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笑劇の鼓笛隊長! ‐The impact of smiles.‐  作者: 羽波紙ごろり
笑劇に変えてやる
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貴様達の大切な物を壊してやる

「きゃあっ⁉」

「た、助けてくれ!」


 商店街に着くと大勢の《焔奏怨負インフェルノーツ》が人々に襲い掛かっていた。

 早く皆を助けないと!


「クワトロスティンガー」


 リールが四本のメジャーバトンで《焔奏怨負インフェルノーツ》達を貫いていく。だがその数は減るどころか増えているように見えるのは気のせいではないだろう。


「チョージ! どうするのよ⁉」

「決まっているでしょ! 《焔奏怨負インフェルノーツ》の殲滅を始めて!」


 アコ達が楽器を奏でながら《焔奏怨負インフェルノーツ》に攻撃を開始する。その間に僕は黒幕の一人であるリカルド・シャンクティを探そうとした。したのだが――


「《スマイルマン》、君も来たのか」

「リカルド・シャンクティ!」


 どうやら、あちらから来てくれたようだ。探す手間が省けた。


「おやおや。いつもの笑顔はどうした?」

「悪いが僕の笑顔はお前みたいなクソ野郎に見せるもんじゃないって、気づいたんだ!」


 僕はマスターバトンを構え、リカルドに飛び掛かる。


「指揮杖などで私を倒せると思っているのか?」

「思っていないよ!」


 僕は直前でマスターバトンを左手に持ち替えると、エネルギーチャージの終わった右手――機械でできている右手の力を解放した。


「まさか、その拳は――」

「お察しの通りさ! リズム・ナックル!」


 一定のリズムを刻みながら、リカルドを殴り続ける。


「僕が十年前にロストテクノロジの実験体にされたことがあるって、知らないのかい」

「そういえば、そうだったな」


 殴り飛ばされ、地面に倒れそうになりながらその場に立ち続けるリカルド。


「やはり君も、《音楽姫ビートマタ》と同じか」


 その通り。僕は十年前ガーデルピア王国の敵国に捕まった時にロストテクノロジの実験体にされた。その時にこのサウンド合金でできた義手の右手を手に入れた。

 サウンド合金は《音楽姫ビートマタ》の身体を構成するナノマシンを混ぜ合わせて完成する金属だ。だから僕の右手はリール達と変わらないと言ってもいいのである。


「まあ人体実験の影響で、薬なしでは生きられないようになったけどね!」


 立ち上がったリカルドに、さらにリズムよく拳を叩きつける。


「おまけに音楽がノイズにしか聞こえないし、音楽学校では成績が最下位だったよ!」


 それでも音楽を嫌いになれなかったのはきっとリール達に出会うためだったのだろう。

 今では彼女達のおかげで少しずつ音楽が聴けるようになってきている。


「だから王国軍に入ったのに! 僕はここでも落ちこぼれだった! 誰も助けられなかったのに、泣くための勇気が僕にはなかったんだ!」


 悔しかった。悲しかった。でも笑うしかなかった。誤魔化すしかなかった。


「でも気づいたんだ! ダメだって! 笑って誤魔化してばかりじゃダメなんだ! それじゃあ皆は笑ってくれるわけがないんだよ! 僕はピエロじゃないからさ!」


 最後の一撃を、リカルドに叩き込む。


「僕は――ただの人間だったんだよ! 《笑顔の悪魔スマイルマン》になれるはずがないんだ!」


 これが皆に笑顔かめんの下の笑顔えがおを暴かれた、僕の答えだ。


「さっきから急に話し始めたと思ったら、意味の分からないことを」

「お前にわかるはずがない!」

「何?」

「お前はまだ仮面を着けているからね!」

「私が仮面を着けているだと?」

「そうだ! 何が目的で反乱を起こしたのか知らないけどさ、自分の娘に何も相談しないなんて、おかしい話だよ! そうやって仮面という名の他者との壁を作るから!」


 僕は左手でマスターバトンを握り、右手のリズム・ナックルを構える。


「今度はお前の番だ! お前の魂の叫びを聞かせてみろ!」

「私の番? 魂の叫び? クク……」

「そうさ! これは――戦奏せんそうだ!」

「戦場でふざけたまねを」


 瞬間。リカルドの姿が一瞬にして消える。


「どこいった――」


 影に潜ったのだろう。周囲を警戒、いつ現れてもいいように武装を構える。


「黒い染みが丸見えだよ!」


 マスターバトンを、リカルドの気配がする方地面に突き立てる。

 だが――


「残念。そちらはフェイクだ」

「な――」


 誘導されていたのか。迂闊だった。


「死ね」


 リカルドの黒く染まった大きな爪が僕に襲い掛かる。


「僕が鼓笛隊長だということを忘れていない?」


 不意打ちを仕掛けたつもりだろうが、そうはいかない。

 僕は一人で戦っているわけではない。


「リール!」


 すぐに四本のメジャーバトンがリカルドの身体を貫く。


「チョージ、大丈夫?」


 そう、僕は鼓笛隊長。特殊戦術鼓笛隊の皆と共に戦っているのだ。


「ぐっ⁉ があっ……」


 しぶといヤツめ。《焔奏怨負インフェルノーツ》と契約した影響で体力が人間のそれを超えている。


「貴様ら、よくもやってくれたな……!」


 四本のメジャーバトン――クワトロスティンガーが貫いた彼の身体から、どす黒い奇妙な液体がドバドバと流れている。あれは人としてのものか、それとも化け物の証か。


「こうなったら――貴様達の大切な物を壊してやる」


 リカルドの姿が地面に吸い込まれていく。ここは商店街だ。すぐに僕はヤツの狙いに気づいた。パン屋が、ジーガルとゼルネスが狙われている。


「チョージ」

「わかっている! 鼓笛隊はパン屋へ向かって!」


 急いでパン屋に向かわなければ――二人が危ない。


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