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捨てられ令嬢は、呪われ伯爵と幸せになる  作者: セイバン・キイタ
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26.白き狼と、果たせない約束

 夜。

 月は雲に隠れて霞んでいる。


 野盗三人組ボム、ボラ、ボロは、隠れ家の小屋の中で高鼾をかいて寝ていた。


 そこへ、近寄って来る影があった。


 黒い人型の使い魔だ。

 

 黒い人型は、形のない影の様に戸板の隙間からするりと入り、中でまた人型に戻った。

 両手を鋭い刃物に変形させて、三人組に忍び寄る。


 刃が、もう少しで三人組の喉元に突き刺さろうかという時。



 ドカア!!


 と、戸板が突き破られた。

「なっ?!」

「なんだ?!」

「あっ?!」

激しい音に、目を覚ます三人組。

 戸板の破れた所から、月明りが差し……。

 三人の目の前で、黒い刃物人間と白い狼が向き合っているのが見えた。


「ウウゥッ!!」

白い狼の唸りに、黒い刃物人間がたじろぎ、右足を引いた。

 白い狼が、ちらりと三人組を見た。獣とは思えない、知性を感じる青い目だった。


 親分ボムが、気が付く。

「あいつ、俺たちを逃がそうとしているのか?」

「え?!」

「狼が?!」


 白い狼は、尚も鋭い唸り声を上げて、黒い刃物人間を威嚇する。


 黒い刃物人間が、両腕を振り回し、白い狼を襲った。

 白い狼は、それを躱し、刃物人間の脚に噛み付く。そのまま刃物人間を押し倒した。三人組が逃げるのに充分な間隔が出来た。

 

「ガルルルルゥッ!」

狼が、刃物人間が動けない様に抑えている。

 親分ボムは、何故かは分からないが自分たちに力を貸してくれる狼に報いるには逃げるしかないと思った。

「逃げるぞ!」

親分ボムが、駆け出した。

「親分!」

ボラが追いかける。

「親分、でも、ねえさんは!?」

ボロが、涙目で叫んだ。

 親分は、思わず足を止める。


 ――”必ず間に合わせます。きっと持って来ます! だから”――


 親分の心に、エレイナの言葉が蘇る。


 ――”だから、勝手に行かないで下さいね”――


 親分は、振り返らなかった。

「行くぞ!」

親分は、小屋を出て行く。

「ボロ!」

ボラが、叫んだ。

 ボラとボロも小屋を出て行く。


 親分は、走った。

 刃物人間に追いつかれないように。

 逃げるのは得意だ。戦場からも逃げて来た。

 逃げて、逃げて、逃げまくって、生き延びる。

 死んだら、誰にももう会えない。

 だから逃げるんだ。


「お、親ぶ~ん!」

ボロが、後ろから叫ぶ。

「早くしろ!」

親分が、走りながら叫ぶ。

「ちょっと待って下さいよぉ~」


 三人組は、林の中を走って走って。

 やがてその姿は見えなくなった。





 約束の日の夕刻より少し前。


 エレイナは、三人分の焼き菓子を作り、うきうきと野盗三人組の隠れ家へとやって来た。あの黒毛の馬に乗って。


 ――良かった! 間に合った!――

 

 エレイナは、馬を下りた。

「貴方のお蔭よ。ありがとう」

そう言って、馬の首を撫でる。

 馬は、黒い優しい目を伏せて、小さく首を傾げる。いい気持ちなのか、それとも気付いているのか。


 エレイナは、小屋へ入った。

「親分さん!」


 エレイナの顔は、一瞬にして暗くなった。


 小屋には誰もいない。

 よく見ると、入り口の戸板が破れている。

「親分さん?」

エレイナは、辺りを見回した。

 床には獣の足跡。

 白い毛も落ちている。

 破れた戸板の破片。

 赤黒い染みの跡。

 そして誰もいない。

「親分さん?!」

エレイナは、三人組を探し回った。

 

 しかし、三人組の姿は何処にも無かった。


 なにか、不穏な事があった様にも見える。危険が迫った為、逃げたのかも知れない。


 エレイナは、思った。


 ――無事なら、それでいい。無事なら……――


「……っ」

エレイナの目が、涙で滲んだ。

 

 ――良くない……。良くない!――


「勝手に、行っちゃだめって、言ったじゃないですか……っ」


 エレイナは、記憶の中の親分に向かって、そう言った。


 涙を堪えようとしたが、次々と溢れてくる。


 何の涙なんだろう。

 悲しい、のか。悔しい、のか。きっと両方だ。


 置いて行かれて悔しい。

 約束を反故にされて悲しい。


 初めて出来た友達だったのに。

 自分が思ってただけで、友達じゃなかったんだ。


「私は、役立たずで、不必要な、価値の無い人間から……」


 エレイナは、自分を笑いながら、涙を流した。


「ははは。馬鹿みたい」


 言葉とは裏腹に、涙を止められなかった。

 


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