し、しません! しませんから!
作戦はこうだ。
「それじゃあ皆、位置に着いたね?」
『問題ないわ』
『大丈夫……です』
『うむ! 問題ないぞ』
『チョージくん、始めてくれ』
《音楽姫》達を王都にバランス良く配置し、演奏を開始する。その特殊な反響を利用してリカルド・シャンクティ及び《焔奏怨負》の隠れている場所を特定するというものだ。
「チョージ、やろう?」
「ああ」
リールは指揮をするためにここに残っている。ネットワークは繋がっているので、何かあればすぐに連絡が来るだろう。
それじゃあ、始めようか。
「各員、演奏武装展開!」
僕が指示を出すと同時に彼女達が楽器を顕現する。
『来なさい! ブレイジング・ハート!』
アコがアコーディオンを――
『ミステリアス・タワー……お願いします』
リコがリコーダーを――
『現れろ、我が盟約に従いし者! ラグナロク・タイフーン!』
ザーナがシンバルを――
『やるかい? ジャイアント・スタンプ』
フーロさんがバスドラムを、顕現する。リールの時も思ったが、自分の楽器に名前を付けるのが《音楽姫》の特性なのだろうか。かっこいいからいいけどさ。
「じゃ、ガーデルピア行進曲を特殊な周波数で演奏してくれ」
『了解』
すぐに演奏が始まった。まともに練習ができていないけど流石は《音楽姫》。なかなか綺麗な――いやかなり綺麗な音を奏でてくれる。雑音なんかじゃない。
「本当に演奏しているのか? 私にはまったく聞こえないのだが」
パスタちゃんのような普通の人間には何も聞こえていない。僕は今リールと聴覚を共有しているから聞こえているのだが、この演奏は誰にも届いていないのだ。
その事実がとても悲しい。この事件を解決したら、今度こそ真面目に練習しよう。
「チョージ」
しばらく待っているとリールが僕を呼んだ。
「見つかったの? どこにいたの?」
「商店街の近く」
「商店街だって⁉ あそこにはパン屋が――」
「リカルド・シャンクティ達は影に紛れながら商店街へ向かっている」
何故商店街に? 目的は王国への、王族への反乱ではなかったのか?
「貴様! 先走りすぎだ! 焦るな!」
「だってこのままじゃゼルネス達が! 商店街の皆が!」
「落ち着け。貴様は鼓笛隊長だろう?」
おっと、そうだった。ありがとうシェルル。
「各員はすぐに商店街へ向かってくれ」
急いで皆に指示を出す。僕は隊長だ。僕の命令は絶対だ。
「それでは王女様。失礼するよ」
「ワラヅカ軍曹……」
「くれぐれも残った兵士達に料理を振る舞わないでね?」
「し、しません! しませんから!」
「本当かなぁ」
「ほ、ほら! 早く商店街に向かってください!」
「はーい」
「チョージ! 貴様何をモタモタしている!」
「ごめんパスタちゃん。今行くよ!」
僕達はすぐに商店街へ向かった。
リカルド・シャンクティは何故商店街に? その真相を確かめなければ。
「皆さんが帰ってきたら――パーティーでもしましょうか。その時は軍曹に激辛の余興を楽しんでもらいましょう。うふふ」
ん? 今、寒気がしたような。まあいいか。