The Fast day.
The Fast day.
「ねぇ、帰りにカラオケ行こうよ」
「え~、お金ないよ!」
「平気だって」
放課後の中学校で、少女達が楽しそうに話していた。
「奢ってくれるよね、千夏?」
そう言って一人の少女が後ろを見た。
「勿論!さぁ、早く行こうよ」
そう言ったのは露坂千夏。父親は大会社の社長で、大金持ちのお嬢様だ。仲良しグループで幅を効かせている。
「やったぁ!」
「君の瞳に乾杯・・・」
「きゃあっ!抱きつかないでよ!」
亜里という少女がなにか思い出したように言った。
「そういえばぁ」
「ん?」
他の少女達が亜里を見た。
「同じクラスの刻日冬騎って奴さぁ」
「あぁ、あの偉そうにしてる奴?」
美樹が聞き返した。
「そう。あいつ、殺シやったらしいよ、昔。同じクラスの我柱夏斗さんの兄さんを、事故にみせかけて・・・」
亜里がそこまで言うと、教室の隅にいた少女が殺気を込めた眼でギロリと四人を睨んだ。
「うぁ~、こっち見たぁ」
「っていうか怖っ!」
「ていうかかさぁ」
千夏が笑って言った。
「友達イナイよーなキモスのコト考えるのやめない?」
「そうそう!テンション下がるしぃ」
美樹も笑った。
―ガラガラッ
笑っている四人の後ろで扉ぴしゃりとが閉まった。
「・・・畜生!」
冬騎は小石を蹴飛ばしながら呟いた。
「並樹・・・」
「おい」
「ッ!?」
冬騎が振り向くと、Yシャツにスラックス姿の少女が立っていた。
「なんだ、春斗か」
「オウ!・・・どうした?暗いぞ?」
冬騎が呟いた。
「何で・・・、何であたいのダチでいてくれる!?」
「はァ?何言って・・・」
春斗は困惑していた。誰だって、いきなりそんなことを言われたら困惑する。
「だから!何で兄貴殺したあたいと」
「あ?」
春斗が眉を潜め、冬騎の言葉を遮った。
「お前、誰かに何か言われたのか?」
冬騎は頷いて言った。
「お前の兄貴を崖から突き落としたのは」
「冬騎」
春斗が冬騎をしっかり見据えて言った。
「あれはただの事故だった」
春斗の気迫に押されて、冬騎はつい俯いて言った。
「露坂千夏、青木亜里、石橋秋希、地道美樹」
「・・・そいつらか」
春斗は冬騎の肩を叩いて言った。
「お前には俺がいるって」
「・・・あぁ」
冬騎に笑顔が戻った。春斗はそれを見て、うれしそうに微笑んだ。
「・・・兄貴」
春斗は部屋で一人写真を見つめて言った。
「問題ない。俺には、ダチができた。兄貴だって恨んだりしてないだろ?冬騎のこと」
そう言って、瞳を閉じた。
「・・・明日から大変だな」
冬騎は一人呟いた。そうして、拳を握りしめた。今は、もう一人じゃない。そう思うと、心に安堵が溢れるのを感じた。
(春斗に迷惑かけちゃうな・・・)
心に残る罪悪感を吹き飛ばすように、大きな欠伸を一つした。
「・・・あぁ、楽しかった」
千夏はベッドに寝転んだ。枕元には、今日亜里たちと撮ったプリクラが置いてある。
「明日からのターゲットは、アイツね」
そう言って一人微笑んだ。
「私はあの学校の頂点に立つ者。全てを決めるのは、私」
「あーあ・・・」
秋希は自室の机に伏せて溜め息をついた。
「いつまで千夏たちに流されちゃうんだろう・・・」
そう考えると、少し悲しくなった。