22.野盗の隠れ家ごはん
エレイナは、野盗たちの隠れ家に連れて来られた。
狭い部屋に入れられて、閉じ込められた。
一体、どうなるのか。エレイナは、不安でたまらなかったが、手首を後ろ手に縛られて、武器もない以上、何も出来ない。武器があった所で、使い慣れてないので役に立たないだろう。
――あの子は無事かしら――
エレイナは、自分の乗っていた馬の事を思い浮かべる。
大人しくて素直な子だった。
「無事に帰ってると良いけど」
エレイナは、呟いた。
野盗三人組は、隣の部屋で話をしていた。
以前は猟師が使っていたこの小屋は、今は野盗三人組の隠れ家だ。
「親分、これ本当に上手く行きますかね」
一番体の小さいボロが言った。
親分と呼ばれた一番体が大きい年上の男ボムは、ボロの襟首を掴まえる。
「何だとてめえ、俺の作戦にケチ付けるかよ」
「い、いやあ、そういう訳では」
「まあまあ」
もう一人の仲間の黒髪長髪の男、ボラが、間に入る。
「ここで揉めてもどうにもなんないよ」
「おうっ」
ボムが、ボロの襟首から手を離した。
「やっぱり、交渉にはボクが行きますよ」
ボラが言った。
交渉と言うのは、雇い主ヘレナに対する、ギャラ吊り上げ交渉である。
エレイナの妹ヘレナは、エレイナを殺す為、野盗三人組を雇った。彼女は、誇り高い呪術師であると言う自負から、自分で直接手を下すことはやはり出来ない、と思い、彼らを雇ったのだった。
ヘレナは、報酬の一部を先に渡し、彼らが任務を完遂後、エレイナの死体を確認してから残りの報酬を渡すとしていた。この報酬額を吊り上げるべく、エレイナを捕まえて、そのまま生かしているのであった。
「交渉事なら、ボクの方が得意ですよ」
ボラが、言った。
「う~む、けどなあ」
いい所を見せたい親分ボムは、ちょっと悩む。
「いやあ、確かに、ボラ兄さんの方が」
ボロが、うっかりボラに乗ってしまった。
「何だとてめえ、俺の作戦にケチ付けるかよ」
親分ボムが、ボロの襟首を掴む。
「話が戻ってますよ」
ボラが、呆れて言った。
三人は、かつては、他国軍の兵士だった。
親分は隊長で、ボラとボロは部下の兵士だった。
戦争が嫌になって、逃げだし、流れ流れて今はここを拠点に野盗をしている。
正直、血生臭い事をしたくなかった。しかし、金は欲しい。
「あのねえちゃん、おっかねえぞ」
親分ボムが、顔を歪めて言った。
「女って、怖いですね」
ボロが、言った。
「じゃあ、ボクが行って良いですか」
ボラが、言った。
「……分かった」
親分ボムは、最後には頷いた。
ぐううぅ。
三人組の腹が盛大に鳴った。
「腹減りました」
「とりあえず飯にしようぜ」
「飯って言っても……」
ヘレナから貰ったお金は、既に酒宴に消えていた。
「あのお……」
隣の部屋から、エレイナの声が聞こえた。三人の会話はエレイナに丸聞こえだった。
「よかったら、何か作りますけど」
三人は、顔を見合わせた。
エレイナは、小屋に残っていた道具で野草のスープと、肉厚キノコのホイル焼きを作った。
「あとこれを」
エレイナは、ワンピースのポケットの中からハンカチに包んだ焼き菓子を取り出した。数日前、自分が焼いてハルダロスに渡したものだ。エレイナが帰る時、残っていたものを何かの足しにとハルダロスが渡してくれていた。
『ありがとう。移動しながら食べる事が出来て、とても助かったよ』
野盗たちは初めて見る焼き菓子に興奮する。
「なんか、いい匂いが」
「腹の足しになるかい?」
「美味そうですね」
三人は、焼き菓子を食べた。
「んま!」
「もっとないのかよ」
「美味しいです!」
焼き菓子は四つしかなく、一人に一つしかなかった。
エレイナは、少し不思議な気持ちになりながらも、
「良かったら、今度作って持ってきますよ」
と言った。
「ほんとか?」
「ほしい!」
「ください!」
「あ、はい」
エレイナは、戸惑いながらも、笑顔で応えた。
エレイナは、男たちの会話から、自分は何かの作戦の為に連れて来られて、彼らは誰かと交渉したがっている、という事は分かっていた。
だが、無事に返してもらえるかは分からない。
でも、そんなに悪い人たちには見えない。
エレイナは、そう思った。
「あんた、良い嫁さんになるよ」
親分ボムが、ちょっと顔を赤くして言った。
「え? あの、私……」
「あねさん! 親分の嫁さんになってやって下さい!」
ボロが、泣きながら頭を下げて言った。
「え? あ、いや」
「お前ぁ、余計な事言ってんじゃねえよ」
親分ボムが、遠い目をして言った。
「え、えと」
「親分、結婚を約束してた人がいたんですけど、戦争に行かなきゃいけなくなって、結婚やめちゃったんです」
ボラが、事情を説明してくれた。
「あ、そうなんですね。その方はご健在なのですか?」
三人は、しんとなった。逃亡した兵士が国に帰る術はない。
「あの……?」
エレイナは、沈黙の理由が分からず、三人を見た。
「あの、その方に、また会えると良いですね」
エレイナは、親分に言った。
親分は、
「そうだな」
と、言って、暗く溜息をついた。




