昔と変わらない――最高の笑顔だった
「貴様、ここで何をしている」
壮絶な鬼ごっこを終え、ベンチで休憩しているとシェルルがやってきた。
「ちょっと幼い頃のときめきを思い出していたのさ」
ベンチの傍に立つシェルルの方を見て、自然と笑みになる。
「ど、どうしたチョージ」
「いや、さ」
なんだかんだ言ってずっとシェルルに守られているんだなって、実感させられる。
「パスタちゃん。お城でパーティーやるからさ――」
「貴様がパーティーに招待される日が来るとはな――」
昔は優しいシェルルがいつか消えてしまうのではないかと思って、不安だった。
かつて消え去った両親のように、いなくなってしまうと思っていた。
「大体貴様は――」
でも、シェルルはいつも僕の傍にいてくれた。
「おい、聞いているのか?」
そんな彼女のことが、僕は好きだ。
「ねえパスタちゃん」
だから今なら堂々と、一つの迷いもなく伝えられるだろう。
「何だ? いや、だから私は麺類ではないと――」
「大好きだよ」
「な――」
僕がそう言うとシェルルは後ろを向いてしまった。おかしいな、おかしいな。
「ちょ、チョージ! 貴様は何回私をからかえば気が済むのだ⁉」
「からかってなんかいないさ」
僕はベンチから立ち上がり、シェルルの前方に回り込む。
「僕はずっと、君のことが大好きだよ」
君が外に連れ出してくれたあの日からずっと、ね。
「あわ⁉ あわわわわわわ⁉」
顔をこれ以上にない程最高に美味しいミートソースのように紅く染め上げたシェルルを、僕は優しく抱きしめた。かつて彼女が、僕にそうしてくれたように。
「ま、待ってくれチョージ……」
「シェルル――」
そして彼女の柔らかそうな唇に、僕の唇が重なる――はずだった。
「あー! チュウしてるー!」
「な⁉」
ザーナと遊んでいた子供の一人が僕達を指して、叫ぶ。
「ちょっ、待ってまだキスしていな――」
「うわああああああああああああああああああああああああああ!」
シェルル渾身の一撃が襲い掛かり、僕の身体は宙を舞う。
「ほげっ⁉」
次の瞬間。僕の身体はベンチから離れている、サッカーと呼ばれる旧文明のスポーツに用いるためのゴールネットに突き刺さっていた。
「あいたたた……」
「していない! わ、私はあの男とまだキスしていないからな!」
遠くからシェルルが必死に弁明する声が聞こえる。そんなに嫌だったのか……。
「おねえちゃんはあのおにいちゃんのこと、嫌いなの?」
「そ、それは――」
「それはー?」
シェルルがこちらをチラチラ見ている。わかったよ、シェルル。
「よっと」
僕はゴールネットから抜け出し、公園を後にする。
「わ、私はあいつのこと――」
別れ際に見えたシェルルの顔は昔と変わらない――最高の笑顔だった。
「さて――」
残るはあいつだけだ。
「どこにいるのかな」
僕の唯一無二の相棒――リール・アンサンブル。
「あいつパーティーとかそういうの、好きなのかな」
彼女を探して、僕は再び歩みを進めた。