18話 魔の森での取り締まり生活
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「最近あの黒いやつを見かけねーな」
「となるとあの虫けらどもの護衛はいないって事だな。」
「じゃあ蜜は取り放題?」
「でも従魔を故意に傷付けたらギルドからお叱りが…」
「そんなのばれやしねーって。今日さっそく襲撃するぞ。」
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いつものように幌の上で監視していると、魔の森にいる従魔から念話が届いた。
[マスター、ヒト、チカヅイテキタ。ブカ、イカク。ヤラレタ。]
[しるど~、リズのこぶん、にひき殺られたよ。殺っていい?]
どうやらシュバルツ不在に乗じてクインビーの蜜を奪いに来たらしいな。
[リズたちは防御陣形で待機。プーは殺さない程度に遊んであげなさい。これからそちらへ向かう]
[リョウカイ][うん、わかった~]
さてと、
「タッパー。ここ数キロ敵影は見えないが気は抜かないでくれ。俺はちょっと野暮用が出来たから2時間ほど離れる。」
「シルドさん。野暮用って?」
「バカ!旦那ほどの方なら行く先々に…いるんだよ。」
タッパーは 誤解しているようだが当たらずとも遠からずだ。
「わかりやした。護衛はあっし達の仕事です。気にせず行ってください。」
「では行ってくる。『波乗り』」
盾に乗って十分馬車から離れた所で
『黒装』&『転移扉』
黒鎧をまとい魔の森へと移動した。
「あちゃ~、もう旦那、見えなくなっちまった。」
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「なんでここにイエローディザスターがいるんだよ!」
「そんなのしらねえよ!」
「クインビーは従魔になった場合、他の魔物とは共生しないって話だったはず。」
「じゃああの黄色いのはなんなんだよーー?」
「そんな事より早く逃げ、ぎゃぁーーーーーーー!」
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魔の森へ移動し、リズの巣の近くまで行くと、黄色い巨熊が冒険者をお手玉にして遊んでいた。
[しるど~、ボク殺さなかったよ~]
見たとこ皆軽傷なだけで、気絶しているだけの様だな。
「プー。上手にやったな。えらいぞ。」
[えへへ、しるどにほめられた。]
この子はプー。イエローグリズリーの子供だ。
イエローグリズリーは魔熊の一種だが雑食の比較的おとなしい種ではある。
この魔の森探索中、何度か遊んであげているうちに懐かれ俺の従魔になった。
まだ小さかったころ赤いTシャツをあげたら気に入ったらしく、体が大きくなるたびに『着れなくなった』とねだってくる。今ではシーツを何枚か使用した俺のお手製Tシャツを着ている。
10mクラスにまで成長すると『黄色い災害』と呼ばれる様になるが、まだ2m級の子供で甘えんぼさんだ。
念話では『ボク』だが女の子だ。
[マスターキタ、アリガトウ。]
こちらの子はリズ。クインビーの女王だ。
クインビー単体はD級の魔物だが集団となるとB級となる。
だがクインビーが『特級』となる理由は、他の強い魔物と共生関係を結ぶことがあるからだ。
この場合、強く賢い魔物に巣を守ってもらう代償として、蜜やローヤルゼリーを少し渡すのだ。
通常の魔物は巣を壊して奪って終わりだが、賢い奴なら守ってやった方が実入りが多い事に気が付くだろう。
この共生関係次第で脅威度が変化するので『特級』としているのだ。
こいつとは、前に別の魔物に襲われ巣は壊滅寸前の所で、俺が通りかかり助けたのが縁で従魔となった。
共生および従属した場合、他の魔物とは関係を結ばないのだが、プーとは同じ俺の従魔仲間としての付き合いという認識だ。
[マスター、コレ。]
とローヤルゼリー入りの蜜ろう容器を差し出してきた。
「今回は俺は何もしていない。それに兵が2体やられたんだろ」
[ソウテイナイ、モンダイナイ、コレ、マスター、ケンジョウ]
「そうは言ってもな。」
クインビーのローヤルゼリーは高級ポーションの材料だが、今は間に合っている。
「そうだ、頑張ったプーにこれをあげよう。」
[えっ、なにくれるの?]
プーは空中に投げたお手玉をほったらかしにして駆け寄ってきた。
[やったー!コレおいしいんだ。ありがとう、しるど。]
…お手玉は落ちた…死んで…ないよね?
「こいつらは縛ってギルドに連れてゆく。リズ、落ち着いたらまた顔を出すよ。プー、それまでまたリズを頼むな。」
[オキヲツケテ、マスター。]
[うんリズはボクがまもる。]
俺は、ふんじばった冒険者を引きずって、『転移扉』ギルド裏手の路地へ移動した。
「おい、あれ、黒いやつじゃねえか。」
「しばらく見かけなかったが。」
「しかし縛られて引きずられてるのってB級の『トラベルシーカー』の連中じゃねーか?」
「そうだ、B級に上がったとたん問題起こしまくりの『トラブルメーカー』だ。」
「イヤ、確かにみんな陰ではそう呼んでいるがここでそれを言っちゃ悪いって。」
ギルド内に入り注目される中、私は受付嬢に声をかけた。
「ニャルム嬢、ギルドマスターを呼んでくれないか。」
「シュバルツ様、お久しぶりですニャ。もしかしてその3人が問題を?」
「ああ。こいつらは魔の森で私の従魔を傷つけたのだ。」
「それは穏やかじゃないな。」
「あっギルドマスター。」
ギルドマスターのオーサが奥から出てくる。
「シュバルツ殿の言う事だ。間違いはないだろうが一応調書は取っておこう。そこの3人は地下独房へ。シュバルツ殿は俺の部屋まで来てくれ。」
「ああ。」
ギルドマスター室に入り<バタン>とドアを閉めた所で『サイレントフィールド』防音結界を張る。
「お早いお帰りで、シルド」
「ただいまオーサ兄、とは言っても調書を取ったらすぐ戻るよ。」
「噂話では『シュバルツ=シルド説』が浮上しているぞ。」
「やっぱりか。もう俺がクランをやめたことは知れ渡ってるんだろ。そのうえで10日以上もシュバルツが顔を出さなかったらそうもなるだろうね。」
「まあ、ギルドの指名依頼中の噂を流しといたからな。今日、顔を出したことで噂も消えるさ。世間話はこれくらいにして、あいつら実際には何をしたんだ。」
「リズの兵隊を2匹殺しやがった。ご丁寧にも通知看板のある前でだ。ちゃんとあの巣は俺の物って周知はしてあったんだろ。」
「ああ、お前さん経由ではあるが、あの巣はこのギルドにとっても貴重な収入源だからな。ちゃんと保護するように言ってあったんだが…すまん。」
「いいよ。その分、罰を重くしてくれればいいから。」
「で、被害は?」
「それ以上はないよ。プーが片付けてくれたからね。」
「それはあいつら、災難だったな。いや、災害と出会って軽傷で済んだんだむしろ幸運か。」
「その幸運分に見合った地獄への片道切符の選定よろしく。」
「解っている。」
「あっそうそう!アル兄が刺客に襲われかけたよ。刺客は捕まえて引き渡しといたけど。」
「アルデの奴も大変だな。」
「オーサ兄もだろ。俺がいなくなってから回ってない仕事はないか。」
「今の所、大丈夫だ。だが『黄金の剣盾』が小さな依頼を請け負ってくれなくなったため、未消化の分が出始めてるな。」
「そうか…あと1週間くらいでレードが帰ってくるからそしたら何とかしてくれるだろう。」
「そうなってくれるとうれしいんだがね。ん?もう行くのか。」
「まだ旅の途中だよ、明日にはアデス男爵領都だ。」
「お前には無意味な言葉になるが…気をつけてな。」
「ああ」<ヴオン>
俺は『転移扉』で、次の馬車塚近くの岩場へ移動した
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あいつが出て行ったことで結界が消えた。
<トントン>
「入ってくれ。」
<ガチャ>「お茶をお持ち…ニャれ? シュバルツ様は?」
「もう帰られたよ。」
「おかしいニャ。この戸は入られてから一度も開かニャかったはず…」
「彼は『影』の職も持っているからね、人知れず消える事もお手の物だよ。それよりお茶が余るだろ。君も座ってお茶をしないか?」
「いつもサボりには怒鳴ニャってるギルドマスターが、どういう風の吹き回しですかニャ。もしかして口説きですかニャ?」
「馬鹿いえ。あいつらの罪状が分かったんで、どんな罰がいいかの相談だよ。」
「で、リズちゃんたちは無事だったのですかニャ?」
「ああ、兵が2匹やられたそうだが、他は無傷だったそうだ。」
「良かったニャ。でもリズちゃんプーちゃんを襲おうとしたことは万死に値します。鉱山送りじゃ生ぬるいですニャ。」
ニャルムにとっては彼女たちは、シュバルツについて会いに行ってからというもの、お気に入りで、たまに様子見と称して会いに行っている。
リズの胸やプーの腹のモフモフがたまんないらしい。
俺とニャルムはシュバルツの知り合いとして、巣に近づいても襲われる事はない。
「いや、どう頑張っても鉱山送りが関の山だろ。」
「ムムムム。残念ですニャ。」
「冒険者資格はく奪は当然として、どこの鉱山がいいかだが…そこの鉱山資料を取ってくれ。」
「はいですニャ。」
ニャルムは茶盆をテーブルに置き本棚から資料を2冊取ってくれた。
「よし、二人してキツイ鉱山を捜そう。」
「了解ニャ。」
…
…
これはと思えるところはないな。
最近は訳の分からん人権団体やらの抗議でいろいろ改善されていってるからな。
…
「ニャッ!」
「どうしたニャルム?」
ニャルムはポケットから手帳を取り出し、ページをめくり何かを捜している。
「あったニャ!…ふむふむ…マスター。ここ『トコノコ鉱山』はどうですかニャ」
と見せてくれた資料では、
「…待遇がAランクじゃないか。これじゃ罰としては軽すぎるぞ。」
「そこじゃないですニャ。ここ。」
指さす先には、
「『責任者:シー=リスキー』これがどうかしたか?」
「ニャたしの調べでは、この、リスキーって男は結構な男色家だそうで、今までもこの男が責任者を務めた場所では部下たちが手籠めにあったと。結局、事の発覚を恐れた上層部は、問題にニャらないであろう囚人たちのいる鉱山の責任者に収めた。という事にニャってます。」
「それは本当か?」
「あくまでニャたしの調べです。が、信ぴょう性はかニャり高いです。」
「そうか…よし、期間は無期限としてここに送る手続きを頼む。」
「了解ですニャ。 では失礼しますニャ。」
<ガチャ、バタン>
ニャルムは茶盆を持って退出した。
結局、お茶は飲まなかったな。
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馬車塚に着くと、一団も到着した直後の様であった。
「おや、旦那。お楽しみは終わりましたか?」
「タッパー。下種な勘繰りするんじゃない。昔助けた子の様子見に行っただけだよ。」
「その子ってやっぱり、女の子なんでしょ。」
「女の子と言えば女の子だな。5歳くらいだが。」
魔物の年齢は判らんが、たぶんそれくらいだろう。
「へ?」
「お前は俺をロリコンにしたいのか?」
リズは…子持ちの人妻?未亡人? ではあるが、プーはまだ子供だ。
「ねっ。やっぱりシルドさんはシルドさんだよ。女子供には優しい。ねっ!」
「ん、シータは解ってるな。こういう娘を嫁にもらいたいものだな。」
シータに目をやるとニマ~とした表情をし、
「そうだね。シルドさんくらい多才だとくいっぱぐれなさそうだし。シルドさんとこ行くのもいいかな。」
前はこの手の話をタッパーにするのを拒否していたが、一度話してみて反応を見る気になったらしい。
ここは乗っておくか。
「こんなおじさんでもいいのかい。」
「そこがいいんじゃない。包容力があって。」
「えっ、シータァ~?」
ちょっとうろたえてるな。
この辺にしておこう。
「冗談はさておき、俺が離れてからの報告を聞こうか。」
「へ、冗談?…冗談かぁ~。」
こんなことで狼狽えてしまうくらいならさっさと告白してしまえばいいのにな。
タッパーの反応にシータも満足したようで。
「シルドさん。ここまでの道中、問題は何も起きなかったです。」
元気に返答をしてくれたのだった。




