速報です
完結する手前で(何書いてんやろ?)と思いました。
毎週金曜日、午後六時に放送中の人気情報番組『明日は土曜日♪』で、年配の方々に話題となっているのは〈素敵な薬局☆〉という街角コーナー。
有能な薬剤師の方が毎回、処方箋についてのエピソードを熱心に語るミニ情報である。
薬局の情報にうるさい憶朱厘世にとって、三度の飯より幸せな時間だ。
この日も楽しみにしている処方箋のエピソードを観るために、お菓子とお茶、それとお茶うけに決して外せない、ル▽を用意してテレビの前に体育座りでスタンバイしていた。
(楽しみだわ♪
今日はどんな処方箋エピソードが聴けるのかしら♪
いつものようにスマホで内容、録音録音♪)
いそいそと録音用のスマホを膝上に置き、処方箋エピソードが始まるのをウキウキして待つ。
憶朱厘世現在十六歳、健康が気になるお年頃だ。
『~♪』
〈素敵な薬局☆〉のテーマ曲が流れ出し、憶朱厘世の瞳が輝きだした。
よほど好きなんだろう、ル▽が。
『皆さま、ちわっす!
今回も始まったザマス♪
〈素敵な薬局☆〉……』
その時だった。
『番組の途中ですが、ここで速報です!』
「え?」
画面が突如切り替わり、真面目なアナウンサーが居るスタジオが映った。
『ただ今入りました情報によりますと、高速道路を横並びで大移動するカルガモ家族が目撃された、との事です!
あ、中継が繋がりました‼』
「何、何?」
憶朱厘世は思わず身をのりだし、画面に食い付く。
手にはしっかりル▽を握ったままで。
高速道路の映像が映し出され、画面端に長い影が見えた。
カルガモ家族が、横並びで高速道路を普通に大移動しているのだ。
「えええっ?
そんな横に並んじゃあ、車にひかれるわ‼」
憶朱厘世はもうカルガモ家族に釘付けで、処方箋どころではない。
されど、ル▽を握ったままである。
『ああっと、カルガモ家族の前方から乱暴運転の大型トラックが迫って来ました‼
カルガモちゃんたちがピンチです!』
「あああああ!」
だけど、ル▽は離さない。
カルガモ家族と乱暴運転の大型トラックが、接近中!
カルガモ家族が危ない……と誰もが固唾を飲んだ時、信じられない出来事が起きたのだ。
横並びで大移動するカルガモ家族が、なんと乱暴運転の大型トラックを撥ね飛ばしたのだ。
〈ジャアアアアアアー!〉
激しい音を響かせ乱暴運転の大型トラックは、そのまま宙へと吹き飛んだ。
カルガモ家族には乱暴運転の大型トラック等問題ではないらしく、横並びの綺麗な列を乱すことなく移動し続けている。
高速道路での弱肉強食を見せられ、憶朱厘世の心はハラハラしている。
それでもやはり、手にはル▽が汗まみれで握られている。
「良かったわ。
カルガモ家族は強いのね」
愛らしいカルガモ家族が無傷で誰もが安心したのも束の間、新たな事案が発生した。
『皆さま、大変です!
またまた前方から、別のカルガモ家族が同じく横並びで大移動で接近して参りました‼
カルガモ家族が混ざってしまうと、大事件に発展してしまいます!』
カルガモという種族は、家族ではない別のカルガモが入り込むと、警戒音を発して追い出す習性がある。
雛であろうと容赦しない。
横並びで大移動するカルガモ家族同士が、接近していく。
このままだとカルガモ家族が、どちらともなく怪我を負ってしまう。
『カルガモ家族、間も無くどちらも接触してしまいます!』
「どうなるのかしら?」
憶朱厘世の心臓が激しく波打つが、手の中のル▽だけは離さない。
横並びで大移動するカルガモ家族……ぶつかるかと思いきや、上手く見事に擦れ違った。
一羽ずつ互いの列の間を通り抜けて、接触することなく美しい擦れ違いを披露してくれた。
『高速道路での素晴らしい奇跡です!
二つのカルガモ家族の綺麗な動きは伝説になることでしょう!
以上、現場からリポーターの鹿馬がお伝え致しました‼
先程中継されました〈素敵な薬局☆〉を引き続き御覧ください』
『ーでしたね。
今回も素敵なエピソードが聴けたザマスよ。
それでは皆さま、また次回会いましょうザマス♪』
憶朱厘世の脳裏には、屈強なカルガモ家族が根強く残っている。
(あのカルガモ家族のように、頑丈な体を目指すわ‼)
手の中のル▽が、汗まみれで握られていた♪
〈健康第一〉
完結してから、やってもうた……と思いました。
酷評さえも馬鹿馬鹿しい駄作ですね。