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和平交渉と鬼たちの思惑

「おい、お前ら、どうして……」

 

俺の声は耳に入っていない様子だ。鬼側からはこれ以上ないという程の好条件提示されたというのに


何故か三人とも目を血走らせ、今にも攻撃を仕掛けそうな殺気と闘志を撒き散らしている。


「ごちゃごちゃと何か難しい話で私たちを誤魔化そうとしたって無駄だよ、そんな卑怯な手には乗らないんだから‼︎」


「そうよ、ごちゃごちゃと、何か難しい話で私たちを騙そうとして‼︎そんなので騙されるほど私はチョロくないわ、本当に小賢しい‼︎」


「同感です。ごちゃごちゃと、何か難しい話で煙に巻こうとするなんて本当に鬼は卑怯で卑劣、最低最悪のクズですね、今すぐ刀の錆にしてやります‼︎」

 

しまった‼︎相手側のリーダーは話の通じる奴だったのに、コイツらには話の〈意味〉が通じていない


コイツらにとって残虐鬼の言い回しは難しすぎたのだ。なんて事だ。


「ち、違う、勘違いするなお前ら、相手が言いたかったのは……」

 

俺が慌てて否定しようとしたが、その前に残虐鬼が説明を始めた。


「貴殿達は何か心得違いをしておられる。それがしの釈明を留意してくだされば必然と弔意してくださるはず。


重ねて再考することを所望奉る次第です」

 

だ か ら、その言い方止めろ‼︎わざとか、わざとなのか?


しかも話し方にますます拍車がかかってきているじゃねーか、今では何を言っているのか、俺でも理解できんわ‼︎

 

残虐鬼の説明は当然の如く火に油を注いだ形となる。怒り心頭といった様子で今にも攻撃を仕掛けそうな三人のお嬢様方。


更に残虐鬼の弁明は続いた。


「あいや待たれよ、我輩の達意を介意すれば自ずと知見できるはず、今一度、何卒再考のほどをおん願い申し上げ奉り候」

 

お前は一体何なのだ?もはやその言葉が合っているのか、微妙になって来たぞ⁉


大体その言い方しないと死ぬルールなの?何だか俺までコイツの言い回しが鼻についてきたぞ


もしかして鬼のくせに意識高い系なのか?いやいや、今はそんな事を言っている場合じゃない。何としてもコイツらを止めないと。


「お前らいい加減にしろよ、向こう側は俺たち人間側と対話を望んでいる。


ここでお前らが手を出せば平和を望む相手に一方的に攻撃を加えた無法者になってしまうぞ。そんなの誰も望んでいない、とにかく落ち着け‼︎」

 

いきり立つ仲間をどうにかなだめたが、このままではいつ暴発するかわからない


俺は仕方がなく、一旦引き上げることにした。


「すいません、そちらの言い分はわかりました。何とかお互いが納得できるように話し合いで解決しましょう。


私は今の話をこのまま村へ持ち帰り改めて村側と話し合いの場を設けてもらいます、それでどうでしょうか?」


すると残虐鬼は嬉しそうに頷いた。

「ありがとうございます、その方向でお願いできますか?岩谷殿には本当に感謝します」

 

鬼達のカリスマリーダーは深々と頭を下げた、本当にいい人みたいだ。


それと、やっぱりお前、普通に喋れるじゃねーか。


「いえ、こちらも望んだ展開ですから。人間と鬼、手を取り合っていけるといいですね」


「全くです」

 

俺達は顔を見合わせて笑うとがっちりと握手した。すると残虐鬼は突然俺に覆いかぶさるように肩を組んできた。


「な、何を?」

 

驚きを隠せない俺の顔の横に残虐鬼の顔がドアップで近づいてくる、近くで見るとやっぱりめちゃくちゃ怖い。


「岩谷さん、ここだけの話ですが、鬼達には〈人間達と戦うべきだ〉という強硬派が多いのです。


それを私が何とか抑えている状態でして。何とかしなければと思っていたところなのです


人間と鬼の共存共栄、我々の力で何とか実現しましょう」

 

俺の耳元に話しかけてくる言葉には重みがあった。見た目に反して心の底から平和を願っているのだな。


「ええ、人間側も鬼は悪と決めつけている奴が多いけれど、俺たちがその垣根を取り去ってやりましょう」

 

再び嬉しそうに頷く残虐鬼。何だかこの怖い顔も少しだけ可愛く見えてきた。


俺達は同じ気持ちを共有している同志として何か心がつながった気がした。


そして残虐鬼は俺の顔を除起きこむようにニヤリと笑った。


「ここからが二人の初めての共同作業ですね、岩谷殿」

 

止めろ。今の一言でいい雰囲気が全て台無しだ。あんたは何のフラグを立てるつもりだ⁉︎


頭の中に残虐鬼がウエディングドレス姿で俺の横に並ぶ光景が思い浮かんできた。俺はそれを振り払うように必死で他の事を考えた。


「では、浜辺までお送りいたします」

 

俺たちの帰りをリーダー自ら見送りに来てくれるというのだ。


しかし相変わらず我がならず者達の厳しい表情は崩れない。


まさか鬼よりも味方の暴力に怯えることになるとは思ってもいなかったが


ハラハラしながらも俺たちは何事もなく鬼ヶ島を後にした。


舟で帰っていく俺たちを浜辺で見送りながらいつまでも手を振っていた残虐鬼が印象的であった。

 

一方で、リーダーである残虐鬼が俺たちの見送りで会議室を出た頃、残された鬼達は深刻な表情で押し黙っていた。


誰もが固く口を閉じ、重苦しい空気が漂う。そんな中で一人の鬼が沈黙を破るように口を開く。


「おい、見たか、あの連中?」


「ああ、やべー奴らだったな」


「あのケモ耳の女、犬神族と言っていたな」


「犬神族といえば、その昔、鬼族と犬神族とで全面戦争が行われたことがあったよな、確か結果は……」


「鬼族の完敗、屈辱の無条件降伏を飲まされた過去がある」


「あの巫女装束の白髪女は陰陽師と言っていたぞ」


「陰陽師といえば、我ら鬼の天敵ではないか⁉︎」


「今までどれほどの同胞が陰陽師によって消され、封印されてきたか……」


「あの長髪の女剣士は【鳥飼流暗殺剣】の使い手らしいな」


「【鳥飼流暗殺剣】といえば、確か先代がやられたのが……」


「ああ、【鳥飼流暗殺剣】の剣士によって斬られた」


「その時の先代の遺言が〈鳥飼流の剣士とは戦ってはならん、良いか?絶対に戦うな〉だったよな?」


再び沈黙が訪れた、会議室は水を打ったように静まり返り、誰もが下を向いたまま押し黙っていた。


しかし次の瞬間、示し合わせたかのように全員が一斉に立ち上がる。


「やべーよ、あいつらやべーよ‼︎」


「何なんだよ、〈犬神族〉に〈陰陽師〉に〈鳥飼流暗殺剣〉って、ふざけるなよ‼︎」


「村の奴ら、とんでもない助っ人呼びやがって、俺たちを皆殺しにするつもりか⁉」


「死にたくない、俺死にたくねーよ」


「しかも連中、三人ともやる気満々だった。あんなのと戦ったら俺たち確実に全滅するぞ」


「何とかしないと、あいつらと絶対に戦ってはダメだ。戦いを全力で回避するぞ」


「で、でも俺たち、〈人間なんて、力づくでぶちのめせばいいじゃん〉って、ずっと言ってきたよな?


リーダーを腰抜け呼ばわりする奴もいたし」


「俺も、いまさら〈やっぱり人間達と仲良くしよう〉とは言い出せなくてさ


さっきはそれっぽい雰囲気出していたけれど内心はションベンちびりそうなくらいビビっていた」


「でも相手のリーダーの男は和平推進派だったよな?」


「ああ、ウチのリーダーとも妙に気が合っていた感じがしたな」


「こうなったら、あの男に取り入って何とか平和的に解決する方向で話を進めてもらうしかない」


「でも、あのやべー女どもを抑え切れるのか?」


「抑えてもらわねば困る、その為には……」

 

予想外の方向で話が進んでいた、もちろん俺達はその事を知る由もない。


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