2の6 オークション
【アンクルミーデ広場】
広場に戻ると、シュウジはステータスを呼び出し、スキンをウキウキコロンに変えた。さっき討伐したばかりの巨大な丸っこい、ゆるキャラのようなモンスターへと姿を変える。周囲にいた知らない人たちがびっくりしたような声を上げていた。シュウジは仲間たちを探してぴょんぴょんと跳ねた。そしてミリアを見つける。
「よお、ミリア」シュウジの声はウキウキコロンの高い音だった。
「え、えええええっ!? シュウジさんですか? どうしてボスモンスターになってしまったですか?」
驚いているようだ。それはそうだろう。シュウジは心の中でニヤリと笑った。やがてハルオとアヤノも集まってくる。
「シュウジくーん。もしかしてスキンカードを取ったのかーい? イカスイカス、それイカスぜー!」
「これはまた、ご立派なお姿になりましたね」とアヤノ。
「実は俺は、さっきのボス戦でレアドロップをしていたんだ」
「そ、そうなんですね。それはスキンカードですか? それとも変身カードですか?」とミリア。
「スキンカードだ。今から俺は、このスキンカードをオークションに出そうと思う」
スキンカードと変身カードは別物である。スキンカードは見た目を変えるだけである。比べて変身カードも見た目を変えるのだが、変身中に一度死んでも変身が解けるだけという効果があった。
「う、売れますかね?」
「まあスキンカードだし、売れるだろうな。この姿は可愛いし、滑稽だし、ネタとして使いたい人には需要がありそうだ」
「言いたいことは分かります」
「ところでミリア。売った代金の配布のやり方を決めてくれ」
「そ、それはもちろん。取った人のものですよ」
「えー! 違うよミリアさん! 四人で戦ったんだから、四等分するべきだと思うぜ俺は」
「わたくしは、みなさんの決定に従いますよ」
「俺も四等分するべきだと思う。ソロで取ったのならその人の物だが、四人で戦った場合は四等分とするのがフェアだ」
「シュウジさんがそれで良いのならそれで良いです!」
「よし!」
シュウジはまたスキンを白銀の王子様に変更した。人間の姿に戻る。そしてステータスでオークション画面を出し、ウキウキコロンのスキンカードを出品する。タップする前に言った。
「輝光金貨1枚で出品してみるから。売れたら声をかけるよ」
「輝光金貨ですか!?」
「ああ。白金貨10枚分だな。他のスキンカードはそれぐらいで出品されているし。相場だと思うぞ」
「ふええ、私たち、お金持ちです」
「やったぜー!」
「わあ」とアヤノ。
ちなみに銅貨一枚を日本で言う一円とすると、輝光金貨は一枚で百万円の価値だ。
「よし、それじゃあ服屋に行こうか」
「そ、そうですね」
「行こうぜー! あー、なんか俺、すげえ楽しくなってきた!」
「良いこともあるものですね」とアヤノ。
そして四人で服屋へと向かう。シュウジたちは服屋で取ってきた素材と、一人につき銀貨一枚を支払い、ギルドユニフォームのスキンカードをもらった。みんなピンク色のTシャツであり、女性は黒のスカートである。男性は下が黒のズボンだった。実際にスキンを選択して着替えてみた。
「アヤノちゃん、そのユニフォーム可愛いですぅ」
「ミリア様も、可愛いですよ?」
「へー、案外俺も似合ってるぜー」
「まあ、思ったより服がだるっとしていて、悪くないな」
みんなで鏡を見ながら新しいスキンを眺めて楽しんだのだった。女性のTシャツはタイトに出来ていて、体の輪郭がはっきりとしている。下はミニである。代わって男性のTシャツは生地が厚くだるめに出来ていた。ズボンは膝丈まである。
……ミリアは着痩せするタイプなのか、本当に胸が大きいな。
……それに形も良いし張りもある。
……やべ、興奮してしまった。恥ずかしいな。
シュウジが聞いた。
「ところでミリア、今日はこれからどうするんだ?」
「そうですね。昼食までにはまだ時間がありますし、レベリングでもしますか?」
「そうだな。このさき半月ぐらいはレベリングに集中するべきだと思う」
「半月も!? シュウジくーん、どれだけレベル上げる気なのー?」
「死んだら元も子もないですね。わたくしもレベリングに賛成です」
「よし。それじゃあ四人とも、草原に行くですよー!」ミリアが右手を上げて振る。
そしてこの日から、レベル上げのために雑魚モンスターを狩る日々が始まった。ちなみにオークションに出したウキウキコロンのスキンカードは値段が何度もつり上がり、最終的には12輝光金貨で売れたのだった。シュウジはしっかりと四等分し、メンバー一人につき輝光金貨3枚が入手される。
シュウジは手に入れたお金をとにかく上手に使おうと思った。夜、宿屋の一室でステータス画面から見られるオークションと取引所を眺めて研究をした。さて、何を買うべきか?
出た答えは装備の購入、である。
シュウジは火力をもっと出したかった。彼のポジションはタンクであり、日々の狩りやボス戦などに火力を出す必要性は薄い。しかし、いつまたPVPを挑まれるか分かったものではなかった。加えてギルドバトルで活躍するためにも火力が必要だ。オークションに出ている逢魔刀という武器を見つけた。
――逢魔刀、攻撃力+980、闇属性ダメージ増加率2倍。
シュウジは入札し、輝光金貨一枚ほどの値段でそれを手に入れた。手に入れる以前の彼の攻撃力は60である。それが17倍以上に上がった。おかげで敵を攻撃した際に出るダメージも17倍ほどに上がり、通常攻撃一発でも1000に近いダメージが出せるようになった。
もう一本、剣を買った。折れることの無い武器が欲しかった。超硬合金の剣という名前であり、攻撃力は180と弱く、追加効果は無かった。
他にも防具と装飾品を買った。残りのお金をつぎ込む気持ちで、タテガミ虎の毛皮セットを買った。彼の防御力と魔防の基礎値はパッシブスキル(守りの礎LV2)の効果もあり、3000以上に上がった。タテガミ虎の毛皮のセットボーナス効果により、火ダメージ減少率がついた。火属性スキルダメージを二分の一にできる。
防具を揃えた時点で残りのお金は金貨15枚ほどであり、装飾品はあまり質の良いものを買えなかった。買えたのはドワーフネックレスなどのドワーフセットである。装飾品の効果で素早さの基礎値が50上昇した。セットボーナス効果は無かった。
シュウジは仲間たちに何を買ったら良いのか相談を受けた。しかし自分で考えるようにと相談のほとんどを突き放した。強くなるためには、強いアイテムを入手すれば良いというばかりではない。自分で考え、選び取る力が必要である。それはシュウジ自身にも言えることだった。
半月が経ち、シュウジのレベルは20に上がった。他の三人のレベルも似たようなものである。これ以上、同じ場所で狩りをしてもレベルが上がらないという話になり、狩り場のランクを上げることとなる。
シュウジはステータスポイントの振り方について迷いに迷った。上げるのであればHPか運の二択である。なぜなら他のステータスは装備で上げられるからだ。もちろんHPも装備で上げられるのだが、HPは高いに越したことは無い。なのでHPを上げるか、会心の一撃とレアドロップ率を上げるか、である。彼の答えは運値の上昇であった。
しかしそこで予想外が起こる。運の値は100がマックスであり、それ以上ステータスポイントを振ることができなかった。仕方無く、シュウジはHPに振ることにした。
この半月のうちにギルドバトルが二回あった。両方とも出場したのだが、バトル相手のギルドが格上過ぎて太刀打ちできなかった。それこそお話にならなかった。ミリアとハルオがワンキルされてしまうなど、描写するのも苦しい戦いであった。シュウジたちは悔しい思いをしつつ、もっと強くなろうとみんなで話し合った。
村のクエストを二つクリアした。一つは村のおじいさんを思い出の森の泉に連れて行くというクエスト。村のおじいさんを目的地へ連れて帰ってくるだけというものであり、特にボスモンスターが出る訳でもなかった。足の遅いおじいさんを雑魚モンスターから護衛しつつ、目的地へたどり着き、そしてまた村に戻るために護衛をするというだけである。クリアすると一人につきエクスポーションを100個もらえた。ボス戦では必須の回復薬であった。
二つ目は病院に流行病の薬を50個売るというクエストだ。薬は調合で作るしかなかった。ミリアとアヤノが連日、夜遅くまで調合を試してくれたようで、クエスト受注から二日目で流行病の薬の調合の仕方が判明した。ちなみに見つけたのはアヤノだった。サラダバーネットとパープルパセリとアンクルルッコラの組み合わせだった。クリアすると調合のレシピの資料がもらえた。読むとエクスポーションや解毒薬の作り方が分かった。他にも30秒間属性ダメージを二倍にしてくれるアドバンスポーションの制作方法も書いてあった。
その日の朝である。宿屋の食堂での食事中、ポテトサラダを口に含みつつミリアが言った。
「ギルドバトルに勝つためにも、もっとメンバーを増やしたいですぅ」
「いいねー! 俺ももっと人数を増やしたいぜー」
ハルオの尻にはワオキツネザルのような白と黒のしましまの尻尾が生えている。尻尾スキンを買ったようだった。しかし誰も話題に上げようとしない。
「それは良いですね」
「俺は反対だ」シュウジは首を振った。
「やっぱり、人が苦手ですか? シュウジさん」
「ああ。ごめんな、本当に苦手なんだ。これ以上増えるとなると、頭が痛い」
「シュウジくーん、何が苦手なのー?」
「そうだったのですね……」とアヤノ。
「分かりましたシュウジさん。増やさない方向で行きますです」
「ああ。それにギルドバトルに勝ちたいのなら、連盟機能を使えば良いと思うぞ」とシュウジ。
「連盟ですか?」
「ああ。ギルド同士がギルドバトルの時にだけ仲間になって、ギルド戦を戦えるらしい。ギルド三つまで連盟を組むことができるぞ」
「それで行きましょう!」とミリア。
「ああ」
「シュウジくんは、人が増えると何が困るんだい?」
「すまん。前世ではいじめられっ子だったせいでな、人間が苦手なんだ」
「全然いじめられっ子に見えないよー。シュウジくんは」
「まあ、家庭の事情って奴だ」
「ふーん」とハルオ。
「でしたら、連盟を組んでくれるギルドを探しましょう」アヤノが両手のひらを合わせた。
「ですです」
「よーし、探すぞー!」とハルオ。
「とりあえず、今日は村の最後のクエストをクリアしに行こう。えっと、ゼニスロードの討伐だったか?」
「たぶんボス戦です!」
「よーし、俺の弓矢で仕留めてやるぜー」
「わたくしがお守りしますわぁ」
「何度も現われるボスなら、定期的にボス狩りするのも有りだな」
「レアドロップ狙いだねー。シュウジくんは運が高いから」
「ああ」
「よーし、みんなでボスを狩りまくろうぜー」
「危険なボスじゃなければ良いんだけどな」
「シュウジさん、守ってくださいですぅ」
「シュウジ様がいてこそ、ターゲットを維持することができますね!」
「えー! 俺が火力を出して倒しているんだけどなー」
「今のメンバーは誰一人欠けても、よろしくないな。だからみんなのおかげだ」
シュウジは言いながら野菜コロッケをかじる。愚痴がこぼれそうになるのを必死にこらえていた。ボス戦はシュウジから突っ込んでいかなければいけない。プレッシャーがきつかった。そしてこの【ゲーム界】のボスの初撃はどうしてか重いようになっている。何よりも、死人を出す訳にはいかない。自分がみんなを守るだなんて大きなことを言うつもりはない。しかし、実質的に現実は、まさにその通りだった。
……ギルドメンバーが何人も増えれば守りきれない。
……死人が出れば、雰囲気が悪くなる。
……それは避けたい。
それからシュウジは口数が少なくなり、静かに朝食を摂ったのだった。
……大体、ハルオはどうして尻尾を買ったんだ?
アヤノの四つ目のアクティブスキル『オートポーション』→パッシブスキル『長命の秘訣』に修正しました。
シュウジのパッシブスキル『守りの礎』を防御力だけでなく魔防も上がるように修正しました。




