すごく美味しいパフェが食べたい
あれは、彼女を王都に連れてきた次の日だった。
「気分はどうだい?」
僕は彼女に会うために王都のとある病院を訪れていた。
「最悪」
彼女が入院している病室に僕は早速笑顔で入ったのだが――
「相変わらず、おかしな笑顔」
そう呟かれてしまったのだ。あれは悔しかった。
「そうかな?」
「苦しそうで、まるで仮面を着けているよう」
「あはは……」
「あなた、上手く笑えない理由があるの?」
「うっ……」
「やっぱりあるの?」
「昔、両親が死ぬ瞬間を見てしまってね――それは君も同じだったね。ごめん」
「笑いながら言うこと?」
「あはは……」
「気に入らない」
「君が笑えと言ったんじゃないか」
「それは、そうだけど」
「でしょ?」
「でもそういう作り笑いじゃなくて」
彼女はシーツを被り、僕に背中を向ける。
「どうしたの?」
シーツを取り前方に回り込み様子を見ると、彼女は不器用な笑顔の練習をしていた。
「な、何?」
僕に気づいた彼女のおかしな顔を見て、思わず吹き出しそうになる。
「やっと、笑ってくれた」
「え?」
「なんでもない」
彼女はそう呟くとシーツを脱ぎ捨て、ベッドの上に腰掛けた。
「どうしたの?」
「ベッドの上じゃつまらない。どこか連れて行って」
「でもこの地域、あんまり面白いところないよ?」
「じゃあお話して」
「話?」
「あなた、王都に住んでいるって聞いた」
「誰に?」
「もう一人の男の人に聞いた」
ジャーニーのことか。僕の個人情報を漏らしやがって――親友だから許すけど。
「ね。何かお話しして」
「何かって、何さ?」
「あなた、王都のどこに住んでいるの?」
「パン屋だよ」
「パン屋?」
「正確にはパン屋の二階さ。そうだ、今度そこのパンを持ってきてあげるよ」
「いいよ、別に」
「食べたいって顔をしているよ」
「人の顔をじろじろ見ないで」
「ふふっ、そういう君はパンじゃなくて何を食べたいんだい?」
「え?」
「体力が戻ったら食べに行こうよ」
「パフェ」
「パフェ?」
「うん。すごく美味しいパフェが食べたい。村には無かったから」
それから僕達はしばらく自分の行きたいところ、食べたいもの、とにかく話題は尽きず、ずっと、ずっと話し続けた。