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2の4 アヤノの事情



 【アンクルミーデ村、割烹アジサイ】



 食堂に入りテーブルにつくと、みんなで好きな料理を頼んだ。シュウジはガツンとビールとステーキ丼を頼むことにした。今日は疲れたので、酒を飲みたい気分であった。


「シュウジさんお酒を飲むですか?」


「ああ。今日は酒が飲みたいな」


「じゃあ、私も頼むです」


「お子様には出してくれないんじゃないか?」


「……いま、私をお子様扱いしましたですね?」


「違うのか? 小学生でも通ると思うが」


「こんなに胸の大きな小学生がいるとでも?」


「確かに、胸だけは大人だな」


「そうなんです。胸は大人です。よって私は大人ですっ」


「ちょっと触っても良いか?」


「シュウジさんごときが触っても良いものではありませんっ」


「あははっ」アヤノが両手を叩いて笑っている。


「アヤノちゃーん、シュウジさんがいじめますですぅ」


「二人は仲が良いのですね!」


「おーい、俺を置いて行くなよな。俺も仲が良いぜー」


「ハルオのギルドポジションは奴隷です」


「そんな! 奴隷だなんて訳ありなポジションだなー。俺、なんか重要キャラクターな気がしてきた!」


「ハルオは通行人Aです」


「奴隷かつ通行人Aなの!? それって別に奴隷じゃなくても良くない!?」


「ドナドナのハルオなのですよ?」


「売られていくのか俺ー。なんか寂しいっ」


「そして誰も買わないですよ」


「やばいよそれ! 殺処分されそうじゃん!」


「おいミリア、奴隷はひどすぎだろ」


「あ、ごめんなさいです」


「タヌキにしよう」


「賛成です!」


「ええ! タヌキなの!? なんか生きる希望の光が差してきた。でもせめて人間が良い!」


「あははっ」アヤノは目尻をこすって笑っている。


「ほらシュウジさん、アヤノちゃんもイジってあげるですよ」


「イジってもらえるんですか?」アヤノの目が期待に光る。


「そんなこと言われたってな。まだ出会ったばかりだから、イジり方がよく分からん」


「ではわたくしがシュウジ様をイジってあげますよ」


「おう、やってみてくれ」


「シュウジ様、お風呂になさいますか? ご飯になさいますか? それとも、わ、た、く、し?」アヤノが自分の顔を人差し指でさす。


「お前を風呂に沈めてからご飯にしよう」


「風呂はまだお湯を張っていませんでした」


「そりゃあ残念だ」


「夕食はイナゴの佃煮です」


「へー、俺結構好きだぞ、イナゴの佃煮」


「さあ、どうぞ」


「うん、美味いな」


「あ、そっちはゴキブリの佃煮ですよ」


「何て物食わせるんだお前は!」


「ハルオ様に食べさせようと思いまして」


「全部ハルオにやるわ」


「えー! 俺だってゴキブリはさすがに食えないよー。シュウジくーん」


「仕方無いですねー、ここで私の唐揚げをお裾分けするです」とミリア。


「おお、悪いな。唐揚げもらうわ」


「ゴキブリの唐揚げですよ」


「お前らゴキブリ好きなんだな! そんなにゴキブリが食べたいなら、そこら辺の民家に行って一匹でも二匹でももらってつまんでこいよ! ちなみに生で食って来い!」


「あははっ」アヤノがお腹を抱えて笑っている。


 そこに食堂のウェイトレスが食事を運んできた。「賑やかなテーブルですねー」とコメントを残しつつ、運び終えるとカウンター奥へ行ってしまう。シュウジたちは「いただきます」を言って食事に取りかかった。


「それにしても、さっきの連中はなんだったんだ?」とシュウジ。


「私も気になるです」


「俺は気になんねーふりをしよっと」


「あの、実はあの人たちは、わたくしの前のギルドの仲間だった人たちなんです」


 アヤノがとつとつと語り出した。


「前のギルドの名前は皆さま知っての通り、サブリナです。サブリナの団長だった人は、コウジ様と言いました。コウジ様はミッドベル村でギルドを作り、この【ゲーム界】に来たばかりの人たちを助けるために、メンバーを募集していました。わたくしも入れてもらった口です。メンバーは一緒に狩りをして、一緒にご飯を食べて、いつも和気藹々とした雰囲気でした。ですが、あのボスに会ったのをきっかけに、ギルドは崩壊してしまったのです」


「ボス?」とミリア。


「はい。メリーグーテルという名前のボスでした」


「ああ。あの雑魚な」シュウジはビールを飲んで小さくげっぷをした。


「雑魚、でしたか?」


「ああ。初見で俺は倒せたし、そんなに強いボスとは思わなかったけど」


「そうでしたか。ですがわたくしたちメンバー11人であのボスの部屋に行った時、みんながメリーグーテルの姿に怯えて、立ち向かう勇気のある者は少数でした。特に団長のコウジ様はひどく震えており、出口の壁から離れようとしませんでした。しかしメリーグーテルを倒さなければ、その後ろにあるペットのテイムの実を入手することができません。コウジ様以外の殿方たちは勇気を振り絞り、メリーグーテルと戦いました。その時、わたくしは『イチゴ大福』という補助スキルを覚えていましたのでパーティメンバーにかけました。気づけば女性たちも勇気を振り絞って、メリーグーテルを攻撃していました。そして何とかメリーグーテルを倒すことができたんです。ですが、メンバーの4人が死にました。死んだ全員が女性でした。そして、コウジ様は最後の最後まで攻撃に加わりませんでした。さっきシュウジ様と試合をしたタクジ様という殿方がいましたよね。彼はサブリナの副団長でした。タクジ様は激高し、団長であるコウジ様に詰め寄りました。そして言い争いのすえ決闘になり、タクジ様はコウジ様を殺してしまったのです。タクジ様はみんなに言いました。サブリナを抜けて、新しいギルドを作ろう。そして自分が団長をやると。残されたメンバーは6人でした。わたくし以外のメンバーはタクジ様に共感し、新しいギルドを作りました。ギルド名は『サバイバル』と言うそうです。その名の通り、メリーグーテルの戦いで生き残った者たちという意味でした。ですが、わたくしだけは入りませんでした。それは、どうしてかというと……」


 アヤノは俯いて黙り込んだ。シュウジたちは続きの言葉をじっと待った。アヤノの両目が寂しそうに細められた。


「わたくしは、団長のコウジ様の、恋人だったのです」


「ふーん」ミリアは言って、肉と野菜の卵とじを口に運ぶ。


「そりゃあ、『サバイバル』には行けないよなあ。もしかしてアヤノちゃんは、タクジって奴を恨んでいるのかい?」ハルオは蕎麦をすすっている。


 アヤノは首を振った。


「恨んではいません。コウジ様とは、短い付き合いでしたから。薄情ととられるかもしれませんが、わたくしはコウジ様を殺されても、怒りの感情が湧きませんでした。タクジ様が怒りに狂い、コウジ様を殺したことに納得できるのです。ですが……どうしても『サバイバル』に行く気にはなれませんでした。それはせめてもの、コウジ様への義理と言いますか、なんと言ったら良いのでしょうか」


「おかしな話だな」とシュウジ。


「何がですか?」とアヤノ。


「そのコウジって奴は、出会って日も浅いのに、アヤノとつき合ったんだろ? どっちかが一目惚れしたってことか?」


「いえ。そういうわけでは……」


「確かにそれは気になりますぅ」とミリア。


「うんうん。一目惚れじゃないんなら、どーして二人はつき合ったの?」


「たぶん……」


 アヤノは口をにごして言った。


「コウジ様は、恋人バフが欲しかったんだと思います」


「恋人バフ!? 何それ?」


「その男最低ですぅ」


「ゲームではよくある話だな」


「そうなの!? シュウジくん」


「ああ。団長という立場を利用して団員に告白し、恋人を作るパターンだ。告白された相手は断りづらい。なぜなら断ったら気まずいからだ。断れば自分がギルドを出て行かなければならないかもしれない。そしてそれ以上に、ギルド内の雰囲気が悪くなる。そして人間は一目惚れでも無い限り、そんなに素早く恋に落ちたりしない。では団長はどうして恋人を作ったのか。体目的という線もある。実際この【ゲーム界】はセックスができるみたいだしな」


「わたくしはそんなことはしていませんっ」


「そうか。いやすまん、あくまで可能性の話なんだ。コウジという奴が何を狙っていたのか。まあさっきアヤノが言った通り、恋人バフが欲しかったんだろうな」


「恋人バフって何すかー?」


「つまり、恋人というアクセサリーをつけてみんなに自慢しようって腹だった、ってことさ」


「最悪だねーそれ。全然つまんないじゃん。それどころか、アヤノちゃんは将来誰かと恋に落ちる可能性があるのに、コウジとつき合っていたらそれもできないよ」


「ああ、そうだな。まあ、俺の口からコウジさんとやらを悪く言うのはこれで止めるよ。大体知らない人だしな」


 しばらく沈黙があった。みんなが自分の食事に手をつけて、沈黙が晴れるのを待った。やがてミリアが言った。


「とにかく、もう忘れるですよ。これからは『あるりなみーみ』を盛り上げれば良いだけです。団長は女性の私ですから、恋人バフ狙いの行動をしたりしないので」


「ミリアさーん。俺となら恋人になってもいいんだぜー? 恋人バフをあげよう」


「ハルオのバフはマイナス効果しか生まないので拒絶です」


「そんなー、くそーこうなったら男を磨いてやる」


「話題を変えよう」


 シュウジはことさら、明るい口調で言った。


「明日は何をしようか?」


「あ、それなんですが。私気になっていることがあるんですぅ」


「気になっていることでございますか?」とアヤノ。


「うん。それがなんですけどー、『あるりなみーみ』のユニフォームスキンを服屋で作れるみたいですよ!」


「それは欲しいな」


「そうだねー。俺もこの平民服はちょっと飽きてきたところだよー」


「ハルオはアゲハチョウウイングがあるじゃないですか」とミリア。


「アゲハチョウウイングは最高にイカスけどさあ。やっぱり服も欲しいよ」


「そう言えば皆さまは、どうして服のスキンを持っているのですか?」


「それはですねー」


 ミリアが説明をしていく。しかしいくら説明したとしても、ミッドベルのクエストをアヤノが再挑戦して、スキンを入手できるわけではない。それはアヤノ自身が今朝説明したことでもあった。次の村や町に進むと、以前のフィールドのクエストがクリアできなくなるのである。


 ミリアがどうやってあの大蛇と戦いスキンを手にしたのかを話しながら、夜は更けていくのであった。


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