7話 止まり木亭での朝餉生活
…今は…一番鶏が鳴く前ぐらいだな。
アートを起こさぬようそっと屋根裏部屋を出て厨房へ向かう。
さて、朝の賄を作りますか。
昨日の残りの牛乳に卵を混ぜ、自前で用意した蜂蜜を少量混ぜる。
でこれに昨日の残り物のパンを半分に切ってつけてゆく。
乳卵液が浸み込む間に火を起こす。
竈に薪と藁をくべて
『チャッカ』
藁に火が付き勢いよく炎が上がる。
火力が上がる前に鍋を竈に置き、芋やニンジンを切っておく。こちらは賄用だけでなく朝食に出す分も。
切った傍から鍋にぶち込んでゆく。ぶち込む前に塩を入れておくのがポイントだ。
火力が上がったところでフライパンを竈に置き乳脂を溶かす。そこに卵乳パンを投入すると、
<ジュー>
「おやまぁ、今日はやけに早いと思ったらシルド坊だったのかい。」
「勝手にやらせてもらってるよ。」
「構わないさ、私たちの賄も用意してくれてるんだろ。それに客の分の下ごしらえも。そこまでしてくれなくってもいいのに。」
「今日は朝早くからアートを連れ出すんでね。彼の分の仕事もやっておこうと思ってね。ほいっ!焼けたよ。」
「何だいこれは?昨日の残り物のパン?…<はむ>…お前さん、蜂蜜使ったね。そんな高価なもんどこにあったんだい?」
「俺の秘蔵品だよ。ほれっ、レシピと蜂蜜。」
「そんな高価なもん頂けないよ。」
「そんな高いものじゃないって。仲良くなったクインビーからのもらい物だから。」
「特級魔物の『クインビー』と仲良くなるなんて…想像つかないね…それにこれ一瓶で城が建っちまうよ。」
「成分的には普通の蜂蜜と変わんないって。このレシピで賄い分だと半年は持つでしょ。」
「まあ…くれるって言うんだったらもらっておこうかね。で食べたらすぐ出て行くのかい。お前さんならいくらでもうちにいてくれていいんだよ。」
「申し出は嬉しいんだけど、クランを追い出された以上、この街に居続けるのは難しいと思う。ごめんね。」
「…そうかい。まあしかたないかねぇ。まあ頑張んな!」
「はい。」
「遅くなりましたーー!」
「アー坊、遅いよ。お前さんの仕事。全部シルド坊がやって置いてくれたよ。」
「シルドさんっ!すいませんでしたー!」
「気にしなくてもいいよ。こっちの都合で朝早くから連れ出すんだからね。それよりさっさと朝飯食ってギルドへ行くぞ。」