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The Last day.

The Last day.


翌日、二人が中休みに運動場に出ようとしたときだった。

「痛っ!」

靴を履いていた冬騎が声を発した。痛みの根源の足の裏を見ると、三本の画鋲が突き刺さっていた。

「おいっ、大丈夫か!?」

春斗が血相を変えた。まさか、連中がここまでやるとは思ってもいなかったのだ。

「大丈夫・・・」

紺色の靴下に、どす黒い波紋が広がった。

「血が・・・」

「痛ってぇ・・・。あいつらかよ。やりすぎだ」

画鋲をはずして靴下を脱ぐと、足の裏に小さな穴が三つ開き、血液が流れ出していた。

「絆創膏持ってるか?」

「あるけど・・・。消毒しなくていいのかよ」

冬騎は春斗から絆創膏を受け取って貼ると、靴下を履いてから靴を履いた。

「行こうぜ。休み時間がなくなる」

冬騎がそういって昇降口から駆け出した途端、バシャァッ、という水をぶちまける様な音がした。春斗が慌てて駆けつけるとそこには氷入りの水をかぶって座り込んでいる冬騎がいた。

「さ、むい・・・」

今は十一月だ。夏の暑さは微塵もなく、気温は八度を下回っていた。そんな中で氷水を浴びたら、心臓に悪いことこの上ない。

「おいっ!誰だッ!」

冬騎が二階を睨んで叫んでも、誰も顔を出すことはなかった。


「千夏、見てくれた?」

教室では、亜里が千夏に誇らしげに話していた。

「勿論。素晴らしく良かったわよ。氷水は、さぞかし足の裏に凍みたでしょうね。さて、画鋲は美樹、氷水は亜里。秋希は何をしてくれるのかしらね?」

千夏の期待を受けて、秋希は微笑んだ。

「私だって、やるときにはやるわよ」

「ええ。頼むわよ?」

千夏は嬉しそうに笑った。

「私は、何をしようかしら・・・」

その笑顔は、色鮮やかな毒蛇の様だった。


「う・・・」

冬騎は保健室で小刻みに震えていた。

「大丈夫か?」

暖房の効いた部屋で、春斗は心配そうに冬騎を見つめた。冬騎は、人よりも体が弱かったのだ。春斗はそれを知らなかった。だから最初は大丈夫だろうと思っていたのだが、やがて熱を出したのであわてて保健室に行ったのだった。

「大丈夫。ありがとう」

冬騎は靴を履きながら言った。まだ熱で顔が赤い。

「まだ無理だ。寝てろ」

「嫌だ。平気だ。寝てるのは性に合わん」

冬騎はそう言うと、保健室を出て行った。春斗は段々エスカレートしていく虐めに、心配になった。


昼休み、春斗は冬騎を探しながら歩いていた。

(教室か・・・?まったく、どこに行ったんだ?)

そう思って、教室の方へ歩き出した。

(あいつら・・・。単に、冬騎が連中と仲良くしないだけでこんなことを・・・。自分たちが学校のボスを気取ってやがる。次にあいつに何かあったら・・・)

そこまで考えたとき、教室の前に着いた。春斗は無償にいらいらして、乱暴に扉を開けた。

(・・・!?)

春斗の目の前に広がった後景は、平和なときを過ごしてきた中三の少女にはあまりにも残酷なものだった。

「おいっ!誰だ!」

春斗は叫んだ。

「冬騎は!?」

「そ、外・・・。石橋さんと・・・」

「馬鹿野郎!何で誰も止めねえんだよ!」

春斗は辺りにいたクラスメイトに向かって怒鳴った。

冬騎の机の周り、否。机だったものの周りは、酷い惨状だった。完全に破壊された机と椅子。机の中にはほこりが詰まっている。辺りには悪口が書かれた使い物にならないような教科書やノートが散らばっている。その中には、切り刻まれた春斗との交換ノートもあった。

「っ」

春斗は外へ飛び出した。

「冬騎っ!どこだぁっ!」

周囲の制止する声を振り払って走る。いない。どこにもいない。運動場、体育館、各階のトイレ。

(どこにいるんだよ・・・!)

運動場の脇を通ったそのとき、まだ探していない場所があるのを思い出した。

(体育準備倉庫!?)

春斗は思い出すや否や、全速力で駆け出した。


「痛っ・・・」

冬騎は暗闇の中で目を覚ました。

(縛られてる・・・。クソッ、何でこんな目に・・・)

冬騎は、痛む頭を懸命に働かせて先刻起こった出来事を思い出した。

(確か、教室に戻ろうとしたら、石橋に話があるって呼ばれて・・・。それで、ちょっと待ってろって言われて一人になって・・・。外に居た誰かに殴られたんだっけ)

そこまで考えると、急に頭に血が上った。

(殴った野郎!戻ったら、ただじゃ済ませねえ!・・・、あ)

そして、重要なことを思い出した。

(ここ、普段の授業で使わないものしかない・・・。ってことは)

「出られない!?」

冬騎は思わぬ事実にショックを受けた。後ろ手を縛られているので、ドアが開けられない。

(助けて、春斗っ・・・)

そこまで考えると、意識が消えた。


「あいつ、今頃泣いてるんじゃないの?」

「あははっ、いいざま!」

「それにしても」

笑っている亜里たちの横で、千夏が秋希に言った。

「体育準備倉庫なんて、よく思いついたわね。流石は秋希」

秋希はうれしそうに笑った。散らばったままの机を蹴飛ばす。

「あそこなら、我柱さんだって・・・」

「俺が何だって?」

「!?」

秋希は振り向いて硬直した。そこには、鬼の形相をしたような春斗が突っ立っていた。

「あいつをあんな所に閉じ込めたのは、お前か?」

「ひっ・・・」

春斗は教室から逃げ出そうとする秋希の腕を掴んで凄む。

「いいかげんにしろ」

刹那、秋希の体が後ろに吹っ飛んだ。春斗は今にも泣き出しそうな秋希に構にかまわずに秋希の腕を掴んで捻り上げた。

「痛っ・・・ぅ」

「答えろ。あれはお前の独断でやったのか。

・・・いや、違うな?誰の指示だ?お前がいつも一緒に居る三人だろ?違うか?」

「うう・・・」

「泣いてちゃ分かんねえんだよ!」

―ガンッ

春斗はすぐ近くにあった秋希の机を蹴飛ばした。

「こいつか?それとも、こっちか?」

言いながら、次々と千夏たちの机を蹴飛ばしていく。

「主犯はどいつだッ!?」

「た、助け・・・」

秋希が力なく千夏たちを見つめた。が、千夏たちはそっと教室から出て行った。

「・・・っ!!」

「おや、どうやらお前は見捨てられたらしいな。こうなった以上、主犯が誰か教えれば・・・。そうだな、教えて、その後に冬騎に頭を下げれば許してやる。それとも、今ここで痣を増やすか?自分を見捨てた奴らを庇って?」

「う・・・」

秋希は迷っていた。確かに、ここで千夏たちのことを全て喋って謝ってしまえば、もうこそこそとしなくてすむ。

(でも、もし喋ってしまったら・・・?)

「あいつらの仕返しが怖い、か?」

春斗は秋希を見下していった。

「さんざん冬騎を傷つけておいて、自分が傷つくのは嫌だたぁ、ずいぶん生ぬるいこと言ってくれるじゃねえか。仕方ねえ」

秋希は恐る恐る春斗を見上げた。

「もしお前が俺の言うとおりにするんだったら、俺がお前を奴らから守ってやる。まぁ、元から仲間を見捨てるような奴は大嫌いだしな。冬騎は、訳を知ったら納得するだろう」

有希は覚悟を決めて、震える声で言った。

「・・・主犯は、千夏」


「うあ・・・?」

(あれ?ここは・・・、なんだか見覚えがあるような?あたいは、確か真っ暗な所で気を失って・・・?)

「冬騎!」

冬騎が目を開けると、いきなり春斗が抱きついてきた。

「な、何だよ!?いきなり抱きつくな!」

その様子を見て少しほっとした様な秋希に気付いた冬騎は、春斗を引っ張ってささやいた。

「おい、何で石橋がここにいるんだ?俺が何か色々と死んでた間に、何があった?」

「刻日さん」

春斗が口を開く前に、秋希が一歩前に出て言った。

「ごめんなさい。あなたを殴って体育準備倉庫に押し込めたのは、私」

「えっと・・・」

必死に頭を下げて謝る有希を前に、冬騎はどうしたらいいのか分からなくなってしまった。

「つまり、お前が今ここで寝てる原因がこいつ。他の奴らは逃げた。こいつを見捨ててな」

「何とも笑えない話だなぁ」

冬騎は顔をしかめた。

「気に食わねえ奴らだぜ。・・・で?石橋は自首したんだ?って、そんなに怖がるなってば。別に、今更お前をどうこうするつもりはないし。まぁ、あいつらも所詮は烏合の衆。あたいが本気を出せば・・・」

「あーはいはい。分かった分かった」

「あー!今絶対こいつなに言ってるんだよとか思っただろ!?」

「あーあー。聞こえねえなぁ」

秋希は、クスリと笑った。

(今までさんざん邪険にしてきた人たちが、なんだか今までの私たちよりも楽しそうに感じるなんて、何だか変なの)

「ほら、石橋も混ざれ!」

「うん・・・」

秋希は二人の間に入っていった。

「ありがとう。秋希でいいよ」

 そのときに秋希が見せた笑顔は、千夏たちと一緒に居たときには決して見れなかった温かい微笑みだった。


 「あいつらマジむかつくんだけど!」

 「超ウザイじゃん」

 予備室の片隅に陣取っている千夏を取り巻いている亜里と美樹の愚痴を黙って聞き流している千夏は、俯いて黙っていた。

 (・・・。秋希を見捨ててきちゃった。でも、今更秋希に何を言ったら良いか分からないし、それに、もし、私がそんなことをしたら、亜里たちは・・・)

 「・・・夏?千夏ってば!」

 千夏は、美樹の声ではっと我に返った。いつの間にか、自分の世界に浸っていたらしい。

 「ねえ、どうしようか」

 亜里が千夏をけしかける様に言った。

 「また仕掛ける?」

 「でも、秋希が喋っちゃったんじゃない?あたしたちのこと」

 千夏は黙っていた。

 (何だか、モヤモヤする・・・)

 段々と、どうしたら良いのか分からなくなってくる。

 「・・・ねえ。とりあえず、今日はこれくらいでお開きにしない?何だか疲れちゃったみたい」

 「え、マジで?珍しいじゃん。早く休んだほうが良いんじゃないの?」

 「だね。じゃあ、続きはまた明日にしようか」

 千夏は二人に礼を言って予備室を出た。

 (一体何なのよ、もう・・・)

 結論を出せない自分にイライラしてくる。千夏は壁を蹴飛ばした。と、そのとき、自分が自転車の鍵を予備室に忘れてきたことに気が付いた。

 「取りに行かなきゃ・・・」

 誰にともなく一人呟くと、ふらふらと予備室のほうに歩き出した。

 (何か、二人に会うの嫌だな・・・)

 そう思いながら予備室の前にたどり着くと、ドアノブに手をかけようとした。とそのとき、ドアの向こう側から亜里と美樹が談笑する声が聞こえた。

 「ねえ。千夏、大丈夫かなぁ。何か、かなり具合悪そうな感じだったよね」

 「だよね。早く良くなってほしいよね」

 それを聞いて、千夏は微笑んだ。

 (嬉しいこと、言ってくれるじゃない)

 「そうだよね」

 しかし、千夏はその後に美樹の口から出た言葉を聞いて硬直した。

 「せっかくの金ヅルがいなくちゃ、こんなことやっててもつまらないし。リーダー気取っててうざくない?」

 「ねー。あ、でもストレス発散には丁度良いんじゃん?責任はあいつが負うんだし。何言われても露坂さんに脅されてやりましたぁーで済んじゃうしね」

 「そうそう。まぁ、秋希は所詮捨て駒だからいいけどさぁ、あいつはあたしたちには必要不可欠!ね」

 「良いお友達だよね、あたしら」

 五分ほど前まで一緒に談笑していたはずの二人の少女の口から次々に発される悪口とも嫌味ともとれる言葉の数々を、千夏はただただ突っ立って聞いていた。

 (う・・・そ、よ。私が嫌われて、利用されて、馬鹿にされて・・・)

 千夏は昇降口へと走り出した。

 (嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘!!)

 ただ、それだけが頭の中を駆け巡る。

 「嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘!!」

 パニックになって、誰も居ない廊下を叫びながら走った。

 「私は露木千夏!露木財閥の跡取り娘!私こそが、私だけが人を利用して良い存在!私こそ・・・」

 千夏は、ふと足を止めた。そこは、美術で余った塗料を置いてある昇降口の隅だった。

 「あは、あはははははははははははははははははっ!!!」

 千夏は叫んだ。

 「全てが滅茶苦茶な、こんな世の中、要らないわ!!そうよ、そもそもは刻日と我柱がいけないのよ!秋希もだわ!亜里、美樹!あんたらが私を利用したのが悪いんだわ!」

 千夏は笑いながら、泣きながら、叫びながら両手を空に掲げた。

 「あはっ、あはははっ!私はこの学校を統べる者!教師、生徒、皆、いなくなってしまえば良い!」

 千夏はブラウスのポケットに入っていたライターを塗料の中に突っ込んだ。

 「あははははははははははははははははっ!!!!この世の中、皆嘘!美しくない!要らない!イらナい、イラナイ、イラナイイラナイイラナイイラナイ・・・」

 爆発が起こり、校舎を炎が飲み込む。

 「アハハハハハハハハハハッ!!」


 ―四季は地に堕ち、世界は枯れる


 追伸。

 私は、この度赤希中学校放火事件を調べた者です。

 赤希中学校放火事件、一九九四年九月十一日午後四時二十分発生。

 被害者は赤希中学校教諭三十二名、全校生徒三百三十六名、合計三百六十八名。

 全員死亡、生存者無し。

 犯人はこの学校の生徒、三年一組十五番露坂千夏。

 動機は一切不明、現場にはライターが落ちていました。

 また、露坂千夏の母親によると、彼女は自意識過剰、及び激しい被害妄想に襲われパニックになることがしばしばあったと云います。

 以上、報告を終わります。


放火オチ・・・

ごめんなさい・汗

この手のモノ初めて書きまして、我ながらぐだぐだだな、と・・・

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