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第4話 まずは求人募集から!

「お、お嬢様、やっぱり帰りませんか?」

「なぁーに日和(ひよ)ってんのよう! ひっく、あんたも飲みなさい! あーあ、あのアレックスの馬鹿野郎ったら、ひっく、今度会ったらね、ただじゃおかないんだから……」


 婚約破棄の夜から2週間後。

『プロジェクト・ジャークダー』の詳細な計画立案を終えた私は、パルレと一緒に平民街の裏町にある居酒屋で酒を飲んでいた。二人とも平民風の変装をしている。

 正確には飲んでいるふりをしているだけだ。いや、私はちょっと飲んでるけど……パルレは下戸なので一口も飲んでいない。


 平民街でも貧民しか近寄らない安居酒屋だ。

 そこらじゅうにコバエが飛んでいるし、床もテーブルもろくに掃除をしていなくてべったべただ。そしていまの私たちは、失恋してヤケになってそのへんを飲み歩き、ろくでもない店に迷い込んでしまった商家の娘とその付き人……という設定である。


 そんな店なので、当然のこと客層が悪い。

 ほとんどの客は、裾がぼろぼろにほつれた麻の服を身に着けている。薄汚れた革鎧で腰に短剣をぶら下げているのは冒険者ってやつだろうか? モヒカンでトゲトゲ付きの肩パットをつけてるのまでいる。内心で世紀末居酒屋と名付けることにした。


 どうしてこんなところに来ているのかと言えば、悪の秘密結社の戦闘員となる人材のリクルーティングが目的だ。ヴラドクロウ家の私兵を使っては足がつくし、大っぴらに募集するわけにもいかない。また、まともな生業のある人間は戦闘員になんかなってくれないだろう。ならば裏町をうろついているチンピラたちを狙おうというわけだった。


「げへへ、お嬢ちゃん方、こんなところでふたりで飲んでるなんてあぶねえよ?」

「そうそう、お兄さんたちと一緒に飲もうぜい」

「ひっ、けっ、けっこうです!」


 おー、さっそく釣れた。やってきたのはモヒカン2人組だ。

 どちらもいかにもゴロツキってな顔つきで、正直見分けがつかないレベルである。ひょっとして、双子? ま、そんなことはどうでもいい。怯えているパルレには悪いが、ここは作戦を続行しなければ。


「へー、お兄さんたち、イケてる髪型じゃーん! その肩のトゲトゲ、超ウケるんだけどー! ねえねえ、触ってみてもいい?」

「ちょっと、お嬢様、こんなのにかまっちゃいけませんよ!」

「へいへい、ちっちゃいお嬢ちゃんよ。俺たちをこんなの扱いとはどういう了見だ?」

「まーまー、お兄さんたち、そうツンケンしないでよー。それより、トゲトゲ、触っていいのー?」

「へへへ、かまわねえぜ。なんなら俺の股ぐらのトゲトゲも……」

「うわー、開幕シモネタとかありえなーい。お詫びに一杯くらいおごってよねー」

「こっちのお嬢ちゃんは話がわかるじゃねえか。おう、親父、いつもの頼むぜ」


 私は前世を思い出しながら、タチの悪い酔っぱらいのお姉さんを精一杯演じていた。

 下卑た笑いを浮かべたモヒカンたちが奢ってくれた酒を嗅ぐと……うわぁ、アルコールきっつう。それから変な混ぜものの臭いがする。前世でいうところのデートドラッグってやつだな。酒に混ぜて、眠らせてどうこうしちゃおうっていう半グレなんかが使うイケないおクスリだ。


 私はモヒカンたちと他愛もないやり取りをしながら、酒を飲んだふりをして床に捨てる。パルレのものも同様だ。頃合いをみて、クスリが効いて朦朧としている演技をする。すると、モヒカンたちは介抱するふりをして私たちを店から連れ出した。


 * * *


「それでこんなことになっちゃってるんですけど、本当に大丈夫なんですか、お嬢様!?」

「もちろん大丈夫よ。いまのところ、忍者戦隊シノブンジャーの第29話『潜入! 誘拐怪人を追え!』の展開とまったく一緒だわ」

「なんですかそれ!? ぜんっぜんわからないんですけど!?」


 薄暗い倉庫に連れ込まれた私たちは、後ろ手に縛られて椅子に座らされていた。

 そのへんに転がされてないのは、吐瀉物で窒息したりしないようにするためだろう。モヒカンたちにそんな知恵はないだろうし、指示役のブレーンがいることが察せられる。


 むう、こういう危ない目に遭うのに嫌気が差して、組織(・・)を辞めてただの会社員になったはずなのに、どうしてまた同じようなことをしてるのか……。


 って、あれ? 私はいま何を考えていた?


 頭を振って思考の焦点をいまの状況に合わせる。

 まずは状況の整理。居酒屋からモヒカン2人にさらわれて、廃倉庫にまで連れてこられた。2人とも拘束され、モヒカンたちは油断しているのか見張りのひとりもいない。上手くいきすぎなくらい計画どおりである。


 計画と違う点は、パルレが一緒にいることだ。本当はひとりで実行したい作戦だったのだが……パルレがどうしても一緒についていくと聞かなかったためこういう形になった。勝手に追いかけてこられるよりは目につく範囲にいた方が安心なので、しぶしぶ承知したのである。


 なお、お父様は先日の一件で私の中に目覚めた武人の血を信頼してくれたそうで、「大いにやってこい!」と背中を押してくれる始末だった。さすがは武力90キャラだけはあって豪快だ。


「大丈夫って言われても、縛られてちゃ何もできないじゃないですか……」

「うん、すぐほどくからちょっと待っててね」

「はい、ありがとうございます……。って、えっ!?」


 私はするりと縄抜けをすると、パルレの縄もほどいてやる。

 すると、パルレがまん丸な目を白黒させながら聞いてきた。この娘は表情がころころ変わって本当にかわいらしい。


「どどど、どうやったんですか!? あんなに固く縛られてたのに!」

「縛られるときに力を込めておいてね、あとから力を抜くと遊び(・・)ができるの。緩みがあれば縄抜けなんて簡単だから、それだけのことよ」

「なんでそんなこと知ってるんですか!?」

「さっきも言ったけど、シノブンジャーの29話と同じ展開なの。ED後のおまけコーナー、『やってみよう! 誰でも忍法!』でも詳しく紹介してたわ」

「は、はあ……」


 忍者戦隊シノブンジャーは、名前のとおり忍者をテーマにした戦隊ものだ。

 ユニークだったのは、単に忍者をモチーフにしただけでなく、史実として伝わる忍術を多数登場させた演出だ。中でも視聴者が真似できそうな手品じみたものはエンディングテーマ後に流れる1分ほどのおまけコーナーでやり方を紹介していた。ブルーレイ特典ではさらにそれを詳しく解説しており、ファンの間では「おまけが本編」などと冗談交じりに言われていたほどである。


 そんなことを思い出しつつ、縛られていた手首を振って血行を回復させていると、倉庫の外から声が聞こえてきた。


「げへへ、今度のはすごい上玉ですぜ」

「こりゃあ高値で売れますよ。なんなら、《黒百足(くろむかで)》の姐さんに直接紹介してもらっても……」

「お頭の名を気安く呼ぶな。それに品定めは俺がする。チンピラごときが出しゃばるな」


 私はパルレに縛られたふりを続けるよう小声で伝えると、扉の影に身を隠し、自身に身体強化の魔法をかけて息を殺して待った。

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