46.修行そのニ
エレイナは、呪いの神ハーディオニアに連れてこられて、呪力を目覚めさせる為の、修行の真っ最中だった。
「お待たせ致しました」
小柄な侍従が、朝食を運んで来た。後から、エレイナがやってくる。今日の朝食は、エレイナが作った。
「簡単なものですけど、お口に合うでしょうか」
「エレイナが作ったものなら何でも合うよ」
白い陶器の皿の上には、卵と牛の乳で作った液にひたひたに漬けて、浅い鍋にバターを敷いて、こんがり焼き色を着けた、じゅくじゅくのパンが二切れ、のっている。
ハーディは、目を見開く。
「わあ! 美味しそう!」
普段は、固いパンしか食べていなかった。
エレイナは、少しほっとする。
「子供の頃、実家で何度か食べたことがあるんです。とても美味しかったので、ここの貯蔵庫はお砂糖もありますし、台所は何でも揃っているので、折角なので、作ってみました。味を再現できていると良いのですが」
ハーディは、早速、ナイフとフォークで一口に切り、食べる。
「んー!! 美味しい!!」
ハーディは、目を見開いて言った。
「ああ、良かったです!」
エレイナは、胸を撫でおろす。
「エレイナも、食べなよ。美味しいよ」
「はい、頂きます」
エレイナがテーブルに着くと、侍従が、エレイナの前に皿を置いた。
「ありがとうございます」
エレイナは、そう言って、頭を軽く下げる。
侍従も、軽く頭を下げ、居間を出て行く。
エレイナは、侍従の事が気になった。
「侍従の方に、お手伝いして頂いたんですけど」
「うん」
ハーディは、にこにこと、じゅくじゅくのパンを頬張る。
エレイナは、自分も一口食べる。
「んっ美味しいですぅ。良かったぁ」
「美味しいよ!」
「美味しいですね」
「ところで、あの、侍従の方なんですけど」
「うん」
「ここには、あの方、お一人しかいない様にお見受けしますが」
「ああ、使い魔のことだね」
「使い魔?!」
「私の力で動かしている使い魔だよ。本当は、何体かいるんだけど、顔形が同じだから」
「あっ! そう言う事なんですか」
エレイナは、この屋敷に来る前に連れて来られた屋敷で、同じ姿をした小柄な侍従が、敵に切り裂かれたのを見た。
この屋敷に着くと、同じ姿の侍従が何事もなかった様にやって来て(実際、何かあったのは別個体)、エレイナは、驚いたものだった。
「基本的に、ここには私一人だから、つまらないんだよねぇ」
ハーディが、言った。
エレイナは、ハーディに何も言えず、黙ってじゅくじゅくのパンを食べる。
「ありがとうございます」
ふと、エレイナが、言った。
「何が?」
ハーディが、きょとんとして訊いた。
エレイナは、頬を赤らめて、
「ここに連れて来て頂いて、色々な経験をさせて頂いてると、思います」
そう言って微笑んだ。
ハーディは、嬉しく微笑む。
「良かったよ」
「ふへへへへ」
照れているのか、エレイナは、にこにこしながら、不思議な声を出した。
「ん? エレイナ?」
「んふふふふ。おいし〜です」
ハーディは、首を傾げる。
「どうしたの? 何か、へんだよ」
「へんじゃないですよおっ。おほほほほほ」
「へんだ」
「へんじゃないですんふふふ」
ハーディは、エレイナをじっと見た。顔が赤い。照れてる訳じゃないのか。
「この料理、お酒でも入れたの?」
エレイナは、目を点にして、それから、んふふふふっと笑い出す。
「いれてないでしよっ」
明らかに、酔ってるじゃん。
ハーディは、そう思ったが、何も言わなかった。
エレイナは、にこにこしながら、自分の作ったじゅくじゅくパンを食べている。
「ま、いっか」
ハーディは、満足げに呟いた。




