12.アルが、のぼせた
二人きりの大浴場。
湯舟に二人きりの、エレイナと、アル。
アルは、じっとエレイナを見る。
秘密を打ち明けるには、良い状況かも知れない。
だが、
「やっぱり怒ると思う」
アルは、困った様に、他所を向いた。
エレイナも、困った様に顔を顰める。
「もう、何なの?」
「怒る。絶対怒る」
「怒らないって」
「怒る」
「怒らない」
アルが、堪らずエレイナを見た。
「どんな話かも分からないのに、何で怒らないって言えるの」
「じゃあ、話してよ」
二人は、黙り込んだ。
ぷっと、同時に吹き出した。
「何か、おかしな話してるね」
エレイナが、笑った。
「うん」
アルも、笑った。
よく見ると、アルの目は、とろんとなっていた。顔も赤くなっている。のぼせたのかもしれない。
「アル、大丈夫?」
「うん」
アルは、答えるが、力尽きた様にエレイナの肩に寄り掛かって来た。
エレイナは、そっと、アルを抱き留めた。
アルは、頭がぼうっとしながらも、エレイナの柔らかい身体が自分の体に当たっている感触に、嬉しさと悲しさとを同時に覚えた。何か言いたかった気もするが、頭が働かない。
「もう、出ましょうね」
エレイナは、そう言って、アルを支え、湯舟から出た。
脱衣所に行くと、アルを長椅子に寝かせ、体を拭いたタオルで風を送った。
「大丈夫?」
「うん」
アルは、暫くは息が上がっていたが、次第に落ち着いて来た。
「今度、話す」
ふいに、アルが呟く様に、言った。
エレイナは、風を送りながら、
「うん」
と、答えた。
「今度の、満月の、夜に」
と、アルは、言った。
満月の夜、と言う言葉を聞いて、エレイナは、とっさに思い出す。――以前、満月の夜に、窓辺に現れた男の姿を。
何者なのか。どこから来たのか。男は、何も語る事無く、月が雲に隠れている間に居なくなってしまった。
エレイナは、アルを見た。
「うん……」
エレイナは、そう答えた。




