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笑劇の鼓笛隊長! ‐The impact of smiles.‐  作者: 羽波紙ごろり
君を奏でるために、ここへ来た
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あなた達に会ってほしい子がいます

「おい、おい、おい! どういうことさ、王女様よ?」


 あれから一時間後。僕はこのガーデルピア王国の城で第四王女と謁見していた。


 僕の口から飛び出しているのは、もちろんこの辞令についての不平不満である。


「口を慎め、軍曹! ハイス王女の前だぞ!」


 うるさいな、パスタちゃん。こんなの僕は納得できない。演奏ができない僕が、隊長? そんなことでは隊の統率は執れないぞ。


 王国はドラムメジャーを舐めているのか? メジャーバトンはただ振れば良いというものではないのだ。僕の指揮一つで、全てが乱れるのだぞ?


「ワラヅカ軍曹。あなたの気持ちはわかります」


 頷くのはこのガーデルピア王国の第四王女であるハイス・シェンダム・ガーデルピアだ。王女には軍に入った時から世話になっているが、今回の件は納得するわけにはいかない。


「わかるならさ、僕が隊長なんてやったらどうなることか――」

「ええ。この軍は――下手をすれば、国が終わります」


 そこまで断言しなくてもいいじゃないか。怒るぞ。怒っちゃうぞ。


 しかし王女の言っていることは概ね事実であることを、僕は認めなければならない。


 僕には、何の才能もない。趣味で旧文明の遺産を集めているだけの、ただのガキだ。そんな僕が隊を率いるなんて、軍の古株どもが黙っていないのではないだろうか。


「だからこそです」


 王女は僕の目をしっかり捉え、ゆっくりと僕に語りかける。優雅ながらも安心感を与えてくれるその所作に、心を奪われそうになる。ああ、きゅんきゅんしちゃう。


「おい貴様。何か、ふしだらなことを考えていないか?」

「そんなわけないでしょ。パスタちゃんじゃあるまいし」

「貴様ぁ!」


 あれ、違うのか? パスタちゃんは夢見る乙女だと思っていたのに。


 昔は、将来お嫁さんになるのが夢だって、言っていたはずなのに。彼女はそんな夢を見るような年齢ではなくなったというのだろうか。ちょっと、悲しいな。


「それで? 国が崩壊する危険性があるにもかかわらず、僕を鼓笛隊長に任命した理由は何なのさ? 王女のことだから、何か考えがあるのでしょ? そうでしょ?」

「はい」


 王女は一度窓から見える街の景色を一瞥すると、深呼吸をした。微かに膨らみを見せる胸が、静かに動く。これから王女は何を言うつもりなのだろうか。


「おい貴様。またふしだらなことを考えていないか?」


 しつこいよ、パスタちゃん。そういうこと言う方がエッチなこと考えているでしょ。


 ここは一発、ガツンと言ってやらねばならない。


「まさか! 王女の胸なんて見るわけがないでしょ? 僕はパスタちゃんのような大きい胸が好きなんだから。ね?」

「貴様ぁ!」

「スパーダ少尉! 静かにしなさい!」

「は、はい! 申し訳ございません!」


 やれやれ。パスタちゃんはとんだ淫乱娘だな。困ったものだ。


「ワラヅカ軍曹。あなたも真面目に話を聞く気がないなら、この部屋から出て行ってもらいます! 次は警告しません! 私は本気です!」


 悪かった。だからそんな泣きそうな顔をしないでくれ。


 もう僕は、誰かが泣く顔を見るのは、嫌なんだから。


「いいですか軍曹。これから話すことは、とても重要な、未来に関わる話なのです」


 未来、ねえ。まあ、聞くだけ聞いてみるか。


 世界がこれからどうなったとしても、僕にはそれをあちらこちらへと変える力はない。


 僕に、未来を導く力なんて、ない。それなのに僕がドラムメジャーをやるなんて、やはり何かがおかしいような気がする。自分の人生すら、僕は指揮を執ることができないのに。


「十年前。この大陸で起きたエルレシアン大戦争が終わりました」

「はい、はい。そうでしたね」

「あの戦争の発端は旧文明の遺産、ロストテクノロジをめぐって争ったことです」

「知っているさ。その戦争の影響でこの世界、《ワガ=セナーヤ》にはロストテクノロジが生み出した闇が溢れた。このくらい、王立学校に通わなくてもわかることでしょ」

「では軍曹。ご存じですか、わが国を――この世界を脅かす存在のことを」

「《焔奏怨負(インフェルノーツ)》、のこと?」


 今この世界には、ロストテクノロジをめぐって十年前に起きた戦争の影響で、《焔奏怨負インフェルノーツ》と呼ばれる化け物が発生し、人々の脅威となっている。《焔奏怨負(インフェルノーツ)》の正体は不明だが、人間の感情――心の不協和音を喰らうために人々を襲うということは確かだ。すでに《焔奏怨負(インフェルノーツ)》の犠牲となった者達が大勢おり、各国はそれぞれ対策を練った。その結果、毒を以て毒を制するということで、考えが一致したのだ。


 つまり、ロストテクノロジにはロストテクノロジで対抗することにしたのである。


「そういうことか、王女様。王国軍に鼓笛隊ができた理由は――」

「はい。我が王国でも、遂にロストテクノロジの解析が進んだのです」


焔奏怨負(インフェルノーツ)》に唯一対抗できると言われている彼女達(・・・)を生み出すことに成功したのか。


「《音楽姫(ビートマタ)》、か」

「はい」


 王女は椅子から立ち上がり、僕とパスタちゃんを手招きした。


「来てください。あなた達に会ってほしい子がいます」


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