表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられ令嬢は、呪われ伯爵と幸せになる  作者: セイバン・キイタ
49/55

49.修行ヲワリ

 エレイナは、呪術神ハーディオニアこと、ハーディに連れて来られた屋敷で、呪力を目覚めさせる修行の真っ最中だった。……その筈だった。


「私の主人は、貴女を引き留めているのです」

侍女のレディが、はっきりと言った。

「貴女とずっと一緒に居たくて、貴女に施した封印を解除することを怠っているのです」

「レディ! ひどいよ! ひどいっ」

義弟ハルダロスの姿のハーディは、叫んで居間を出て行き、

「私が連れ戻してきます」

侍従のミニは、冷静にそう言うと、主の後を追った。


「エレイナ様」

レディが、言った。

「はい」

エレイナは、ハーディに騙されていた事の衝撃を引きずりながらも、応えた。


「この度は、主が、大変失礼な事を致しました。代わってお詫び申し上げます」

レディは、そう言って頭を下げた。隣にいた侍従のワイルドも、習って頭を下げた。

「あ、いえ、そんな、頭を上げて下さい」

 レディとワイルドは頭を上げた。


 エレイナは、思う。

 確かに、騙されていた事は悲しいし、悔しい。気持ちが、もやもやする。

 でも……

と、エレイナは、これまでハーディと過ごして来た時を思い出す。

 いつも笑顔で、優しくて。そして、寂しそうだった。


 ハーディ様は、ここに一人で、寂しかったのではないか。


 侍従たちもいるけれど、それでもやっぱり寂しいのだ。


「私は、封印を解いて頂けたら、それでいいんです」

エレイナは、そう言って、自分の言った事が残酷だと思った。


 どんなにハーディ様が寂しい思いをするとしても、私は、ここを出て行く。

 旦那様の所に帰るのだ。


 エレイナは、切実に、そう思った。



 色とりどりの枯れ葉が舞い落ちる木の下に、(ハーディ)は膝を抱えて座っていた。

「ご主人様」

ミニは、主を見つけて歩み寄る。

 主は、泣き疲れた様な感情の無い顔をして身じろぎ一つせず、座っている。

 ミニは、傍に跪いた。

「戻りましょう」

 ハーディは、目が覚めた様に一度瞬きをすると、目だけを動かしてミニを見た。

「呆れたかい? 愚かな主だろう、私は」

ハーディは、静かにそう言った。

 ミニは、小さく微笑む。

「本当の愚か者は、自分が愚かであることも気付かない、と言いますよ」

「レディは、言い過ぎだよ。あんな風に作った覚えないのに」

「さあ、それはどういうことか判り兼ねますが……」

 ハーディは、しっかりとミニを見た。

「君って、そんな風にしゃべる人だったの?」

「そのようですね」

ミニは、そう言って、肩を竦めた。


 ハーディと、ミニが居間に戻ると、

「ハイ! あと十回! がんばれ! 負けるな! 自分に負けるな!」

「はいぃぃっ」

ワイルドの励ましを受けながら、エレイナが筋トレをしていた。エレイナは、きちんと身動きしやすい股の割れたワンピースを着ている。

 ミニは、予想外の状況にきょとんとなった。


 レディは、冷静にエレイナを見守っていたが、ハーディが戻って来た事に気付くと、小さく頭を下げた。

 エレイナとワイルドは、トレーニングに必死で全然ハーディに気づいていない。


「あと三回! いけるいける!」

「ひいぃぃっ」


「ぷっ。何やってるんだよ」

ハーディは、目に涙を浮かべて笑った。



 夕刻。

 屋敷の周りの木々は、いつの間にか紅葉した木々に変わっていた。

 神の空間であるここは、ハーディの意思によって風景が変わる。


 夕日が木々を茜色に染め、見事な紅葉となっていた。

 

 エレイナが、居間の窓から、外の景色を眺めていると、 

「エレイナ」

エレイナの夫アンダロスの姿で現れたハーディは、若草色のドレスを抱えていた。光沢がありながら品の良いドレスだった。

「これを着て、私と踊ってくれないか」


 エレイナは、目を見開いた。

「私、その、踊れないんです」

 ハーディは、微笑む。

「大丈夫。私が教えるよ」


「エレイナ様」

レディが、現れ微笑んだ。

「お着替えをお手伝いします」

 エレイナは、戸惑いながらも、

「はい」

と、応えた。


 暫くして、エレイナが小広間に現れた。

 中には、既にハーディが待っていた。ハーディは、アンダロスの姿で、正装をしている。

 ハーディは、微笑む。

「似合ってるよ。エレイナ」

 エレイナは、頬を赤らめた。まるで本物の夫に言われている様だった。


 エレイナが、小広間の中央にいるハーディの元まで歩み寄ると、ハーディは、そっと右掌をエレイナに差し出した。

 エレイナは、緊張しながらも、微笑んで、ハーディの右掌に自分の左手をそっと重ねた。


 どこからか、美しい弦楽器の音色が聞こえてくる。


 二人は呼吸する様に手を組み身体を寄せる。

 旋律に合わせ、ハーディが、エレイナを導き、踊り出す。


 最初はゆっくりと。

 二人は見つめ合う様に、ステップを踏む。優雅に身体を右に揺らし、左に揺らす。

 ハーディが、急にエレイナを回転させる。

 くるっと回って、エレイナは、ハーディの腕の中に戻る。ハーディの顔が目の前だ。

「ハーディ様……」

「アンダロスでいいよ」

「ぁ……」

エレイナは、顔を真っ赤にした。胸がドキドキして苦しい。


 旋律に合わせ、二人は踊り続ける。

 ハーディがエレイナに顔を近付け、そっと囁く。

「エレイナ。封印を解除するのは、一瞬で出来る」

「え?」

エレイナは、驚いてハーディを見た。

「キスで解けるんだよ」

「ええ?!」

 ゴホンッ! と、咳払いの声が響いた。

 見ると、レディが、怖い顔をしてハーディを見ていた。

「ありゃ」

「レディさん?」

エレイナは、助けを得た様な気持ちで、レディを振り返った。


「エレイナを揶揄えなくなっちゃったね」

ハーディが、残念そうに苦笑を浮かべた。

「えっ?」

エレイナは、ハーディに向き直る。

 二人は片手はつないだまま、両腕を伸ばす。身体が一度離れるも、エレイナの身体をハーディが迎えに行く。二人は顔を見合わせた。

 ハーディは、微笑んで。

 エレイナの額を軽く人差し指の先で、とん、と叩いた。

「思い出をありがとう、エレイナ」

 

 ハーディは、そう言って、そっとエレイナから離れた。

 そして、騎士が姫にやるように、右足を引き、左腕を背中に回し、右腕を胸の前で折り畳んで、軽く頭を下げた。


 エレイナは、この時になって初めて、ハーディの気持ちを知った様な気がした。

 

 もう、お別れなんですね。


 エレイナは、そう思い、切なく微笑んだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ