39.国王の答え
エレイナとキリオスは、謁見の間の隣にある控えの間に通された。
「お供の方はここでお待ち下さい」
「えっ」
エレイナは、思わず不安の声を上げる。
キリオスは、微笑む。
「エレイナ様は、一人でも大丈夫ですよ」
エレイナは、小さく頷いて、侍従に付いて謁見の間に入って行く。
大きな謁見の間。天井も高く、幅も広い。細長い窓が幾つもあった。
部屋の奥の中央には、台の上の座具があり、国王ギルヴァリオスがそこに堂々と座していた。
王の後方には、補佐官らしき人物と、王子らしき人物が一人ずつ、左右に立っていた。
エレイナは、カルヴァリオン家の秘密をどこまで話していいのだろうと思いながら、侍従の後を歩く。
やがて、侍従が足を止め、エレイナも止まった。
「ギエナ領伯アンダロスが妻、エレイナです」
侍従が、国王に面会者の身分を伝えた。
国王は、頷き、
「手紙を」
と、短く言った。
侍従は、エレイナに向き直る。
エレイナは、手紙を侍従に渡す。
侍従が、手紙を受け取り、国王の下へと運んだ。
侍従は、台の下から両手で手紙を掲げ持ち差し出した。
補佐官が、受け取り、国王へ渡した。
国王は、封蝋を外し、中身を取り出してその場で読んだ。
暫く、沈黙が流れる。
国王が、顔を上げた。
「伯爵は息災か」
エレイナは、顔を曇らせる。
「いいえ。夫はもう、限界です。どうか」
「エレイナ。事は私の一存では決められぬ」
「そんな。国王陛下が決めずに、誰が決めるのですか」
「私の肩には幾万の民の命がかかっておる」
「それは……」
「これを無視することは出来ぬ」
エレイナは、言葉が出ない。
国王は、真っ直ぐにエレイナを見る。
「はっきり言う。そなたの望みを叶える事は出来ぬ」
エレイナは、衝撃に目を見開いた。
「酷い……」
あまりの失望に、低い声で責めた。
国王は顔色を変えず、
「うむ。許せ」
そう、きっぱりと言った。
エレイナは、国王の堂々たる態度に怒りを覚えながらも、これ以上何を言っても無駄と悟った。
この方は情にほだされるような方ではない。夫に、犠牲になれと、おっしゃっているのだ……
エレイナは、むしろ自分に対する怒りに震えながら、拳を握り締めた。
謁見の間を出た。
エレイナを控えの間まで送って来た補佐官が、
「エレイナ様」
と、声を掛けて来た。
エレイナは、無言で振り返る。
「今日、陛下がお会いになったのは、陛下の特別な計らいがあったからです」
エレイナは、無言だった。
「これは通常の対応ではありません。それを御理解頂きたい」
エレイナは、無言だった。
補佐官に、力無く、一礼した。
夕刻。
エレイナとキリオスは王都の宿に泊まった。
エレイナは、部屋に入ると力尽きた様に、ベッドに座った。
泣きたいくらい辛いのに、涙が出ない。
自分が情けない。
エレイナは、溜息をついた。
――暗くなっていても仕様が無い――
エレイナは、思った。
――お風呂に入って、頭を切り替えて、他の方法を考えよう――
ふと、人差し指の指輪を見て、占いのおばあさんを思い浮かべる。
――あの占いのおばあさんに会えないだろうか――
「お義父様にお店の場所を聞いておけば良かった」
エレイナは、ぼそりと呟く。
「宿の人だったら、知っているかしら……」
エレイナは、あれこれ考えて。
気が付くと、眠りに落ちていた。




