20話 二ーフ村への帰省生活
何事もなく馬車を走らせる中、もうじき分岐点に差し掛かる。
「座長、馬車を止めてくれ。」
「何を言っているのです?シルドさん。ワキヤ。そこの脇道へ入ってください。」
「はい。」
「座長?」
「シルドさんのおかげで今回の旅は大助かりだったのです。せめて村まで送り届けますよ。」
「そこまでしてもら……ありがとうございます。」
並走しているタッパーもサムズアップしている。
他の皆も知ってやがったな。
そんなサプライズに、ちょっと泣きそうになったことは皆には内緒だ。
小一時間もすると村が見えてきた。五年ぶりぐらいか。あんまり変わんないな。
「なんだなんだ?何の一団だ?」
「お~い。アンクおじさ~ん。」
道沿いの畑で作業しているアンクおじさんを見つけた。
「シルドでね~か。帰ってきたのか~?」
「あ~。この一団に村まで送ってもらったんだ~。」
「そ~けぇ。今度はいつまでいるんだ~?」
「しばらくいるつもりだ~。」
「相方はどうした~?」
「たぶん1、2週遅れて帰ってくると思う。」
「そ~けぇ。皆にシルドが帰ったことは伝えとくよ~。」
「頼む~。」
これで昼過ぎまでには俺が帰ったことが村中に知れ渡るだろう。
そうこうしているうちに一団は教会へとたどり着き俺が馬車から降りると、中から神父が出てきた。
「ただいま。神父。」
「お帰りシルド。こちらの皆さんは?」
神父は何も問わずに俺を迎えてくれた。
「俺をここまで送ってくださった演劇団『ウーズメ一座』と護衛冒険者『群青の騎馬』の皆です。」
「これはこれは。息子を送ってくださりありがとうございます。」
「いえいえ。あっ、私、当一座座長を務めておりますアーマノ=ウーズメと申します。シルドさんには同行していただいて非常に助かりました。そこで相談なのですが大聖堂をお借りすることはできますか。」
「お貸しすることはかまいませんが、貧しい村なので対価等払えませんよ。」
『演劇団が聖堂を借りる』という事は『そこで公演を行ってもいいか』という事になる。
通常、聖堂で演劇等もってのほかなのだが、芸の聖人ダンジ=ウロを祀り奉納するという形なら許されているのだ。
とはいえ、ほとんど物々交換で成り立っている村で観劇料等払えるものではない。
「いえいえ。シルドさんへのお礼も兼ねて『一夜限りの特別公演』をさせてもらおうかと思った次第です。」
「ありがとうございます。聖堂にはシスターが居りますので彼女の指示に従ってください。皆さまに聖ダンジ=ウロの御加護があらんことを。」
「という事です。みんな。準備に取り掛かってください。」
「…「はい!」…」
一座の皆はさっそく準備に取り掛かる。
「旦那。あっしらは来た道を戻り、ちょっくら狩りをしてきますわ。」
「ああ、頼む。」
タッパーたちは肉の調達をしてくれるらしい。
確かにここに居てもすることがなさそうだし。
馬なら行動範囲も広い。街道沿いに森があったからそこまで出張るつもりだろう。
教会にある孤児院の運営は、俺たち出身組からの支援で困らない生活ではあるが、肉なんてものはめったに食卓へは出ない。
その子たちのために狩りに行ってくれたのだろう。
「シルド。とりあえず中に入りなさい。」
「はい。」
居間では神父はいつもの席に座り、俺は相対する席に座った。
「オーサからの手紙に書いてあったが、クランをクビになったそうだね。」
「ああ。副長曰く、俺は不要なそうだ。」
「なんとも視野の狭い子みたいだね。」
「それだけ俺が、目立たず行動してたって事だよ。」
「それは表向きだろ。見るものが見ればお前の働きがどんなものかわかるはずなんだがね。ところでお前の盾はどうした?」
「ああ。あれはクランに置いて来た。副長に置いてゆくように言われてね。」
「…おいおい。説明しなかったのか? あの盾の意味を。」
「『盾を取り上げるのはレードの判断』と嘘をつかれたんでね。ちょっとした意趣返しだよ。」
神父は何とも言えぬ困り顔をし、
「どこが『ちょっと』だい?…普段はまじめなのにこういった反撃には容赦ないなんてね。誰に似たのやら…」
「俺は神父の息子だよ。」
神父は困り顔を深めた。
…
ナレーション「もう一回、ハイ!」
観客「…「頑張れー勇者ー!」…」
聖堂が声援であふれる。
勇者「皆の声が聞こえる。皆の声が俺に勇気を与えてくれる。ウォーーーーーーーー!」聖剣の光が増す。
魔王「オォーーーーー」<パキン>と折れる邪剣。聖剣はそのまま魔王の脳天に。割れる魔王の仮面。その下から現れるは真っ黒で目も鼻もない黒い物体
魔王「見事なり。勇者よ…」崩れ落ちる魔王。その後には、割れた仮面と黒い外套だけが残されていた。
…
勇者「俺が、俺が魔王を打ち取ったぞ!」
次の瞬間、暗い魔王殿は明るい聖殿へと姿を変える。
ナレーション「その後、勇者は王から婿として迎えられ、次代の王として平和に暮らしました」
…終劇
これで俺のこの一座での最後の公演が終わった。
一座の公演の噂はは瞬く間に村を駆け巡り村人全員が聖堂に集まった。
皆、演劇は初めて観るんじゃないかな?
最後の声援を聞くと楽しんでもらえたんじゃないかなと思う。
その後は村をあげての野外宴会だ。
それぞれの家から料理を持ち寄ってひろげたり、食材を持ち寄って大鍋にぶち込む。
宴会というより芋煮会に近いかな。
普段は飲めない酒も、この時ばかりは教会からの供出で飲めるのだ。
それにタッパーたちの働きで肉も潤沢にある
<ジュ~~>
タッパーたちは配膳や肉の焼き役に徹してくれている。
「この肉、おじちゃんたちが取ってきてくれたの?」
「『おじちゃん』じゃなく『お兄さん』だ! シルドの旦那には世話になったからな。その恩返しだよ。ほら、焼けたぞ。」
タッパーが子供の皿に肉を乗っけてあげると
「おじ、じゃなかった。お兄さんありがとう。<ハムッ> おいしい。」
最初は村の子供たちも見知らぬ大人に人見知りしていたが、肉の供給元を知り素直にありがとうが言えていた。
美味い肉は正義だ。
「あんたがあの劇の座長さんかえ?」
「いんやぁ、すごい劇だったなぇ。」
「そんれにシルド坊を運んでくれたってなぁ。ありがとさん。」
座長は村人に囲まれていた。
「いえいえ、道中はシルドさんには世話になったので少しでも恩返しできればと思った次第ですよ。」
「勇者様、おひとつどうぞ。」
「あーずるい。勇者様、私のも食べて。」
「いや、そうたくさんさらに乗せられても…」
アクトは村娘たちに囲まれていた。
一方グラムさんは、
「素敵な御声ですね、ぜひとも今夜の語らいを。」
「抜け駆けすんなよー。俺とお話しでも。」
「御姉様、ののしってください!」
若者たちに囲まれていた。
ちなみにヒールさんは、奥様方にモテモテで、その他俳優さん方はそれなりに需要はあった。
「シルド兄。今度はいつまでいるの?」
この子は確かジーナムだったかな。
5年前に帰省した時5歳だったかなら今は10歳。大きくなったものだ。
その当時、少し遊んであげただけだったが、俺の事を覚えてくれていた様だ。
「少しゆっくりしたらこの村で仕事を捜そうかなと思って帰ってきたんだ。ただレード兄も一度戻ってくるだろうから、その時また考えるよ。」
「レード…兄?」
おや?前に帰った時、レードも一緒に遊んであげていたはずだが?
「レードを知らないか?前に帰った時に一緒に遊んだじゃないか?」
「れーど、れーど…あっうんレード…兄…だね。」
単なる度忘れか? 影の薄い俺より、存在感ありまくりのレードを忘れるとは考えにくいのだが…
まあいいか。
明日からしばらくは村の手伝いでレードが帰ってくるまで時間をつぶすか。




