6話 止まり木亭での屋根裏生活
屋根裏部屋に向かうとおばちゃんから聞いていた通り、そこには先客がいた。
「よう、邪魔するよ。」
「あっ、ハイ。」
厨房で皿洗いしてた子だ。
「自己紹介がまだだったな。俺の名はシルド。シルド=グロップだ。」
「『シルド』……もしかして『黄金の剣盾』のシルドさんですか?」
おや?対外的には名を売った覚えはないんだが。
「『元』だよ。今日クランを追い出されて今はただの『シルド』さんだよ。」
田舎に帰れば『二ーフ村のシルドさん』になる予定だ。
孤児だったが、グロップ神父が親として登録してくれたので苗字は『グロップ』だ。
レードの苗字も『グロップ』なので兄弟と思われた時もある。ある意味兄弟だがな。
「しかしどうして俺の名を?」
「『黄金の剣盾』の若い冒険者が話してたんです。『シルドさんは無茶ぶりするけどいざとなったらもっとも頼れる冒険者だ』とか『リーダーのレードさんはグイグイひっぱてくれるけどシルドさんは下でどっしり支えてくれてる』とか。」
クランで受けた依頼をこなす場合もあるが、所属冒険者が個人でギルドで仕事を受ける場合もある。その時に誰かかが話したんだな。
「しかしいくらクランを支えようとも実績を上げないとクビになるんだよ。」
「そんな…」
「お前さんは今日は皿洗いしてたけど、冒険者なんだろ。」
「はい。あっ申し遅れました。ぼくはアート…、アート=ジェル…といいます。」
丁寧なしゃべり方だな。基礎教育は受けたような…『アート』『アート』『アート』…
そういえばひと月前、ジェラルミン子爵家で御家騒動があったな。そこで廃嫡された子供が『アートルド』
…
後ろ盾もなく追い出され、ここに拾われたってとこか。
「なかなか受けれる依頼がなくて。依頼のないときは女将さんに皿洗いをさせてもらってます。」
「そうか。懐かしいな。」
「え?」
「俺たちも君らぐらいの駆け出しのころにやっていたんだよ。皿洗い。丁度この部屋に寝泊まりさせてもらってね。」
「そうだったんですか。」
実際には『受けれる依頼がない』って事はない。
草取りや溝さらい等、低ランクでも受けれる依頼は結構あるが、割のいい依頼は争奪戦だ。
仲間と協力して入手しないとすぐはけてしまう。
「俺にはレードって相棒がいたがアートはソロか?」
「はい。低ランクの僕と組んでくれる人はなかなかいなくって…」
冒険者は ギルドに登録すれば誰でもなれるが、駆け出しなら、同郷の者同士でパーティーを組むか、同郷の先輩にパーティーに入れてもらうのが普通だ。
「そうか、なら明日一緒にギルドへ行こうか。アートの事、ギルマスに相談してみよう。」
「そんなシルドさん。悪いですよ。」
「何、俺もおせっかい焼いてもらって助かった口さ。今度は俺が おせっかい焼く番だ。悪いと思うんなら早く一人前になって後進におせっかい焼く立場になるこったな。」
「…はい。」
「よし、そうなれば朝は早い。さっさと寝よう。おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。」