2の7 ゼニスロード
【アンクルミーデ村から南の砂漠地帯】
ひどい暑さである。砂漠の砂の道をシュウジたちは歩いていた。ここに来るまではペットに乗って走ってきたのだった。アンクルミーデの村長から受注したクエストであるゼニスロードを討伐しに来ているのだが、目標モンスターは中々見つからない。
ゼニスロードは砂漠を横断しようとする村民を襲うなど、被害を出しているという話であった。ボスの姿はトリケラトプスのような姿であり、怒ると火を吐くという話だ。まるで怪獣であるとシュウジは思った。
ミリアがグチグチとこぼした。
「シュウジさーん、私暑いですよー。どうにかしてくださぁい」
「知らん、我慢しろ。それよりさっさとゼニスロードを見つけてくれ」
ちなみにこの世界の『勇者』は汗をかかない。
「ミリアさーん、このままじゃ俺、干からびるよー」
「ハルオ様、我慢してくださいな。ハルオ様は殿方なのですから」
「そんなー、そんなこと言ったって、こりゃあ暑すぎるよー」
シュウジは舌打ちをした。確かにこの砂漠は暑すぎる。暑さによってHPが減ることは無いようだが、みんなのストレスが溜まっていた。
「とりあえず、水でも飲んで我慢しよう」
「シュウジさん、私もう、買ってきた水が無くなったですよぉ」
「じゃあポーションを飲め」
「あ、その発想はナイスです」
ミリアはステータス画面を呼び出してポーションの小瓶を取り、使用せずに、本当にごくごくと飲んだ。
「ミリアさんずるい!」
ハルオも真似して飲み出す。
「ではわたくしも」
「俺もだ」
みんなでポーションを飲み、喉を潤すことになったのだった。ポーションの味は甘酸っぱくて、少し薬くさかった。ポーションを飲み終えると、みんなでまた歩き出す。
「シュウジさーん、ここでみんながキュッと冷えるようなダジャレを言うですよ」
「布団が吹っ飛んだ、とかか?」
「シュウジさんからは座布団二枚を没収です」
「じゃあ今度はお前が言ってみろ」
「きらりらぴーんっ♪ みんなのアイドル、みりあちーの登場だぞっ?」
「それのどこがダジャレなんだ?」
「あれ、面白く無かったですか?」
「面白く無いというか、意味が分からなかった」
「あはははっ」アヤノは一人でウケている。
「ほらっ、シュウジさん、笑っている人がいるです」
「いや、俺には分からん。共通語のダジャレを言ってくれ」
「分かりましたです」
「おう、頼む」
「きらやかぴーんっ♪ 猫がミリアと寝転んだっ♪ 【ゲーム界】で一番スカートの短いアイドル、みりあちーだぞっ♪」
「猫が寝転んだのところしか分からんな」
「シュウジさんには私のお笑いが伝わらないですぅ」
「ちなみにスカートの短いじゃなくて、スカートの無いアイドルにすれば良いんじゃないか?」
「シュウジさんの、エッチスケベ変態!」
「いやいや、俺はお前を面白くしてやろうと思ってだな」
「きららかぴーん♪ スカートの無いアイドル、みりあちーだぞ」
「露出狂だな」
「やーい、団長の露出狂ー」
「うふふふふっ」アヤノはやはりただ一人ウケている。
「ハルオには言われたくないです。大体その尻尾はなんですか?」
「え? これ!? やっと気づいたのかい? 輝光金貨三枚で買ったんだ! どうだー、イカスだろー? イカスイカス、俺イカース」
ハルオの尻には白と黒のしましまの尻尾が生えている。尻尾スキンであった。
「スキンを買っても強くならないですよ? ハルオ」
「えー? そりゃあそうだけど、テンション上がるじゃーん」
「ハルオ以外のみんなのテンションは激減です」
「どうしてー?」
「ハルオが強くなってないからです」
「まあ、でも俺は攻撃力が高いから、今のままでも大丈夫だよー、みりあさーん」
「おいみんな、おいでなすったぞ」
なだらかな砂丘の向こうに競走馬ほどの体躯をした怪獣が歩いているのが見えた。
――ボス、ゼニスロード。
「みんな、武器を持て」
「かしこみりあです」
「かしこあやのですっ♪」アヤノはやけにルンルン気分な声色だ。
「かしこはるおだぜー」
「いつも通りの連携で行くからな」
四人はすでにパーティを組んでいた。シュウジを先頭に、その焦げ茶色の怪獣へと近づいていく。
シュウジは『シールドエンチャント』を使った。被ダメージを50%カットできるスキルである。怪獣がこちらへと突進してくる。
ミリアが唱えた。
「『スリープパラライズ』」
怪獣を中心に半径五メートルほどの黒い魔方陣が発生した。怪獣は寝転んで、ぐうぐうといびきをかく。それは範囲内のモンスター眠らせるスキルだった。シュウジは嬉々として叫んだ。
「ミリア、ナイスだ!」
「シュウジさん、私に惚れるが良いです!」
「惚れないけどな!」
「もう使うのやめようかな!」
「お前の胸のでかさには惚れた!」
「褒められちゃったですぅ♪ えへへっ」
「馬鹿言ってないでやるぞ!」
シュウジは寝ているゼニスロードに『ダークネスブロー』で斬りかかる。一万を少し超えるほどのダメージグラフィックが出た。逢魔刀を装備しているおかげで以前よりもダメージが爆発的に上がっている。
しかしシュウジはおかしいと思った。そこら辺の雑魚モンスターになら、『ダークネスブローは』は2万を超えるダメージが出ていた。このボスモンスターは、防御力が高い上にダメージカット率も高いということになる。闇属性ダメージ減少率がついている可能性もあった。
ミリアがドットダメージスキルを豪雨のように降らせている。彼女も強い武器を買ったおかげで与ダメージがぐーんと上がっていた。他にもレベル20になって習得したパッシブスキル『サディスティックプリズン』のおかげで、ドットダメージの入る速度が2倍に上がっている。
比べて、ハルオも攻撃スキルを使うのだが、ウキウキコロンと戦った時と同じぐらいのダメージしか出せていない。20レベルで覚えたスキル、『フレアダイヴ』は火属性の単体攻撃であり、空から九つの火の矢を振らせるというものだった。彼が武器ではなく尻尾を買ったことに、シュウジは今更ながら腹が立った。
現在、シュウジとハルオの出しているダメージは同じぐらいである。シュウジの与ダメが高いのは『ダークネスブロー』の回転率が速いからだった。ハルオはタンクと同程度のダメージしか出せていないということになる。火力職失格だった。
「ハルオ! もっとダメージ出してくれ!」
「だ、出してるよー! シュウジくーん」
「ハルオ全然出てないです!」とミリア。彼女の方が何倍も出ている。
「皆さま、反省会はボスを倒した後で」とアヤノ。
アヤノは『イチゴ大福』を使い、みんなの攻撃速度を上げてくれていた。他にも20レベルになって習得した『チョコレートパフェ』の効果で、自身のHPの基礎値の半分を攻撃力に変換することができた。彼女のHPの基礎値は22100である。なので彼女の攻撃力に11050が加算されている。数値としてはとても高いのだが、残念なことに彼女には強い攻撃スキルが無い。点火というスキルがあるにはあるが、スキルによるダメージ増加率は無かった。それでもアヤノはみんなの役に立とうと、ボスをバックアタックしてくれた。新しく買った武器の泡立て器でゼニスロードの尻を一生懸命叩いている。
やがてゼニスロードの金縛りが解けた。目を覚ます。
「ぐお! ぐおーぐ!」
ボスが自分に回復スキルをかけた。せっかく半分ほどまで減っていたHPが全回復する。マジか!?
ボスは頭を振って正面のシュウジを攻撃した。そしてトゲの生えた尻尾を振り、後方にいるアヤノを攻撃する。ミリアとハルオは遠距離職のため、尻尾が当たらなかった。
「大丈夫か? アヤノ!?」
「平気でございます! わたくしはHPが高いので!」
「一端離れろ!」
「かしこあやのですっ」
そのセリフはもう定着してしまったようだった。アヤノはボスから距離を取り、バフスキルをかけることに集中する。
ゼニスロードはHPが減っては自分に回復スキルをかける。回復力が半端ない。これではいつになっても倒せないだろうと思われた。シュウジたちパーティの完全な火力不足である。
「ハルオ、もっと火力出してくださいですよ!」
「だ、出してるんだけどなあ、ミリアさーん、怒らないでよー」
「私の半分も出てないんじゃないですか?」
「そ、そそそ、そんなことないよー、ミリアさーん」
「みんな撤退だ!」
シュウジがそう叫ぼうとした寸前だった。彼の横合いからボスに拳を打ち込む黒いスーツの男が現われた。見るとハセクである。彼の頭上のHPバーにはレベルが25と表示されていた。シュウジは焦って叫んだ。
「おい! ボスを横取りするつもりか?」
「何を言っているんだい? ずっと見ていたけどね、ふふ、君たちじゃ倒せないみたいだから、僕がもらいうけるよ」
シュウジは舌打ちした。
「おい、みんな! 攻撃を止めて一端離れろ!」
「かしこみりあです」
「シュウジくん、分かったよー」
「かしこあやのました!」
シュウジたちはボスから遠ざかるように走った。ゼニスロードはハセクにターゲットを変えて攻撃を再開する。ハセクはバツンバツンと攻撃スキルを当てて、たった一人でゼニスロードのHPをドクドクと削っていく。そして瀕死まで追い込んだ。怒った怪獣はたまらず火のブレスを吐いた。ハセクは華麗なステップで回避し、またモンスターに攻撃スキルをたたき込む。やがてボスが倒れた。
「ぐぼおぉぉぉぉおおお!」ゼニスロードの断末魔である。
「すごいな、あいつ」シュウジは感嘆の吐息をついた。
「ボスを横取りされたです!」ミリアの声は怒っていた。
「そうだぜー、シュウジくーん。あいつずるいよー」
「いや、それは違うな。俺たちだけでは倒せなかった。火力不足だった。だから、ハセクは自分一人で倒したようなものだ」
「わたくしにもそう見えました」
ハセクがこちらに歩いてくる。一定の距離を置いて立ち止まり、高らかに笑った。
「はははっ、君たちは四人もいるのに、こんな雑魚ボスを倒せないのかい?」
「うるさいです! 貴方はどっか行ってくださいですよ」
「ハセク、あんた、どこでレベル上げしたんだ?」シュウジが聞いた。
「アリの巣だよ。どこにあるかは教えないけどね。ふふふ、君たちも探して行ってみると良いんじゃないのかな?」演技がかった仕草で両手を開く。
「そうか。ところで、俺たちに何か用事か?」
「用事は無いね。ただ、一つだけ言っておきたいことがあるんだ」
「それは何だ?」
「君たちは雑魚だね、ははっ、あっはは、あっはっはっはっはー!」
ハセクはひとしきり笑い終えるとステータス画面を出した。アイテム欄から帰還の札を取り出して、使用する。青い柱となってこの場から消えた。
ミリアが苦々しい口調でこぼした。
「何か、すっごく悔しいです」
「本当だよー、俺たちよりちょっと強いからって、調子に乗るなよなー」
ミリアがハルオの肩に手を置いて揺すった。
「ハルオ、どうしてあのお金で武器を買わなかったですか! ハルオがお金を上手に使って、もっと強くなっていれば、ボスを倒せたですよ!」
「そ、それは、ご、ごめん……」
「わたくしも、火力が出せない職なので、すいません」
「アヤノちゃんは悪くないです!」
「おい、喧嘩してても始まらないぞ。とりあえず、俺たちはボスを倒せるようにレベリングしよう」
「またレベリングですかー?」
「そりゃあそうだ。今聞いたところのアリの巣に行ってみよう」
「アリの巣はどこにあるですか?」
「ステータスオープン」
シュウジはステータス画面を出して、地図を拡大して調べた。砂漠の中心にアリの巣という表示を見つける。
「ここから近いな」
「じゃあ、行ってみるです」
「ご、ごごご、ごめんよー、みりあさーん、みんなー」
「ハルオ様、次回お金を手に入れた時には、気をつければ良いのですよ」
「よし。行くぞ」
そしてシュウジたちはアリの巣へと歩いて向かった。
◇◇◇
名前 ハルオ
レベル 20 詳細
HP 45000 {2000(基礎値)+1000(ステータスポイント10消費)}×10(指輪カード)×1,5(ペットアビリティ)
攻撃力 2480 {60(基礎値)+180(ステータスポイント180消費)+8(武器)}×10(弓の極意LV3)
防御力 70 60(基礎値)+10(防具)
素早さ 60
魔攻 20
魔防 70 60(基礎値)+10(防具)
運 0
移動力 100%
アクティブスキル 『バーニングアロー』『ブリリアントレイン』『シャイニングペインサークル』『フレアダイヴ』
パッシブスキル 『弓の極意(効果:攻撃力2倍)』
セットスキル スロット1『弓の極意LV3(効果:攻撃力10倍)』
スロット2『シャイニングペインサークルLV2』
スロット3『ブリリアントレイン』
スロット4『バーニングアロー』
スロット5『フレアダイヴ』
ユニークスキル 『絶対障壁』
武器 ヒットボウ(攻撃力+8)
防具 『木の帽子』『木のグローブ』『木の鎧』『木のベルト』『木の靴』(合計 防御力+10 魔防+10)
スキン あるりなみーみのユニフォーム アゲハチョウウイング ワオキツネザルの尻尾
ペット 寂しがりのウサピョン(ペットアビリティ:HP上昇率1,5倍。光ダメージ上昇率2倍)
注 ハルオはレベルアップごとにHPが100上昇する。そして魔攻と運以外のステータスが3上昇する。魔攻は1上昇し、運は全く上がらない。
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