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捨てられ令嬢は、呪われ伯爵と幸せになる  作者: セイバン・キイタ
19/55

19.エレイナ、行きます!

「エレイナ様!!」


 伯爵の部下アネルスが、馬を飛ばして一人、城に戻って来た。


 玄関で出迎えたエレイナに、アネルスは、蒼白い顔で報告する。

「伯爵が、病に倒れられました」

「えっ?!」

 

 アネルスは、ろくに休憩もせず、馬を走らせていた様だった。よろりとふらついたのを見て、エレイナが、居間に連れて行き、ソファに座らせた。


 給仕長が、夕食用の野菜スープを持って来て、アネルスに差し出す。

「どうか、召し上がって下さい」

「ありがとう」

アネルスは、一口飲んで、罪悪感を感じた様に項垂れた。

「アネルス」

エレイナは、心配そうにアネルスを見つめる。


「どうしたの」

アルの姿のアンダロスが、騒ぎを聞きつけて、顔を覗かせた。ぐったりとしているアネルスを見て、顔を悲しそうに歪めた。


 アネルスが、アルの気配に気付いて顔を上げた。

 アネルスは、伯爵の秘密を知っている協力者の一人だ。


 アネルスは、アルを見つめる。周りにいる給仕長や、使用人たちは、秘密を知らないので、口には出せない。

 ――弟君をお守りすることが出来ず、申し訳ありません――

 エレイナには、アネルスが、そう言っている様に見えた。


「何が、あったの」

アルが、訊いた。

 アネルスは、一瞬、言葉遣いに悩んでから、話し出す。

「国王の別荘地に領主たちが招かれて、盛大に狩猟大会が開かれているのは、知っているよね」

「うん」

「一日目の狩りの後、伯爵が、倒れられて」

「えっ」

アルは、衝撃を受けた様に、目を見開いた。

「怪我でもされたのですか」

エレイナが、訊いた。

 アネルスは、困惑して答える。

「それが、怪我らしい怪我もされておらず、原因が分からなくて」

「そんな……」

「高熱に苦しまれています。もう自分は駄目だと、お力を落とされて……」

「えっ!そんな」

 ――あの、優しいハルダロス様が、死ぬ?!――

 エレイナは、咄嗟に、アルを見た。

 アルは、何も言えず、辛そうに奥歯を噛み締めている。


「私、行きます!」

「奥様!」

給仕長が、ぎょっとした。

「当主不在時に城を守るのは奥様の役目です」

「分かっています。ですが、私が行かなければ」

エレイナの気迫のこもった目に、給仕長は圧された。

「奥様……」

「名代は、アルが」

「アルが?」

給仕長が、疑いの眼差しでアルを見た。

 エレイナは、アルを見つめる。本物の当主である、アンダロスを。

「アルは、我が家の血に連なる者。若くても私より聡明です。資格の上でも問題ありません」

「ま、まあ、そう言われてみればそうですが……」

給仕長は、躊躇いながらも同意した。


 エレイナは、アルに歩み寄った。しゃがんで、目線を合わせる。

 ずっと辛そうな顔をしていたアルは、エレイナに抱き着いた。

 小さく耳元で囁く。

「ごめん。俺が、こんな姿でなければ」

 エレイナは、微笑んで、そっと囁く。

「大丈夫です、旦那様。私、元気なハルダロス様をきっと連れて帰ります」

エレイナは、力強く、夫を抱き締めた。



 アネルスの休息と、エレイナの支度を整える為、出発は翌早朝となった。


 夕食後、アルの姿のアンダロスは執務室でアネルスの報告を受ける。

「王家の方々は、お体にお変りも無く、健やかなご様子です」

「そうか……」

「陛下が、御心配されておられました。直ぐに、医師や薬師を手配して頂いて」


 アンダロスは、心配を口にする。

「呪い、という事はないのか」

 アネルスは、首を横に振る。

「分かりません。狩猟の森には危険な植物もあるという事で、草の毒に触れられたのでは、と、陛下もそれを疑っておられました」

「確かに、王家と我が家の繋がりを知らなければ、呪いを掛けようとは思わない筈だが……」

「あの、呪いと言えば、呪術家であるブレスディエス家の当主も、招待を受けておいででした」

「義父殿が?」

「はい。狩りには参加せず、御観覧だけのご様子でしたが」


 アンダロスは、義父と妻の関係があまりよくない事を思い、一層不安になる。

「本当に、エレイナを行かせて大丈夫だろうか」

 アネルスは、本物の主の気持ちを分かりつつも、普段傍にいるハルダロスへの肩入れをしてしまう。

「御心配は分かります。ですが、今のハルダロス様には、エレイナ様の励ましが必要と存じます」


 アンダロスは、苦し気に、目を伏せた。

「……分かった。弟を死なせる訳にもいかない」

「はい」


 夜は、更けていく。



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