2.呪われ伯爵、自室にて婚約の報告を受ける
ギエナ。
カルヴァリオン家の長年に渡る忠義を理由に国王より与られた領地である。
深い森と山に囲まれた、自然豊かな場所。
わずかばかりの平地で麦を作っている。
農夫、石工、大工、鍛冶屋、狩人、肉屋などが、ぎゅっと寄り集まって小さい町に住んでいる。
町の中心には教会堂がある。
町は水が豊かにあり、細く長い川の傍に寄り添うように道が続く。
領主の城は町から少し離れる。
次第に幅が広く深くなる川の先に高い崖がある。
崖の上には、石造りの古い城があった。
その日は満月だった。
伯爵アンダロスは、書斎で弟ハルダロスからの報告を受けていた。
「結婚……」
「はい」
部屋には何の明かりも灯されていない。満月の明るさも、書斎の小さな窓には充分には届かない。
薄闇の中で、アンダロスとハルダロスの姿は、はっきりとせず、ただ、二人の男の声だけが聞こえる。
「どうする気だ」
「勿論、隠し通します」
「無理に決まっている」
「そんな事ありません。あの家は呪術師の家です。必ず、兄上の役に立つでしょう」
「どうだかな……」
アンダロスは、嫁に来る長女が、呪術師としての認可を受けていない事を噂で知っていた。
しかし、弟は、希望を持っている。
「だとしても、この結婚で、呪術師の家との繋がりを持つ事になります。得られる物は大きいと考えます」
兄は、溜息をついた。
「分かった。やるだけやってみるがいい」
「はい」