51.私、当主になります!
エレイナは、呪術神ハーディオニアの元から、ハーディオニアの力によって転送され、伯爵の城へ還って来た。
「え?!」
「エレイナ?!」
転送されたのは良いが、エレイナが現れたのは城の中庭の空中だった。
「わあああぁっ」
たまたま中庭にいた義弟ハルダロスが、必死でエレイナを受け止めた。
どおっ!
「は、旦那様!」
エレイナは、慌てて、倒れたハルダロスの上から身体をどかした。
「旦那様、大丈夫ですか」
「たたた」
ハルダロスが、腰をさすりながら、上半身を起こした。
王家の代わりに呪いを受け、犬耳の子供の姿になっている兄アンダロスに代わり、”伯爵アンダロス”を演じるハルダロスは、余裕のある、大きな笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ。エレイナは怪我はないかい」
エレイナは、ハルダロスの優しさに、思わず目に涙を滲ませた。
「大丈夫です。ありがとうございます」
「良かった」
「それにしても、何処に行ってたんだ? 急にいなくなるから、皆で探してたんだ」
ハルダロスは、そう言いながら立ち上がり、エレイナが立ち上がるのを支えた。
「と思ったら、急に頭上から降って来るし」
「すみません」
エレイナは、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
ハルダロスの様子からして、どうやら、エレイナが呪術神ハーディオニアに連れて行かれた日から、一日も経っていない様だった。
ハーディ様に言われた通り、全然時間が経ってないわ。良かった。
「旦那様、大事なお話があります」
エレイナは、言った。
伯爵の執務室で、エレイナは、ハルダロスに、自分に呪力が無かったのは呪術神ハーディオニアに封印されていたからで、ハーディオニアに連れて行かれた後、その封印が解かれた事を説明した。
話を聞いたハルダロスは、目を見開いた。
「では、今、義姉上は、呪力が完全に目覚めているのですね」
「そうです!」
「あぁ、義姉上……」
ハルダロスは、エレイナという希望を得て、胸がいっぱいの様だった。
「それで、ここからが肝心なのですが」
エレイナは、話を続ける。
「ハーディオニア様の話によると、私の呪力はとても変わっていて、どんな呪いも効かないそうです」
「はい……」
ハルダロスは、エレイナの言わんとしていることがまだ分からなかった。
エレイナは、続ける。
「そして、カルヴァリオン家の当主は、儀式を受ければ誰でもなれる……そうですよね」
ハルダロスは、微かに目を見開いた。
エレイナは、言う。
「私、カルヴァリオン家の当主になろうと思います」
ハルダロスは、自分が聞いた事が信じられなかった。
そんな、まさか――……
エレイナは、言う。
「私が当主になれば、旦那様は王家に対する呪いを代わりに受けると言う務めから解放され元の姿に戻れます。王家への呪いは私が受けるので、王家も守られ、そして、私は、自分の呪力によって、どんな呪いも無効に出来ます」
ハルダロスの目から、涙が零れた。
「まさか、こんな日が、来るなんて……っ」
ハルダロスは、溢れる思いを止められず、エレイナを抱き締めた。
「エレイナっ、ありがとう、エレイナ……っ」
「ハルダロス様……」
エレイナは、義弟の背中を申し訳なくさすった。
「すみません。自分の呪力の特性に気付くのが遅くなって、ハルダロス様には沢山、辛い思いをさせてしまいました……」
ハルダロスは、腕をほどくと、まだ涙で潤んだ目でエレイナを見た。
「俺の事はいいんだ。兄が助かれば、それで」
「ハルダロス様……」
エレイナは、ハルダロスの手を取った。大きくて、温かい手だった。




