2の8 アリの巣
砂漠の中心にアリの巣らしき穴があった。穴の周りにはアリモンスターがいた。兵隊アリや歩兵アリ、精鋭アリや将軍アリなどがいる。全てアリの形をしているのだが、モンスターなので体格は大きい。そして名前の違いによって、アリの形や色などが違った。
シュウジたちがアリを倒すと、敵はヘイストポーションを落とした。他にも福音の転移札をドロップした。後者は初めて入手するアイテムであった。シュウジはアイテム欄から福音の転移札の説明を読む。それは地図のマーク地点にテレポートできる札であった。地図を拡大してマークしたい地点を長押しすると、マークすることができた。
シュウジは言った。
「おい。ドロップしているヘイストポーションと福音の転移札なんだが、売れば金になるんじゃないか?」
ヘイストポーションを実際に使ってみると素早さと攻撃速度が1,2倍に上がった。
「本当です! これを集めて売れば、また私たちお金持ちですよ」
「いいねいいねー。今度は俺、武器スキンを買おっと」
「ハルオは武器を買わないと殴るです」
「殴るってひどいよー。みりあさーん」
「とりあえず、集めるのがいいかもしれないですね!」
「ああ」
シュウジはステータス画面の取引所を見た。ヘイストポーションは単価につき大銅貨2枚で取引されている。100個集めれば大銅貨200枚。つまり銀貨20枚であり、金貨にすると2枚だ。ちなみに福音の転移札は単価大銅貨5枚だった。
「みんな、この地点を地図にマークしてくれ。福音の転移札でいつでも飛んで来れるようにな」
「マークってどうやるですか?」
「地図を拡大して、マークしたい地点を長押しだ」
「あ、了解です」
みんながアリの巣の地点をマークした。
「よし、アリの巣の中へ入るぞ」
「こ、ここ、ここへ入るのですか?」
「ああ。中は涼しいと思う。だから狩りもしやすいと思うぞ」
「それは嬉しいのですが、でも入るのはちょっとー」
「何だ何だー。もしかしてミリアさん、びびってるのかーい?」
「ハルオはうるさいです」
「皆さま、わたくしは暑くてちょっと目眩がしていて」とアヤノ。
「アヤノちゃん大丈夫ですか?」
「みんな、入って少し休むぞ」
「分かりましたです」
「よーし、俺が一番乗りだー」
ハルオが巣の穴に近づくとワープするように中に侵入した。
「俺たちも行こう」
「ううぅ、勇気がいるです」
「行きましょう」とアヤノ。
そしてみんながアリの巣の中へと入っていく。
アリの巣の中は暗くて壁がゴツゴツとしていた。思った通り涼しくて、これならストレス無く狩りをすることができそうだ。ミリアがステータスからランタンを取り出して点灯させた。すると、向こうにいたアリたちが気づいて、こちらへと向かってくる。
「アヤノは少し休んでいてくれ。俺とミリアとハルオで倒すぞ」
「はいです」
「オッケー! ここで俺がヘイストポーションを使うぜー」
「皆さま、申し訳ございません」
「アヤノちゃん、気を遣うことないですよー」
「そうだぜー。何て言ったって、俺たちは仲間だからな」
「とりあえず、ヘイストポーションと福音の転移札を集めまくろう」
「また脳死狩猟ですか?」
「ああ、そうしよう」
「よっしゃー、気合いを入れていくぜー」
それからシュウジたちはアリを狩り続けた。アリの攻撃力は高いのだが、それよりもシュウジの防御力の方が勝っていた。少しダメージを食らっても、シュウジはペットアビリティにHP吸収がついている。すぐに回復することができた。少しするとアヤノは具合が良くなったのか、狩りに加わってくれた。
一時間以上、単調な狩りの時間が続いていた。
「おい、ミリア、歌を歌ってくれ」
「歌ですか? 何を歌うですか?」
「JPOPで良いよ。好きな歌を歌ってくれ」
「シュウジさーん、愛してる~♪ 早く~、私の想いに~、気づいてください~♪」
「何だその歌は? 音程がめちゃくちゃじゃないか?」
「シュウジさんなら~、胸を触っても~、許してあげますよ~♪」
「本当か? 触るぞ」
「シュウジさんごときが触って良いものではありませんっ!」
「どっちだ!?」
「シュウジさんを~、スカートの中に入れて~、しまっておきたい~、鍵をかけたい~♪」
「おい、もう歌はいい」
「シュウジさん~、ラヴラヴなの~、早く気づいて欲しいですよー♪」最後の声はソプラノだった。
「なんか、いまいちな歌だったな」
「そんなことないですよ」
「即興だろ?」
「即興です」
「もっとみんなが知っているような歌を歌ってくれ」
シュウジはそう言いながら歩兵アリに『ダークネスブロー』をくらわす。二発くらわすと倒れた。
「シュウジさん~、エッチの時は、優しくしてね~♪」
「おい、そういう歌はもう良い!」
「うふふふふふっ」アヤノが一人で爆笑している。
「ミリアさーん、俺に対する歌も歌ってよー」
「ハルオは~、ゴキブリなの~、頭が能タリンで~、虫並みなのです~」
「ひどい! 何その歌!?」
「ハルオは早く強い武器を買って強くなってくださいです」
「分かったけどさあ。もう、じゃあ二週間、ここに缶詰しよう。そうすれば、一人につき輝光金貨3枚分ぐらい集まるんじゃない?」
ハルオがアリの群れに『シャイニングペインサークル』を撃った。アリたちが一斉に地面に沈む。
「それもありだな」とシュウジ。
「二週間もですか? ちょっと長いです」
「頑張ろう。みんなが強くなるためにさ」
「そうそう! このアリの巣を脳死周回しようぜー」
「わたくしも異存はありませんよ?」
「アヤノちゃんが言うのなら、賛成です」
「俺とアヤノちゃんの扱い方が全然違う!? ミリアさーん、寂しいよ~」
「ハルオはもっと男を磨いた方が良いです」
ミリアがアリたちに向けてスリープパラライズを撃った。アリたちが眠りに落ちる。シュウジとアヤノで近づき、通常攻撃やスキルを浴びせる。ハルオもスキルを撃った。アリたちがどさどさと倒れていく。
ふと向こうから明かりを持った人間たちが近づいてきた。シュウジはしまったと思った。他にもここで狩りをしているパーティがいるようだ。そしてよく見ると、それは知った顔ぶれだった。
「お? なんだてめえら、アヤノたちじゃねえか」
タクジの顔と声である。その後ろにはミユウや他三人の仲間が着いてきている。ギルド『サバイバル』の連中だった。
「おいお前、シュウジとか言ったな。いま俺たちがこのアリの巣で狩りをしているんだよ。お前たちはどこかへ行け」
「は? 俺たちが先にここで狩りをしていたんだ。どこかへ行けとは、聞き捨てならないな」
「殺すぞ」
「殺す? こっちこそ、今度は本当に殺させてもらうぞ」
ミリアが両手を腰に当てて前に出た。
「貴方、どうして喧嘩を売ってくるですか? 仲良く狩りをすることはできないのですか?」
「仲良く? お前らと? ふざけてるな。アヤノを奪っておいて。お前らと同じ狩り場にいるなんて、反吐が出るんだよ」
「じゃあどうしますか? 狩りをするのを時間ごとに分けますか?」
俺たちが話している間にもアリたちは向かってくる。ハルオや『サバイバル』の他の連中がスキルを撃って倒してくれていた。
アヤノがミリアの隣に並んだ。
「あの、タクジ様?」
「何だアヤノ?」
「平和的に狩り場を分ける気がないのなら、今度はわたくしが決闘をいたします」
「ちょっとアヤノ!」ミユウが叫んだ。
「アヤノ、そんなに俺たちが嫌いになったのかよ」とタクジ。
「お願いですから、平和的に解決をしてくださいな」
「くそっ、分かったよ。おいみんな、帰還だ!」
「そんな、せっかく良い狩り場を見つけたのに」
「タクジさん、それは無いっすよー」
「タクジさん、場所を区切って狩り場を分ければ良いじゃないですかー?」
『サバイバル』の他の連中が不平をこぼす。タクジはわめくように言った。
「うるせえぞ! 団長は俺だ! みんな俺の言うことを聞け! 帰還だ!」
「仕方無いか」とミユウ。
「ミユウ、いいの?」
「ちっ、従いまーす」
「へーい」
そして『サバイバル』の連中はステータスから帰還の札を取り出し、使用した。最後にタクジは言った。
「お前らもう話しかけんな」
青白い柱となって姿を消す。後味の悪い一件であった。シュウジたちはため息をついて、顔を向け合う。
「みんな、大丈夫か?」
「嫌な人たちですー」
「オーライじゃん? 結果的に俺たちがこの狩り場を独占できたんだからさー」
「皆さま、もと同ギルドのメンバーがすいません」
「アヤノちゃんは謝らなくて良いです」
「そうだぞ。とりあえず俺たちは、気にせず狩りを続けよう」
「それが良いです!」
「よーし、ここで俺が歌を歌うぜー。みりあっさーん♪ 早く~、俺の想いに気づいて欲しい~♪」
「最悪な歌です」
「えー! なんでー!? 傑作だったのに!」
「とりあえず、狩りをしましょうか」とアヤノ。
「そうだな」とシュウジ。
そしてその日から二週間、シュウジたちはこもるようにアリの巣に通った。ヘイストポーションと福音の転移札の売れ行きは良く、再び一人につき輝光金貨三枚ほどのお金が集まった。ハルオは今度こそ武器を買ったようで、ヴォイドボウという弓だった。
――ヴォイドボウ:攻撃力+1280。光属性ダメージ2倍。
ハルオは火力職としてのダメージを取り戻すことができたのだった。シュウジは25レベルになった。他のみんなも同じぐらいである。新しいスキルをまた一つ覚えることが出来た。シュウジたちはまたゼニスロードに挑み、討伐に成功した。クエスト報酬として、みんなが服のお守りを入手した。ステータス画面には新しく、スキンにお守りを装備する欄が出現した。服スキンにお守りを装備することで、セットスキルのスロット1のランクがまた一つ上がった。
二週間の間にギルドバトルが二回ほどあった。格上のギルドが相手であり、『あるりなみーみ』は敗北を重ねた。




