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捨てられ令嬢は、呪われ伯爵と幸せになる  作者: セイバン・キイタ
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36.白き狼の真実

 エレイナの夫アンダロスは、王家に降りかかる呪いを代わりに受けるという役目を担っている。


 その呪いの影響で、アンダロスの身体は子供化し、更に獣化して、犬耳と尻尾のある子供の姿――アルになっていた。自分が王家の代わりに呪いを受けていると知られれば、自分や家が攻撃を受け、王家を呪いから防ぐ盾の役目を果たせなくなる。この為、弟のハルダロスが兄アンダロスを演じ、表向き何事も無いよう振舞っていた。カルヴァリオン家は、常にそうやって密かに役目を務めてきた。


 この所、アンダロスは、体調がすぐれなかった。

 食欲も無いようだと侍従長に聞いて、エレイナは、焼き菓子を作って持って、別棟のアンダロスの部屋へやって来た。


 それが……。


 ガアン!!


 侍従長は、銀のお盆でアルの噛み付きを防いだ。

 アルは、思い切り頭をお盆にぶつけた。

「侍従長さん!」

「逃げて!」

侍従長は、お盆を振り回し、アルを威嚇しながら、背中でエレイナを押して後退する。

「グああ!!」

侍従長は飛びかかってくるアルにお盆を投げつけ、一瞬の隙を作ると、エレイナを部屋の外に押し出し自分も飛び出して、即座に扉を閉めた。

 ドン!! ドン!!

アルが、扉に体当たりする音が響く。

 エレイナは、衝撃的な状況に気持ちが追いつかず、膝を折って床にへたり込んだ。

「旦那様……」


「侍従長!」

侍従長の助手が、扉の補強の為に、木材と釘と金槌を持って来た。

 それに気が付いたエレイナが、悲しく声を上げる。

「旦那様を閉じ込めるのですか?!」

「お互いを守る為です」

 侍従長と助手は、手早く扉を補強した。


 そうしている間に、体当たりの音が聞こえなくなった。



 エレイナは、侍従長の部屋に連れて来られた。

 侍従長の部屋は、アンダロスの部屋と同じ位こじんまりしていた。寝泊りが出来るよう、簡易的なベッドが置いてあった。

 侍従長は、ベッドの近くにあった椅子をエレイナに促す。

「どうぞ」

 エレイナは、無言で椅子に座った。

 

「大丈夫ですか」

侍従長が、訊いて来た。

「大丈夫じゃないです」

エレイナは、答えながら、侍従長を見た。侍従長は、随分落ち着いている様に見えた。


 考えてみれば、侍従長は、アンダロスの母リーシアが当主だった時も侍従長を務めていた。この様な状況は初めてでは無いのかも知れない。


「エレイナ」

侍従長の部屋にハルダロスがやって来た。侍従長の助手から報告を受けたのだろう。青い顔をしていた。

 助手が、壁際に置いてあった椅子を取って、ハルダロスに勧めた。

 ハルダロスはエレイナの正面に来るように椅子に座った。優しく、エレイナを見つめる。


「ハルダロス様……」

エレイナは、呟いた。


 ハルダロスは、意を決した様に口を開く。

「義姉上。私たちは、貴女に言っていない事がありました」

 エレイナは、驚いて目を見開く。

「何ですか……」

そう尋ねながら、本当は聞きたくなかった。

「兄の、アルの姿は、まだ獣化の途中だという事です」

 エレイナは、恐怖に耐える様に、膝の上に置いた手を握り締めた。

「途中……」

「もっと、獣化は、進みます」

「そんなっ」

エレイナは、思わず、右手を口に当てた。

 

 エレイナの心の中で、夫の姿が浮かび上がる。

 満月の夜、本来の大人の姿を一時だけ取り戻した夫アンダロスの大きく逞しい姿。

 呪いを受けて、子供化・獣化したアルの姿の夫アンダロス。

 どちらの夫も、大切な夫であり、失う事など耐えられなかった。


「獣化の最期には、人間の姿を完全に失います。人間であった時の記憶も失って、母は、白い狼になりました」


 エレイナは、息を呑んだ。

 白い狼。

 あの白い狼は、お義母様だったの?!


 ハルダロスの目から、涙が零れた。

「兄は、ずっと、言えなかったんです。義姉上に心配をかけるから、と」


 エレイナの目からも、涙が零れた。歯を食いしばり、泣くまいとしたが涙を止められなかった。


 暫しの沈黙の後。

 エレイナが、口を開いた。

「ハルダロス様」

そう言った、エレイナの目は、決意に燃えている。

「何ですか」

覚悟して、ハルダロスが訊いた。


 エレイナは、言う。

「私、国王陛下に会ってきます」




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