或る幼馴染
「しゅーくん! あそぼ!」
「いいよ! えりなちゃん!」
二人は何処へ行くにも何をするのも一緒だった。
母親同士が高校以来の親友であったために、産まれた時から家族ぐるみの付き合いがあった。
俗に言う『幼馴染』という関係だ。
「コウラ投げないでよ!」
「うるせぇアホ」
「はー? ないわー」
「レースに卑怯なんかねぇんだよ」
「ふーん。……だったらくらえ! リアルタックル!」
「うぉい!? ばっ、お前ぇ!?」
「えへへっ。そのままビリになれ、ばーか!」
二人は当たり前のように毎日一緒にいた。
特別なことも、そうでもないことも、全てを共有してきた。
「……誕生日おめでとう」
「え? なにこれ、プレゼント? ホントに……!?」
「おう……」
「ありがと! 絶対大事にする! 一生大事にする!」
「……頼んます」
「スーパーとかにさ、窓が鏡になってるデカいドアあるじゃん」
「うん」
「あれめっちゃ入りたくね?」
「分かる」
「服屋の暗証番号ポチポチするヤツも捨てがたい」
「超分かる」
くだらない小競り合いも毎日のように繰り返した。
「ゴウンゴウン鳴ってっからなんだと思ったら洗濯機か」
「せんたくき」
「は?」
「“せんたっき”じゃない。“せんたくき”」
「うざ」
「日本語は正しく使いましょう」
「“たいくかん”じゃなくて“たいいくかん”ってか?」
「そういうこと」
「『徳島に走ってんのは電車じゃなくて気動車』みてぇなこと言いやがって」
「何言ってんのお前?」
「あ?」
「お?」
どちらが優れているのかという競争は当たり前。何かにつけて順位を争ってきた。
「はい、今回もテスト全部私の勝ちです! 圧勝です!」
「スマシスで1回も勝てなかったくせに」
「ゲームじゃん」
「下に見てんじゃねぇよ、引き分けじゃこら」
「じゃあ、次勝ったほうが真の勝者ね。何する?」
「消しピン」
「よしきた。ボコボコにしてやる」
お互いの両親はまるで自分の第2の両親、はたまた長年の友人であるかのように捉えている。敬語などは一切使わず、それどころか渾名呼びである。
「パパ! みんなで焼肉行こ! 車出して!」
「断る」
「じゃあ、こーくん!」
「絶対やだ」
「ママ!」
「最後に運転したの二人が幼稚園の時です無理でーす」
「よーちゃん!」
「却下」
「なんで!?」
「「「「めんどいから」」」」
「なーんーでーよー!?」
「……つーか、先週行ったろ」
そして、時は流れ――
「今宵は、もしや……?」
「……ええ。"拾伍ノ夜"。魔王の封印が緩まり、奴等の魔胤の力が活性化する日」
「やはりか。どうりで左手が疼くわけだ……」
「"拾伍ノ夜"はこれで3回目。魔王の復活も近いでしょう」
「そうか……。ならば、急がなくては……」
二人して、中二病に感染した。
「秀って天使たん派? 悪魔たん派?」
「天使たん派」
「じゃあ、今日から敵ね」
「は? おめぇ悪魔派なの? 死ね邪教徒」
「はぁ? 邪教徒はお前だけど? あの人小馬鹿にしてる立ち振る舞いの良さが分かんないの?」
「メスガキはゴメンだボケ。やっぱ時代は清楚なんだよ清楚。優しく微笑みかけてくれるアレこそが至高」
「出たよそーゆーの。きっしょ」
二人してオタクになった。
「恵里奈、好きです。俺と、付き合って下さい!」
「……うんっ。私も……大好きです……!」
そして、二人してお互いを好きになった。