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捨てられ令嬢は、呪われ伯爵と幸せになる  作者: セイバン・キイタ
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38.立ちはだかるヘレナ

 夫アンダロスを役目から解放してもらおうと、義弟ハルダロスの手紙を携え、国王の居城エルバ城へ来たエレイナ。


 カルヴァリオン家の使者であることを伝えたこともあってか、エレイナと供のキリオスは一旦門から入って城の中の小さな部屋で待つように言い渡された。


 それから小一時間が経った。


 部屋には、椅子に座っているエレイナとキリオス、入り口の扉付近に警備の兵士が立っている。

 他には、誰もいない。


 エレイナは、幾らでも待つつもりでいたが、いざ、中に通され待っていると、重苦しい空気がのしかかって来て、緊張で死にそうだった。


「エレイナ様」

隣に座っているキリオスが声を掛けて来た。

「大丈夫ですか」


 エレイナは、大丈夫じゃない、と思ったが、

「大丈夫です!」

と、ぎんぎんに目を見開いて言った。

 キリオスは、苦笑いを浮かべた。

「きっと、大丈夫です」

「は、はい」

エレイナは、キリオスの優しい言葉に、ほっとして涙が出そうになる。


「エレイナ様」

侍従が、部屋に入って来て、エレイナの前に立った。

 エレイナとキリオスは起立する。

「陛下がお会いになります」

「はい」

「私について来て下さい」


 侍従は、案内の為、二人の先に立って部屋を出て行く。

 エレイナとキリオスはその後に続いた。


 曲線で出来た大きな天井のある回廊を侍従の後ろをついて歩いていると、前から、良く知る人物が歩いて来るのが見え、エレイナは、驚きのあまり思わず足を止めた。

「エレイナ様」

足を止め、キリオスはエレイナを見た。


 エレイナは、応えられない。

 思わず、顔を下に向け、背を丸めて小さくなる。


「あら、エレイナじゃない」


 その、見下す様な声に、エレイナは、更に縮こまる。

 キリオスは、エレイナの様子から、その人物が好ましくない者と認識した。

「どちら様ですか」

「あら、不躾ね。お姉さま、この方に私を紹介して下さらないの?」

エレイナの妹へレナが、余裕の上から目線で言った。


 エレイナは、固い顔を上げると、ヘレナを見る。

 相変わらず、自信満々だ。


「……妹のヘレナです」

低い小さい声で、エレイナが言った。

 ヘレナが、キリオスに一礼した。

 キリオスは、ヘレナに対し、不信感を募らせる。


 ――俺は、この人の顔を知らない。幾つもある一連の婚姻の儀式に、この人は一度も参列していないからだ。両家の顔合わせの時位、出て来ても良さそうなものを――


 キリオスは、そう思いながらも、愛想笑いを浮かべる。

「奇遇ですね。この様な所でお会いするなんて」

「本当ですわね」

ヘレナは、悠然と微笑んだ。

「私の姉は、呪術師の家に生まれながら、呪力の無い役立たずだったから、家の跡も継げず、追い出されたのよ。なのにどうして国王陛下のお城に入れるのかしら。そんな資格が、この女にあったかしら」


 エレイナとヘレナの身長差はほとんどない。

 髪の色も、目の色も同じ、赤みの強い金髪と、碧玉色の瞳だ。

 だが、エレイナが縮こまり、ヘレナがつんと顎を上げている為に、ヘレナの目がエレイナを見下す様な格好になっていた。

 

「如何されましたか」

侍従が、二人を待っていた。

「国王陛下をお待たせしておりますのでお早く」

それを聞いて、ヘレナが目を剝く。

「ちょっと、どうしてこんな女に陛下がお会いになるの?!」


 侍従は、面倒臭そうな顔をする。

「陛下のご判断ですよ。さあ、参りましょう」

侍従は、そう言って、さっさと先に行く。

 エレイナは、慌てて付いて行く。

 キリオスも、ヘレナに一礼して付いて行く。

 苛立ちを露わにして、ヘレナは、エレイナたちを見る。

「何よ、あれ」

ぼそりと不満をこぼした。


 キリオスは、歩きながらエレイナの横顔を見た。

 顔色が、悪かった。


 大丈夫だろうか。


 キリオスは、そう思いながらも、訊いても大丈夫、と言われる気がした。


「私……」

ふいに、エレイナが、口を開いた。

「私、家族が苦手なんです」

そう、小さく言った。


 キリオスは、家族が苦手、と言う意味がすぐには分からなかった。


「ヘレナも、父も母も、自信満々なんです」

ぽつりと、エレイナが言った。

 キリオスは、無言になる。


「私は、呪力がなくて、呪術師に成れなくて、役立たずで、自信が無くて、必要ない人間なんです」


 キリオスは、黙って前を向いて歩く。


「家族を見ると、自分がより無価値に見えて、羨ましくて、苦手なんです」


 キリオスは、何も言わない。


「でも、いいんです。それで」

エレイナは、拳を握った。

「ヘレナに何を言われようと、関係ない。どんなに嫌な事言われても、別にいい。旦那様を助ける事が出来れば、それでいい」

 

 キリオスは、エレイナを見た。

 顔色が、戻っていた。


 エレイナは、前を向いて、微笑む。


「今、分かりました。私、それでいいんだって」


 キリオスは、エレイナの考え方に付いて行けなかった。だが、頼もしくも思った。

「はい」

と、キリオスは、頷いた。



 

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