44.呪いの神様と修行?
「あーん」
自称、呪いを司る女神ハーディオニアに拉致されたエレイナ。
神と信じるには余りある奇跡(襲って来た義父の姿をした敵を人差し指で撃退。一瞬で義父の姿から夫アンダロスに早変わり、等々)を目の当たりにして、エレイナは、夫の姿をした神を神と信じた。
しかも、自分に呪力が目覚めなかったのは、ハーディオニアが、敢えてエレイナの呪力を封じていたからだという衝撃の告白も聞いた。
あまりの衝撃に、エレイナは、泣き出してしまった。
私だって、妹ヘレナの様に愛されたかった。
呪力が無いばかりに、辛い思いをし、両親からの愛も失った、と。
ハーディオニアは、泣き出したエレイナを抱き締めた。
そして、詫びたのだった。
二人は今、居間で夕食を摂っている所だった。
夫アンダロスの姿をしたハーディオニアは、匙ですくったスープをエレイナの口に入れようと、エレイナの口が開くのを待っている。
「あーん」
エレイナは、困る。
「あの、もういいですから」
「なんで? 君を悲しませたのは私だよ」
「でも、ハーディオニア様は、私が危なくない様に呪力を封じていたのですよね」
「うん。まあ、そうなんだけど、でも、それで君は辛い思いをした訳じゃないか」
「そうですけど、もう大丈夫です。さっきは、ちょっとびっくりしただけで」
「そお?」
「そうです」
「でも、楽しいから。あーん」
「あ、あーん……」
エレイナは、仕方なく、口を大きく開いた。
ハーディオニアが、エレイナの口の中にスープの入った匙を入れた。
しゅるり、と、エレイナがそれを飲んだ。
「美味しいです」
エレイナが、微笑んで言った。
「良かった!」
ハーディオニアは、満面の笑みを浮かべて、アンダロスの姿から犬耳の子供、アルの姿に変わった。そのまま、エレイナに抱き着く。
エレイナは、ますます困る。
「もうっ、ころころ姿を変えないで下さいっ」
アルの姿をしたハーディオニアは、にこにことエレイナを見る。
「やっぱり夫の姿が落ち着く?」
「え……いえ、全然」
「えーっ?!」
「だって、本物じゃないじゃないですか」
「そんな言い方ひどーい」
「あ、す、すみません。でも姿が旦那様だと、やっぱりどきどきして困るんです」
「困るって?」
アルの姿のハーディオニアは、何も知らない子供の顔で、エレイナの顔に近づく。
エレイナは、上半身を後ろに引く。
「ち、近いですぅっ」
「エレイナ……」
アルの姿をしたハーディオニアの唇が、エレイナの唇に触れそうな程近づく。
「ハ、ハーディオニア様……」
思わず、むぎゅっと目を瞑るエレイナ。
「なーんちゃって!」
「へっ?!」
驚いて目を開けたエレイナを尻目に、ハーディオニアは、義弟ハルダロスの姿に変わった。
ハルダロスの姿をしたハーディオニアは、にやりと微笑む。
「エレイナは、いちいち驚いてくれるから、飽きないよ」
そう言いながら、エレイナから離れた。
「は、ははは」
エレイナは、力無く笑った。
「ところで、ハーディオニア様」
「長いだろ、ハーディでいいよ」
ハーディは、そう言いながら、椅子に座り直す。
エレイナが、神に質問する。
「ハーディ様は、さっきから男の姿をしていますけど、女神ではないのですか?」
ハーディが、スープを一口啜って、答える。
「エレイナ、聞いていたかい? 私は、そもそもハーディオニアという名前ではないし、神には男も女もないんだよ。もっと言うと、決まった姿もないしね」
「あ、そ、そうなんですね……」
言われてみると、神が人と同じような姿な訳が無いか、と、エレイナは思った。
「君が、信用出来る人の姿がいいと思ったんだよ。でも、君と話すのが楽しいからさ、つい、色んな姿になりたくなるのさ」
ハーディは、そう言って、エレイナが呪術市で出会った占いのおばあさんの姿になった。
「おばあさん!」
エレイナは、本物のおばあさんではないと分かりつつも、嬉しくなる。
おばあさんの姿で、ハーディが話す。
「マギエラは優秀な占い師だよ。私の伝言を夢で受け取って、君の義父に伝えてくれた」
エレイナは、目を見開く。
「では、この指輪は……」
エレイナの右手の人差し指には、義父ヴァルダロスが、おばあさんから託された金色の指輪が美しく輝いていた。
「君は、結婚でブレスディエス家を離れたから、君の居場所を正しく把握して、ここに連れてくる為に、印が必要だったんだよ」
「そうだったんですね……」
エレイナは、そう答えながら、不安になる。
「私、本当に呪力が目覚めるのですか」
ハーディは、微笑む。
「目覚めるよ。その為に、あと少し、心身を鍛えないと」




