ちょっと聞くけど
「お前は――」
リカルドに向かってメジャーバトンを投げてきた男。何者だ?
「俺? 俺は――」
彼がゆっくりとローブを脱ぎ捨てる。そしてその姿が現れる。
「タクト・スメラギ。マキナンジャー帝国特殊殲滅鼓笛隊、鼓笛隊長だ」
「マキナンジャー帝国、だと?」
かつてエルレシアン大戦争でガーデルピア王国の敵だった帝国だ。エルレシアン大陸で一番ロストテクノロジの解析が進んでいた国でもある。そして――
「チョージとイザベラさんを実験体にした国……」
僕と浅からぬ因縁がある国でもある。
「マキナンジャーの鼓笛隊長が何の用だっていうのさ」
「ちょうどいい駒が見つかったから、そいつを利用してこの王国を内部から崩壊させるつもりだった。だから力も与えてやったというのに――役立たずめ」
リカルドと第四騎士隊の周りに《焔奏怨負》が出現する。
「使えなくなった駒に用はない。消えろ」
「ジャーニー!」
「わかっている!」
ジャーニー達が《焔奏怨負》を迎え撃つ。
「マリナ! お前は大佐を連れて他の隊員達と城へ向かえ!」
「ジャーニー様は⁉」
「俺は大丈夫だ! チョージ達がいる!」
「でも――」
「命令だ! せっかく親父さんと和解できるかもしれないんだろ⁉」
「わ、わかりました!」
マリナ達がこの場を離脱するのを確認し、僕はタクトを睨みつけた。
「どういうことさ! 何故お前は《焔奏怨負》を操れる⁉」
「簡単なことだ。お前は《音楽姫》を、俺は《焔奏怨負》を操れる。両方とも兵器であることに変わりはない。俺達の選んだ兵器が違うだけだ」
《音楽姫》も《焔奏怨負》も起源は同じという噂を聞いたことがある。ガーデルピアは《音楽姫》を、マキナンジャーは《焔奏怨負》を自在に操れるようになった。
「タクト・スメラギ! お前は!」
要するに剣を選ぶか、銃を選ぶか、そのくらいの違いでしかない。
「さあ始めるぞ《スマイルマン》。俺の恐怖劇を味わうがいい」
再び周りに《焔奏怨負》が召喚される。
「ジーガル! ここは危険だ! ゼルネスを連れて城へ行ってくれ!」
「しかしだな」
「そこは避難所になっている! これ以上は危険だ!」
「チョージ……」
「わかった。チョージ、フーロ、皆。後は頼んだ」
「ジャーニー! 二人を城まで連れて行ってくれ!」
「お前がそう言うのなら――わかった。任せてくれ」
確かにジーガルとゼルネスは強い。でもこれだけの数の《焔奏怨負》の相手は無理だ。大人しく避難してもらおう。ジャーニーの護衛もあるし、問題ない。
これでこの場に残ったのは僕達鼓笛隊とタクト達マキナンジャーの刺客だけだ。
「タクト! 僕の大切な人達に手出しはさせない!」
「フッ、まあいいか。逃げた奴等は後でいくらでも殺せる」
お互いにメジャーバトンを構え、視線が交差する。
「お前の恐怖劇、僕が笑劇に変えてやる!」
「やれるものならやってみろ」
刹那――僕とタクトは激突した。
「ぐっ⁉」
「どうした? 余裕がないぞ、《スマイルマン》」
指揮杖と指揮杖が激突し、火花を散らす。一瞬にして理解する、力の差。
「だけど!」
それがどうしたというのだ。力の差? そんなものは僕に関係ない。
「僕は鼓笛隊長! 笑劇の鼓笛隊長だ!」
メジャーバトンに力を込める。
「何? どういうことだ?」
「お前には聞こえないだろうよ! リール達の演奏が!」
そう、僕には聞こえている。最高の仲間達の奏でる、メロディが。
「《音楽姫》の演奏支援か」
後ろで《焔奏怨負》と戦いながら、リール達が演奏している。その音色が僕に力をくれる。最大級の応援歌を聞きながら、僕はタクトに立ち向かう。
「だが――それがどうした!」
「がっ⁉」
タクトが僕を蹴り飛ばす。身体が思い切り吹き飛ばされ、地面に落下する。
「チョージ!」
だが落下の途中、僕の身体が柔らかい感触に包まれた。
「うぅ……パスタちゃん⁉」
なんとシェルルが驚異の身体能力で跳躍して僕を空中で受け止めたのだ。
大胆なことを! これじゃあどっちがお姫様かわからないな。
「二人とも! こっちだ!」
フーロさんが用意したバスドラムのクッションの上に着地するシェルル。
「ケガはないか?」
「や、やだ! パスタちゃんイケメン! キュンキュンしちゃう!」
「大丈夫そうだな」
あ、待って。もっと優しく下ろして。頭から落ちるから。
「よっと」
体勢を整え、メジャーバトンを構え直す。
「女に助けてもらうとはな」
「タクト、それは違うよ」
「何? どういうことだ」
「パスタちゃんはただの女じゃない。美少女だ!」
「チョージ⁉ き、貴様というやつは――」
隣でシェルルが顔を真っ赤にしている。可愛いなぁ、もう!
「お前、ふざけているのか?」
よし、ヤツのリズムが乱れた! ここから僕のペースに持っていく!
「ふふん! 僕のハーレムが羨ましいのかい?」
「チョージ、ふざけない」
「あ、ごめんなさい……」
何で味方であるリールに叱られなければならないのか。
「やれ」
タクトの指示で《焔奏怨負》が僕達を取り囲む。ヤツは苛立っている。少し挑発をし過ぎたようだ。このように囲まれては、化け物達の一斉攻撃を避けることができない。
「いや――」
まだ方法はあるはず――そうだ、《音楽姫》の演奏武装の性質を思い出せ!
「ザーナ!」
「ふっふっふ! 我に何用か?」
「ラグナロク・タイフーンで吹き飛ばせ!」
「それには詠唱が必要で――」
「隊長命令だよ! 急いで!」
「ええいっ! そなたは詠唱の素晴らしさが――」
「早く!」
「え、えっとだな――我が盟約に従い、吹き荒れろ! 黄昏の旋風よ!」
ザーナのシンバル、ラグナロク・タイフーンが光り輝き、彼女の手から離れて宙に浮く。
というか詠唱、意外と短いな。
「舞え! 我が配下達!」
それは僕達の周りを回転し始める。なるほど、これで竜巻を起こすのか――あれ?
「ザーナ。ちょっと聞くけど、何でシンバルは僕達の周りを回っているのさ」
「そ、それはその……」
風の層が僕達の周りに発生する。そして――
「詠唱を短縮したら、旋風のコントロールを間違えてしまったのだ!」
「あれ? おかしいな、おかしいな――ということは、まさか」
風の層は僕達を巻き込み、遥か上空まで吹き飛ばす。
「皆、僕に捕まってえええええええええええ!」