩をとってくれ。それとハルカス、酒のおかわりだ」


「いい気なものね、こんな時に自分だけ酒を飲むなんて」


「うるせー、酒でも飲まないとお前らの相手とかやっていられるか、っての……」

 

正直、こいつらさえ大人しくしていれば鬼達との和平交渉は上手くいくはず


なぜ鬼よりも味方であるはずのコイツらが最大の障壁となっているのか?


不思議を通り越して不可解ですらある。そんな思いがますます酒を進ませた。


「ねえ、モモ。ちょっと飲み過ぎじゃない?」


「しょんんなころはないへろ……」

 

あれ?何だか変だぞ?


「ほら、もうロレツが回らなくなっているじゃない、しょうがないわね、飲み過ぎよ」


「ひや、ちがふ……くちがしびれへ……」

 

何だ、口が痺れてきてうまく喋れないぞ?その時、突然つばめが叫んだ。


「あっ、大変です‼︎」


「どうしたの、つばめちゃん?」


「さっき懐から出した猛毒がなくなっています‼︎」


 おいおい、まさか……


「さっきマメ芝が枝豆と一緒に出した塩って、猛毒だったのじゃない?」


「へっ?」


確かに塩は残っているのに猛毒は消えていた、おいおい冗談じゃないぞ⁉︎


「どうしよう……私、私……」

 

マメ芝は目に涙を溜めてオロオロしている。


「こんなところで死ぬんじゃないわよ、トウスケ‼︎何とかならないの、つばめ?」

 

珍しくハルカスも焦っている様子だ。


「はい、一応解毒薬は持っていますが……」

 

おお、助かった……ならば早く。


「じゃあ、早く解毒薬を、モモが死んじゃうよ‼︎」


「急いでつばめ、私にできることがあれば言って‼︎」

 

コイツら、なんだかんだ言っても俺のことを心配してくれるのだな、こんな状況なのに少し嬉しいぜ。


しかし、つばめはなぜかモジモジしていて何かを躊躇しているようだった。


「あ、あの……解毒薬はあるにはあるのですが……今の岩谷さんは毒の効果で解毒薬を自分で飲むことができなくなっています


ですから解毒薬を飲ませる為には、その……誰かが口移しで飲ませるしか……」

 

その瞬間、マメ芝とハルカスが固まった。

 

おい早くしてくれ、死んでしまうだろ⁉誰でもいいから俺に口うつしで……


「え〜っと、ハルカスちゃんに任せるよ」


「えっ、ちょっと、何言っているのよ。嫌よ、私は。


大体つばめがそんな物騒な物を持ち出すからいけないんじゃない、つばめがやりなさいよ」


「断固拒否します、そもそも塩と猛毒を間違えたのはマメ芝さんですよね?


ここは責任をとってマメ芝さんがするべきだと思います」


「何でよ、さっきハルカスちゃんは〈私にできることがあれば言って〉とか、言っていたじゃん‼︎」


「それはある程度のことは……という意味よ、ここまでのことは想定されていないわ」


「ずるいよ、ハルカスちゃん‼︎」


「私は嫌ですよ、マメ芝さんかハルカスさんのお二人のどちらかでお願いします」


「つばめ、何、自分だけ逃れようとしているのよ‼︎」


「じゃあ、じゃんけんにしない?」


「そうね、そうしましょう。負けた人がトウスケに口移しね」


「異論はありません」

 

段々と意識が遠のいていく中で三人のジャンケンの声だけが聞こえてくる。早くしてくれ……こんなことで死ぬとか、馬鹿すぎる。


「やったー‼︎」


「ふう、一時はどうなるかと思ったけれど、何とか回避できたわ」

 

朦朧とする俺の目に顔から血の気が引き呆然としているつばめの姿が見えた。


どうやら俺のファーストキッスの相手はつばめのようだ。


「すみません、もう一度、もう一度お願いします。何とぞ三回勝負で」

 

土下座で必死に懇願するつばめ、そこまでするほど嫌ですか?


「う〜ん、気持ちはわかるけれど……」


「確かに、男性恐怖症のつばめに一発勝負はかわいそうかもね、わかったわ、三回勝負にしてあげる」


〈じゃんけんぽん、あいこでしょ、あいこで……〉という声が遠くに聞こえる、早くしてくれ……死んでしまうだろうが……


「やったーーハルカスちゃんの負け」


「心底ホッとしました、ではハルカスさん、口うつしで。さあどうぞ」


「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ。五回勝負でどう?つばめの時にだけ救済処置があるのはずるいじゃない」


「まあそれはそうだけれど……仕方がないなあ」


「私も泣きの一回をしてもらった手前、断れませんね。じゃあ五回勝負で」

 

何なんだ、コイツらは……早くしないと俺が死ぬだろうが‼︎ああ、もうダメだ……

 

そんな絶望感の中、天国への階段が見えかけた時、勢いよく扉が開いて村長さんが入ってきた。


「いやいや、お待たせしました。活きのいい魚と、自慢の地鶏、そして新鮮な野菜を用意しましたぞ、さあこれで鍋を……って


おや?どうかなされたのですか、岩谷殿?」

 

両手に持ちきれないほどの食材を抱えながら不思議そうに俺を見てくる村長。


その時、三人は顔を見合わせると無言のまま同時にうなずいた。


「実はね、モモが間違えて毒を飲んじゃったの」


「解毒薬はあるのだけれどね」


「毒の影響で口移しで飲ませないといけなくて……村長さんお願いできませんか?」

 

コイツらーーー、よりにもよって口移しの役目を村長になすりつけやがった‼


「委細承知、そういうことでしたらこの私にお任せあれ‼」

 

村長は両手に持っていた食材を投げ捨て水と共に解毒薬を口に含む。


や、止めろ、俺の大事なファーストキッスが……


村長の唇が迫って来る。体も動かせず、声も出せない俺はただただなすがままにされるまな板の上の鯉である。


俺は可愛い彼女とイチャコラするためにこの世界に来た。決してこんな脂ぎった中年男性とおっさんずラブをするためじゃない。

 

涙でゆがんだ視界の向こうには申し訳なさそうに目を伏せている三人の仲間がいた。


唇が触れる感触、口内に水分が流し込まれる実感、そして一筋の涙が目から零れ落ちた。


「これで良かったですかな?」

 

なぜか満足げな村長、三人は乾いた笑顔を浮かべている。


「え、ええ、解毒薬を飲ませたのでもう大丈夫だと思います。


今夜一杯は高熱も出ますし声も出ないとは思いますが、明日になれば治っていると思いますから」


「そうですか、ならば娘を呼んできましょう。娘は腕のいい薬師ですからな、何かお役に立てると思います」


「助かります、お願いします」

 

村長は嬉しそうに笑みを浮かべ部屋を出て行った。声も出せず体も動かせない俺は目一杯の思いを込めて三人を睨みつける。


「そんなに怒らないでよ、モモ……ごめんなさい」


「悪かったとは思っているわ、そんなに睨まないで」


「此度の件は本当に申し訳ありませんでした、謝罪します」

 

三人は珍しく素直に頭を下げた。だがそんな事で俺の気が晴れるはずもなく、引き続き三人を睨み続けた。


本当に謝罪の気持ちがあるのならば言葉ではなく誠意で示してほしいものだ。


人生最大の汚点、トラウマ級の村長の口づけを、君たちの唇で上書きしてくれるとかそのくらいしてもらわないとこの怒りは収まらないぞ。


俺は心の中で訴えたのである。


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