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捨てられ令嬢は、呪われ伯爵と幸せになる  作者: セイバン・キイタ
23/55

23.ヘレナ、婚約?

 国王の別荘地では、狩猟大会が催されていた。

 大会四日目となるこの日。

 ヘレナが国王の別荘の城にやって来た。


「お父様」

「うむ」

先に来ていた父アセルと落ち合うヘレナ。ヘレナも観覧客として国王に招待されていた。


「おお。ヘレナ! 良く来た!」

国王が、ヘレナを出迎えた。


 他の招待客が、感嘆の声を上げる。

「さすが、一、二を争う呪術師の家の後継者ですわね。お姿もお美しい」

「お父上に似て、既に風格が漂っておられる」

「将来が楽しみですわね」

 父アセルは、悠然と微笑みを浮かべる。

「娘は、若く、まだ未熟者。これからですよ」

そう言いつつ、内心ハナタカだった。


「ヘレナに息子を紹介したい。こっちだよ」

国王が、ヘレナを別室へ案内する。父アセルは、それを微笑んで見送る。

「え? ご子息ですか?」

ヘレナは、戸惑いつつ、内心で叫ぶ。


 うそ!? 息子?! 陛下の息子ですって?!

 それって!! それって!! 

 玉の輿?! 政略結婚!! 大出世!!


 ヘレナの期待は一気に膨らむ。


 とある部屋の前で国王が足を止めた。

 侍従二人が扉を左右に開く。


 キイィ。


 一瞬、輝かしい未来の光がヘレナの目をくらませた。


 微笑むヘレナ。


 が。


 ヘレナの顔は、一転して、魂を吸い取られたような、燃え尽きた顔になる。


「コーデリオス!」


 王にそう呼ばれた人物は、ゆっくりと振り返った。


 全身鎖帷子を着てその上から白い貫頭衣を着た、古い時代の騎士の格好をしたその人物は、頭には目の部分しか開いていない兜をかぶっている為、顔が分からなかった。


 兎に角、ヘレナの目には、田舎臭く、あほっぽく見えた。

 

「父上」

くぐもった声で、コーデリオスが応えた。

 父王が顔を歪める。

「お前、何をしておる。なんだその恰好は?!」

「何って、観覧の準備です。流れ矢が当たったら痛いでしょ」

「観覧席に飛んでくる訳なかろう! 大体、お前の席は一番上ではないか!」

「え、でも念の為」

「全く、狩りに参加するどころか……お前と言う奴は」

「用意周到」

「臆病者だ! やがては軍の将たる立場に立つと言うのに、何だその様は」

「ぼかあ、血生臭いのが駄目でしてぇ……」

「そうであろうな! いいからお前、兜くらい取らんか! 客人の前だぞ」

国王は、誤魔化す様な微笑みを浮かべてヘレナを見る。しかし、ヘレナの答えは既に決まっていた。


 ヘレナは、何事も無かった様に、ゆったりと微笑む。

「陛下、私、急用を思い出しましたので、これにて失礼致します」

「あ、いや、ヘレナ」

 ヘレナは、国王が言いあぐねている間に、丁寧に一礼し、部屋を出て行った。



 ヘレナは、怒りの収まらない様子で、居間に入る。

 観覧客が狩りの始まるのを待って、各々くつろいでいる中に、一人掛けのソファに座り、にやにやしてこちらを見ている父アセルがいた。


 ヘレナは、顔を歪めて、父の向かい側のソファに座る。

「何なんですか、あの男は」

「国王の五男だ。もう適齢期を過ぎているが、相手がなかなか決まらないらしい」

「五男……」

ヘレナからすれば、出番のない男だった。


 一瞬でも、王妃を夢見た私が馬鹿だったわ。


 ヘレナは、そう思った。


 アセルは、ヘレナの内心を読み取った様に言う。

「兄弟が病で死ぬのはよくある事だ」

「え」


 ヘレナは、探る様な目で父を見た。

 

 言葉通りに聞けば、一般論だ。兄弟でなくとも、人が病で死ぬのは当たり前にある。

 だから、呪術師が必要とされている。

 大商人や貴族たちは、お金に物を言わせて、呪術師を雇い、死の呪いから逃れようとする。

 町で使われている呪術は、ほんのおまじないの様なものだ。

 本物の呪術は、決して表には出て来ない。


 ヘレナは、父の言葉の裏を読む。

”五男とて、他の兄弟が死ねば、王になる機会が巡って来る”

もしくは、

”お前が、エレイナに呪術を掛けて殺そうとしていた事を知っている”


 ヘレナは、緊張した顔に、誤魔化すように微笑みを浮かべる。

 呪術師が身内に呪術を掛けるのは掟破りだった。


 父アセルには、娘を愛する父の顔と、氷の冷たさを持った呪術師としての顔の、二つの顔がある。ヘレナは、そう思っていた。

 

 姉エレイナが父に逆らえないのは、また別の理由だが、ヘレナにも何処か、父に逆らえない所があった。純粋に、呪術師としての父が怖かった。

「婚約しろと、仰るんですか」

ヘレナが、慎重に訊いた。

 アセルは、微笑んだ。

「お前の好きにするといい」

実際、アセルは、他にも婚約者候補を見繕っている。

 

「少し、考えさせて下さい」

ヘレナは、答えた。

 アセルは、頷いた。


「狩猟大会は、まだ二日ある。じっくり考えなさい」

アセルは、父の顔で、そう言った。



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