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捨てられ令嬢は、呪われ伯爵と幸せになる  作者: セイバン・キイタ
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16.秘密

 エレイナと、アルの姿になったアンダロスは、ベッドを背にして仲良く膝を立てて座った。

 雲から出た月の光が、二人を優しく包み込んでいる。


 アンダロスが、秘密を話し始める。


「私の家には、秘密の役目がある。王家を陰からお守りする役目だ」

「役目……」

「王家に降りかかる呪いを代わりに受ける、という、役目だ」

「え」

エレイナは、夫の淡々とした横顔を見ながら、目を見開いた。

「そんな……」


 アンダロスは、壁を見つめたまま、話を続ける。

「当主になると、王家の身代わりになって呪いを受ける様になる。呪いを受け続けると、やがて体が小さくなって、獣化する」

「そ、そうだったんですね……」


 ――だからアルには犬耳と尻尾があるのか――……


 エレイナは、アルが小さくなった夫だと心から納得した。

 では今まで夫だと思っていた人は誰だったのか?


 エレイナの疑問を読み取ったかのように、アンダロスは言う。

「今まで、夫の振りをしていたのは、私の弟、ハルダロスだ。弟は、私が当主になる前から、ずっと私の振りをして生きてきた」


「どうして、そんな」


「家の役目は秘密だ。誰が王家を呪いから守っているのか、それが明らかになれば、我が家が攻撃を受け、王家を守れなくなる。だから、表向き、普通に振舞わなければならない。

 当主は呪いを受け始めると、姿が変わってしまうから、呪いを受けていることがばれてしまう。だから、弟は、長年、私の振りをしてきたんだよ。秘密を守れるように、人を寄せ付けないようにして」


 エレイナは、夫だと思っていた義理の弟ハルダロスを思い浮かべて、申し訳ない気持ちになる。

「そんな事とは知らず、私は、あの方を責めるような事を言ってしまいました」

あの方は、むしろ私を守ってくれていた。

 初夜で、

”俺は、お前を抱くことは無い”と、あの方が仰ったのは、本当の妻ではない私の貞操を守る為だったんだわ。

 なんて優しい方なの。


 アンダロスは、エレイナを見た。

「俺と、弟は、秘密を守る為に、ずっと君に黙っていたが、これ以上、君を混乱させ悲しい思いをさせたくないと、打ち明ける事にしたんだ」


 エレイナは、涙ぐむ。

 私は、ずっと、旦那様と、ハルダロス様に、大事にされていたんだ。

 何も知らずに、勝手に落ち込んだりしていたのね。

「私の為に、大切な秘密を打ち明けて頂いて、宜しかったのですか?」


 アンダロスは、微笑む。

「だから、ここだけの秘密だよ」

 エレイナは、

「はい!!」

と元気よく応えた。

「私、家族に捨てられてますし、友達もいないので! 話す相手がいないから、絶対秘密を守れます!!」

 アンダロスは、ちょっと微妙な顔になる。

「そんな切ない事、元気よく言われても……」

「大丈夫です! 私、口堅いです!!」

エレイナは、拳を握り、震わせた。


 アンダロスは、微笑んだ。

「わかった。ありがとう」


 エレイナは、デレデレっとした顔になる。


――アルになったアンダロス様の笑顔も、素敵!!――


「なに?」

不思議そうな顔をする、アンダロス。

「何でも無いです」

答える、エレイナ。まだ顔が、でれでれっとなっている。


 アンダロスは、また壁の方に顔を向けた。

「結婚の話は、そちらの方から持ち掛けられたんだ」

 エレイナの顔が、暗くなる。

「父から……?」

「うん。そう聞いている」

 エレイナは、何となく、嫌なものを感じる。


「君が、呪術師ではないという噂は聞いていた。でも弟は、呪術家と結ぶことで私に掛けられた呪いを解く力を得られるんじゃないかと思ったんだ。私も、それに同意した」

 エレイナは、暗い顔を更に暗くする。

「申し訳ありません。呪術師としては、私は何の力にもなれません。おまけに父は、父は、私を捨てたので。私の嫁ぎ先であるカルヴァリオン家の為に協力してくれるかどうか」


 アンダロスは、暗く微笑む。

「弟は、義父殿に騙されたようだ」

「そう思います。神の前で誓った事ですから、婚約の際に結んだ契約の内容、特異条項に関しては、ちゃんとやってくれると思いますが……」


 特異条項とは、”呪術儀式を無償で執り行う権利”である。

 アンダロスは、契約において、結婚が継続している時期に限り、一度だけ、ブレスディエス家の呪術を無償で使う事が出来る、とされていた。


「それを使えば、私は元の体に戻ることが出来ると思う。でも、それを今使うことは出来ない」

「それは……」

「王家を守る方法を確立してからでないと」


 王家の身代わりに呪いを受けるアンダロスがいなくなれば、王家が直接呪いを受けることになる。

 それは国家の存亡にかかわる。


「私は、役目と思って今まで生きて来たけど、今は」

アンダロスは、エレイナを見た。

「君を抱きたい。君の子供が欲しい」

 エレイナは、嬉しく、頬を赤らめる。

「嬉しいです。けど……」

エレイナは、苦笑した。

「子供が、子供欲しいって……」

 アンダロスは、むっとなる。

「俺は子供じゃない! 身体が小さくなってるんだ。確かに、言動が子供に引っ張られることもあるけど……」

そのせいで、初めて会ったエレイナにビビッて逃げ出したり、平気で大浴場の女風呂に入って行けた。


「アルになった旦那様は、子供にしか見えません。その身体で子供が欲しい、と言われても、なんか、変な気分です」

「なんだよ。口説いてるのに」

「ごめんなさい。でも旦那様の子供、きっと可愛いですね」

 アンダロスは、嬉しいやら嬉しくないやら、複雑な気持ちになった。

「可愛いって……なんだよ」

「殿方に、可愛いは失礼ですね。ごめんなさい」

エレイナは、そう言って、顔を引き締めた。

「私、旦那様のお役に立ちたいです。何か、何かお役目を仰ってください」

 アンダロスは、嬉しく微笑んだ。

「ありがとう。特異条項で呪いを解くとしたら、その前に、王家に呪いが行かない様に手を打たないといけない。これをどうするか……」

「一緒に考えます」

エレイナが、言った。

 

「うん。ありがとう」

アンダロスが、微笑んだ。


 二人は、暫く、あれこれと話しをしていたが、アルになったアンダロスは、疲れやすい為か、気が付くとすやすやと眠っていた。


 エレイナは、夫の安らかな寝顔に癒される。


「やっぱり可愛い」

エレイナは、そう囁いて、夫を優しく抱き締めた。




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