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平和的交渉

「ハアハア、ゼイゼイ……」

 

なんやかんやでようやく鬼ヶ島に到着する。浜辺には人影はなくリズムを刻むような波の音だけが耳に届いて来る。


周りを見渡してもゴツゴツとした岩があるだけの殺風景な景色がどこまでも広がっていて不気味な静けさが辺り一面を支配していた。


俺は一人で舟を漕いだせいで俺は完全にバテてしまっていた。


女の子とボートに乗るというのは俺の夢でもあったが想像していたのとはずいぶんと違う目標達成となってしまった。


慣れない運動で全身が汗でびっしょり濡れてしまい、ハアハアと息を荒げる姿は見ようによっては変質者に見えなくもない。


「よく頑張ったね、モモ、偉い、偉い」

 

鬼ヶ島に到着早々地面に倒れこみ、大の字になってバテている俺の頭をやさしく撫でてくれるマメ芝。

「まあ、トウスケにしては頑張った方ね。でも安心しなさい、私が必ず鬼どもからトウスケを守ってあげるから」


「岩谷さんの奮闘は無駄にはしません、鬼どもは私が一匹残らず駆逐してやります」

 

ハルカスとつばめもめずらしく俺を気遣ってくれているようだった。


だがもう少し女の子っぽい気遣いが欲しかったと願うのは贅沢なのでしょうか?

 

ある程度体力が回復したのでいよいよ鬼と会うために鬼たちの住処へと向かう。


鬼たちは島の中央部に砦を築いており、固く閉じられた門の前には二匹の鬼が門番をしていた。


だが今回の最大目的はあくまで平和的な解決だ。それにはまずは話し合いから始めなければならない、戦うのは本当に最終手段だ。


戦うのが目的ではない為、俺たちは堂々と正面から乗り込む。


そんな俺たちの姿を見た門番の鬼たちは驚きのリアクションを見せた。


「何だ、貴様ら、人間がここに何の用だ⁉」


「たった四人で俺たちと戦うつもりか⁉」

 

やはり人間と鬼との関係は良好とはいえないみたいだ


門番の鬼たちも緊張でピリついているように見える。よし、ここは人類側の全権大使として、あくまでも友好的かつフレンドリーに……


「あの、俺たちはですね……」

 

俺が言葉を発しかけたその時である。


「ガルルルル」


「四の五の言っていないでさっさと親玉のところまで案内しなさい。滅殺するわよ」


「グダグダ言うのならば、この場で叩き斬ります」

 

俺の意に反して初っ端から高圧的な態度で戦う気満々の乙女たち、君たち今回の趣旨を全然わかっていませんね?


「ちょっと待て、お前ら。今回俺たちはあくまで平和的な話し合いをしに来たのだ、喧嘩しに来たのではない‼」


何とか必死でなだめるが、なぜか不満顔の乙女たち。


「すみませんね、うちの狂犬女どもが。俺たちは鬼側と話し合いに来ました。ですから責任者の方と話したいのですが」

 

門番の鬼たちは顔を見合わせ何か小声で話していたが、どうやら話し合いの場を設けてくれるようである。


結果的にはこいつらの威圧的な態度も効果的だったようで、門番の鬼たちは明らかにビビっていた。


乙女が脅して鬼がビビるとか、思っていた展開とやや違うがまあいいだろう。


交渉事はまず強気にと聞いたことがあるしな。それにしてもコイツら、鬼が相手でも全くビビらないとか……


味方として心強くはあるが和平を実現するという目標を考えると先行き不安しかない、さてどうなることやら。

 

俺たちは砦の奥の部屋へと案内される。


薄暗い廊下にひんやりとした空気、不気味さとおどろおどろしさが入り交じった独特の雰囲気の中で奥へと進んでいくと


案内役の鬼が大きな扉の前でふと立ち止まる。


大きな扉を開けるとそこは会議室のような大広間で中には赤鬼、青鬼、緑の体をした鬼と、様々な鬼たちがズラリと居並んでいた。


2mを越える巨漢に筋骨隆々の肉体、口からは鋭い牙がはみだしており、こちらを見つめる目には明らかに敵意を感じる。


「あ、あの、ですね、ぼ、僕たちは、その……」

 

怖ええええ~~、とんでもない所に来てしまったのでは?怖くて声が震える


この鬼たちがその気になれば、俺なんか三秒でミンチだろう。


俺はビビりまくり今にもションベンをちびりそうになっていた。だが、我らが乙女たちの反応は違った。


「ガルルルルルルル」


「何よ、その目は?全員消されたいの?」


「岩谷さん、もう全員斬ってもいいですよね?」

 

初対面からまさかの展開。宣戦布告待ったなし、もはや一触即発といった勢いである。


「お待ちなさい、君たち。僕たちは話し合いに来たのですよ、そのようなお下品な言葉遣いはおやめなさい」

 

緊張のあまりなぜかオネエ口調になってしまったがここで戦いになったら生きた心地がしないだろう。


おれは逸る仲間を必死でなだめた。するとそれに呼応するかのように会議室に大きな声が響き渡った。


「全員落ち着け‼人間側が我々と交渉による友好関係を築こうと言ってくれているのだ、まずは話を聞こうじゃないか」

 

鬼たちを一括したのは一番真ん中にいる紫色をした鬼だった。


他の鬼よりも一回り体が大きく、その発言内容からもおそらく鬼側のリーダーなのだろう。


「仲間たちが失礼しました。私はここの頭領をさせてもらっている残虐鬼と申します。


あなた方は人間側の代表として訪問されと認識してよろしいのですね?」

 

名前と見た目に似合わず、知的で友好的な語り口。これならばいけるかも。


「はい、私は人類側の代表として来ました桃太郎こと、岩谷桃助と申します。


一緒に来たのは、犬神属のマメ芝、陰陽師のハルカス、鳥飼流暗殺剣の使い手、つばめです。


よろしくお願いします。ほら、お前らもちゃんとちゃんと挨拶をしないか」


「ガウウウウウウウ」


「紫色の鬼とか珍しいわね」


「斬ったらどんな色の血が流れるのでしょうか?」


「止めろ‼お前らはしばらく黙っていろ‼すいません、こいつら血の気が多くて」

 

残虐鬼は苦笑いを浮かべながらゆっくりと首を振った。


「いいのですよ、お互い確執や軋轢があるのは仕方がありませんから。


それと私の体が紫色をしているのは、私が赤鬼と青鬼のハーフだからです」

 

赤と青を足して紫、なるほど納得です。しかし赤鬼と青鬼が結婚して子供が生まれたら


その子はハーフっていうの?勉強にはなったが、今後俺の人生でこの知識が役に立つことは無さそうだ。


そして残虐鬼は意外な事を口にした。


「私共といたしましては、鬼と人間の共存共栄を望んでおります」


「えっ?」

 

意外な言葉だった。どうやってその話に持っていこうかと思っていただけに向こう側からそのような提案が来るとは予想もしてなかったのだ。


「手前どもといたしましても人間達とは色々と齟齬があったと思っております。


諸事情により生じた事象が軋轢を生み、互いの確執を招いたのだと認識しております。


ですからまずは互いの誤認識を改め、見識を深めていければ双方にとって良好な関係を築き、相互利益を産むことも可能だと思案するものであります」

 

何だ、何だ?鬼の癖に随分と建設的かつ理路整然と話す奴だな。これは思っていたよりも話が早いのかもしれないぞ。


「それはこちらとしても願ったり叶ったりですが。村側の主張では


〈最初にあなた方がいきなり現れ、戦闘になって何人もの怪我人が出た〉と言っています。


その後も鬼による様々な被害が出ていると聞いていますが。その辺りはどうなのでしょうか?」

 

俺が村側の主張を説明した時、突然周りの鬼達がいきり立つ。


「ふざけるな‼︎先に仕掛けてきたのは人間どもじゃねーか‼︎」


「その通りだ、話し合いもないままいきなり攻撃してきておいて、自分達は被害者面とかテメエら何様だ‼︎」


「しかも俺達がその後も色々な被害を出しているだと?あの日以来、俺達は人間の村に近づいてもいない


それでどうやって被害を出せるというのだ、言いがかりも甚だしい‼︎」

 

物凄い剣幕で怒りの声を上げる鬼達。怒りと憎しみが渦巻く中でもはや俺は生きた心地がしない。


そんな時、我らがか弱き大和なでしこ達が小声で俺に話しかけてきた。


「もうやっちゃおうよ、モモ」


「所詮鬼どもと話し合いとか無理だったのよ。トウスケがいいというのならば、こいつら秒で消し去ってやるわ」


「もはや問答無用ですね、鬼は悪、悪は斬る、悪・即・斬です」

 

相変わらず戦いに積極的なおてんば娘達である。


俺の信奉する博愛精神と専守防衛の理念など彼女たちには微塵も感じられない。こいつらは血を見ないと収まらないのか?


「やめないか、馬鹿者どもが‼︎」

 

場を収めるように、相手のリーダー残虐鬼が仲間を一喝する。


「我々は人間とは争わない、そう決めたではないか‼︎」

 

あれだけ騒いでいた鬼達が一瞬で口を閉じる。中々のカリスマ性とリーダーシップだ。


「お見苦しいところをお見せしました。ですが皆の憤りもわかってやってください。


我々があの村に姿を見せたのは本当に村人と友好関係を築くためだったのです。


しかし村人は我々の姿を見た途端、攻撃を加えてきました。


こちらの話を聞く気配もなく一方的に。我々も自分の身を守るため仕方がなく抵抗しました。


ですがあくまで正当防衛の範疇でのことです。だから相手側には死者は出ていないはずです、こちら側としてもかなり手加減をしましたから」


なるほど、この連中が本気で暴れていたら村人側にかなりの死者が出ていただろう。


それにこんな鬼がいきなり現れたら村人がパニックになって攻撃を始めるのもわからなくはない。


「わかりました、その件については村側にも落ち度があったと思います。


持ち帰ってきちんと話せば誤解は解けるでしょう。ですが村側が主張するその後の被害についてはどうなのでしょうか?」

 

俺の質問に残虐鬼は残念そうに眼を閉じ、ゆっくりと首を振った。


「それについてはこちら側も全く心当たりがありません。先ほど申しました通り


あれ以来村には誰も近づいていませんから何かの間違いではないでしょうか?」


「なるほど、わかりました。その辺りも何か誤解がありそうですね。


それで先程、あなた方は人間側と共存共栄を望むと言っていましたが、具体的にはどのようにお考えですか?」

 

残虐鬼は大きく頷き、静かに語り始めた。


「私どもとしましては、人間と鬼の共存共栄を望みます。具体的には居住区となる特区を設置し、鬼の治外法権を認めていただきたい。


法治国家としての法的な基準は人間側の法律に準拠しますが、不整合な点は今後議論を交わしながら相互理解を深めていけばいいと思案しています。


安全保障については互いに話し合い、不可侵条約と安全保障条約を締結し


有事の際の軍事同盟を結び、互いに防衛義務を担うなどの項目も取り入れて、書面にしていただければ幸甚です。


鬼と人間の協調関係による相互共生、実現できると相望しております」

 

何という好条件、こちらから交渉するまでもなく向こう側から最高の提案をしてくれたではないか⁉︎


周りの鬼達はやや納得していない様子だが、リーダーが話のわかる奴で本当によかった。


俺は戦闘にならずに済んだ安堵感と平和的な解決の使者として責任を果たせた満足感で思わず肩の力が抜ける。


ホッとした俺は思わず仲間達に声をかけた。


「おい、向こう側のリーダーが話の通じる人でよかったな、これで……」

 

安心しきった俺の目に、信じられないモノが飛び込んできた。


三人とも未だに警戒を解いていないどころか、先ほどよりもやる気満々で鬼どもを睨みつけていたのである。


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