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捨てられ令嬢は、呪われ伯爵と幸せになる  作者: セイバン・キイタ
11/55

11.大浴場に、行きました

 ”結婚とは、愛のないものだろう”――


 伯爵の言った言葉に打ちひしがれて、エレイナは、泣いた。


 泣き疲れて、黙り込んで、暗~く過ごす事、小一時間。


 はっと気が付くと、部屋は真っ暗だった。


 このまま寝てしまおうか。でも、朝、泣き腫らした顔になっているのは嫌だ。


 エレイナは、大浴場に行くことにした。




 大浴場は、源泉かけ流しだった。

 お湯には、美肌効果があるという。

 ここのお湯につかれば、顔が腫れずに済むのではないか。エレイナは、そう考えながらローブを脱ぎ、脱衣所を出る。


 大浴場に中に入った。

 床は、黒っぽい石が敷き詰められて出来ていた。

 壁の複数の据え付け型のランプに火が入り、うっすら暗いぐらいの、丁度良い明るさだった。

 数人の若い女性が、黒い石造りの湯舟につかっていた。皆、気持ちよさそうだ。

 湯舟の上の壁の四角い穴からお湯が流し込まれている。

 大浴場は、部屋が半分しかなく、もう半分は、野外と繋がっていた。そこは、大小様々な庭木が植えられていて、生け垣もあり、外から中を見る事が出来ない様になっていた。


 庭に面した場所からは、降るような星空が見えた。


 外からは冷気が入って来るが、お湯からは湯気が立ち昇っている。


 エレイナは、ぶるっと震えると、かけ湯が出来る所に移動する。


 ふいに、脱衣所の方から、賑やかな声が聞こえて来た。

 何か、きゃあきゃあ騒いでいる様な声だった。恐怖とかでなく、はしゃいでいる様な声だ。


「何かしら」

ぽつりと呟いた時、脱衣所から、女性たちと犬耳の男の子が入って来た。

「アル?!」

エレイナは、びっくりして、声を上げた。女性たちと入って来たのはアルだった。

 アルは、エレイナに気付くと、目を見開いて、顔を真っ赤にする。


「あらっ? この子、貴女の子供?」

女性たちの一人が、エレイナに声を掛ける。

「えっと、そ、そうです」

「かわいい子ね。親子水入らず、一緒に入ったら」

そう言って、アルをエレイナに預けた。彼女たちはきっと、子供(犬耳と尻尾は飾りかなんかだと思っているのだろう)が、一人でいたので心配して連れて来たのだろう。

「ありがとうございます」

エレイナは、礼を言って、アルを引き取った。


 アルは、目のやり場に困った様に、顔を伏せ、しゅんとしている。

「どうしてここに?」

 アルは、答えなかった。だが、彼の犬耳は素直に後ろに寝て、尻尾はふりふりと嬉し気に揺れていた。

 エレイナは、微笑んだ。

「一緒に体を洗いましょう」


 二人は、体を洗って、湯舟に入った。


「はーっ。ほっとするね」

エレイナが、言った。

 アルは、黙って俯いている。

 エレイナは、無理に訊く事も無い、と思い、自分も黙った。

 エレイナは、顔を上げた。満点の星が見えた。

「綺麗だね」

エレイナが、呟いた。


 アルは、顔を上げたが、星では無く、エレイナを見た。

 不安と希望の入り混じった横顔。

 星空を吸い込んで潤んだ、碧玉色の瞳。

 濡れて、はらりと頬に張り付く、炎色の髪。

 

 アルは、苦しそうに顔を歪めると、また俯いた。

「ごめん……」

そう、小さく呟いた。

 エレイナは、その呟きを辛うじて聞き取った。アルに顔を向ける。

「どうして、謝るの?」

「俺が、エレイナに、寂しい思いをさせているから」

「え?」

エレイナは、きょとんとなる。

「何の事?」

「俺が悪いんだ。俺が」

 エレイナは、過去を振り返った。しかし、アルに謝られるような事は、されていないと思った。いや、一つだけ、あるとしたら。

「キスした事を謝ってるの?」


 ピクニックに行った時、アルは、急に、エレイナにキスをした。

 でもあれは、嫌では無かった。


 アルは、苦々しく微笑む。

「俺は、エレイナに、嘘を付いている」

「嘘って?」

首を傾げるエレイナ。

 アルは、エレイナを見た。

「言ったら、きっと怒るよ」

「怒らないわよ」

エレイナが、当然の様に言った。


 すっかりのぼせた女性たちが一人、また一人、ゆっくりと湯舟から出て行った。

 気が付くと、大浴場には、エレイナとアルだけになっていた。



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