54.当主就任。そして、エレイナは真の初夜を迎える
野盗三人組ボム、ボラ、ボロと再会を約束し別れたエレイナは、ハルダロスと共に、一路、王の居城エルバ城を目指した。
ハルダロスとエレイナは、門で止められて、約束無しで国王への目通りをお願いした。門番は、以前エレイナが来た時に番をしていたのと同じ者で、エレイナの顔を覚えており、にこやかに応じた。
ハルダロスとエレイナの乗る馬車は中への乗り入れを許された。
二人は城の建物の中に案内され、以前エレイナが来た時の様に控えの間に通され、そこで二人とも待たされた。新当主をエレイナにする為の申請書は既に渡してあった。
二人は、椅子に座り、声が掛かるのを待つ。
「なんだかドキドキしますね」
エレイナが、言った。
ハルダロスは、苦笑を浮かべる。
「君は、言う程緊張してない様に見えるよ」
「そうですか?」
「そうだよ」
ハルダロスは、微笑んだ。
新当主の認証が、なされないということはほぼない。国王にとっても、自分の代わりに呪いを引き受けてくれる者の存在は必要だからだ。誰がそれに相応しいかなどと、国王に選べるものでもない。
ハルダロスは、念の為、エレイナの特別な呪力についても申請書の中で書き加えていた。
”エレイナは、自分に降りかかる呪いを全て無効に出来る。現在の当主が無理をして呪いを受け続ける理由はない”――と。
暫く待たされて、二人は、謁見の間に入ることを許された。
侍従に導かれ、二人は広い謁見の間を歩き、国王の前に立つ。
台の上の座具に堂々と座った国王ギルヴァリオスが待ち受けていた。国王の両脇には、以前にもいた補佐官と、王子がいた。
「アンダロス、エレイナ。良く来た」
国王は、二人を労った。
表向き伯爵アンダロスを演じるハルダロスと、エレイナは、畏まって頭を下げる。
国王は、厳めしく言う。
「申し伝える。カルヴァリオン家の次の当主をエレイナと認める」
エレイナとハルダロスは、喜びを表した。
「ありがとうございます!」
二人は、頭を下げた。
国王は、うむ、と頷く。
「アンダロス」
「はい」
「これまで、よく務めを果たしてくれた。礼を言う」
ハルダロスは、思わず目に涙を滲ませる。
「そのお言葉だけで充分報われます」
「うむ。エレイナ」
「はい」
「当主就任の祝いである。受け取れ」
「え?!」
驚いているエレイナに、王子が微笑んで小さな木箱を手渡した。
「ありがとうございます」
国王が、力強く微笑んだ。
「香辛料が入っておる。香辛料は健康にも良いと聞く。まだ若いと言えど、身体を大事にして長生きしておくれ」
エレイナは、国王の気遣いに感激する。
「ありがとうございます。大事に使います」
国王は頷く。
「いつでも儀式を執り行うが良い。当主エレイナを歓迎する」
二人は、恭しく頭を下げた。
エレイナとハルダロスは城に戻り、早速当主になる為の儀式の準備に取り掛かった。
そして、儀式は無事に執り行われ、カルヴァリオン家の当主はエレイナとなった。
その瞬間。
王家に対する呪いを代わりに受けていた前当主のアンダロスは、その務めから解放され、自らに受けていた呪いが跡形も無く消えた。
バン!
アンダロスは、勢い良く自室の部屋の扉を開けた。
犬耳の子供の姿から更に獣化が進んでいたアンダロスだったが、すっかり元の大人の姿に戻っていた。
「エレイナ!」
アンダロスは、叫んで、走り出す。
儀式を終えて儀式用の服から普段着に着替えていたエレイナは、微かに夫の声を聞き取って、顔を向けた。
「旦那様?!」
着替えが中途半端なのにもかかわらず、部屋から出ようとするエレイナを侍女たちが引き留める。
「エレイナ様、まだ終わってませんよ」
「早く! 早く!」
いつもおっとりしているエレイナが珍しく侍女たちを急かした。
「旦那様!」
着替えを終えたエレイナが、部屋を出る。
「エレイナ!」
直ぐ近くまでアンダロスが来ていた。
「旦那様!」
「エレイナ!」
二人は互いに駆け寄り、互いの求めるままに、抱き合った。
侍女たちが、顔を赤らめて見守る中。
二人は熱い口づけを交わした。
その夜。二人は婚姻後、真の初夜を迎える。
それは、エレイナにとって初めての経験。
甘い囁きと激しい愛撫。どんなに息を切らしても止まることは無かった。
止まっていた時を動かし、さらに先へと進もうとするかのように。
エレイナとアンダロスは、夜通し愛し合い、そのまま朝を迎えた。




