17話 領都での捕り物生活
最後の舞台挨拶だが、もちろん俺は出ない。
いつもならすぐ着替えるところだが今日は最後までこの格好でいよう。何かこの格好が必要な事態があるかもしれない。
こういった勘のようなものは、なかなか馬鹿にできない。それで何度も命を救われたことがあるからだ。
仮面も元に戻しておこう。これは接合部に工夫を施してあるので、ちょっとひっかけて力を加えれば<パキン>と組み合わさるのだ。
アル兄が壇上に上がった。
実を言うとここの領主も孤児院出身だ。
彼の場合、成人前に前バラン子爵に引き取られ、領政が任せられるほど勉強し(させられて)婿養子となったのだった。
「…私が王都にて、このウーズメ一座に当領に来てもらうよう依頼したのだが…」
なるほど、この劇団がこの街に来たのはアル兄が呼んだからか。
「…特にあの魔王の存在感。彼が勇者の存在をひときわ輝かせていた。彼にもこの壇上で皆の称賛を浴びて欲しかったのだが…」
前にアル兄に『またこの街に来るときは必ず俺の所に顔を出せよ』って言われてたんだが、結局出しそびれて今に至る。今さら顔は出せないしな。
「…いない様であるな。」
とアル兄が振り向く直前、客席天井に光るものを見た。矢じりだ。天井から何者かが弓矢でアル兄を狙っている!
今からだと曲者をとらえる前に矢が射られる。射られた矢を弾いた場合、矢に毒が塗ってあればあれば別に被害が行く。
狙いが付き、矢のブレが無くなった。もう射られる直前だ。
『転移扉』&『収納』
アル兄の前と自分の前との空間を繋ぎ、手だけを出し『収納』フィールドを盾状に形成する。
射られた矢は無事『収納』された。間に合ったぁ~。
しかし『転移扉』と『収納』フィールドの黒い空間の歪みはしっかり皆へ視認されている。
今、解除しても後の追及が厄介だな。今誤魔化すしかない。
丁度アル兄が魔王の話題を持ち出した事だしな。
「私を呼んだかかな?」
俺は『転移扉』を通り舞台上へと移動した。本物の魔王を演じて見せよう。
「久方ぶりに地上に出て見れば『魔王を演じてくれ』と頼まれてしまったわ。まあ『魔王が魔王を演じる』なんぞどんな事かと思っていたか以外と面白かったぞ、座長よ。今回は勇者に華を持たせたが、次回はぜひとも魔王が勝つ物語りを頼むぞ。皆の者。私はこれで退散するとしよう。さらばだ。」
俺は再び『転移扉』を使い300m上空へ移動した。
後はアル兄が何とかまとめてくれるだろう。
自由落下の中、視力強化して視認確認。会場から屋根伝いを高速で移動する黒い点を発見。さらに視力強化してズームアップ。背中に黒い弓をしょってるのを確認。さらに魔力パターンも一致。さっきに曲者=刺客確定。
次に『黒装』 仮面、外套を『収納』して代わりに黒い鎧を装着する。体表が黒い靄に包まれるので見た目、暗黒戦士の変身だ。
あとは『空歩』で刺客の死角から近づき、意識を刈り取るだけの簡単なお仕事だ。
=====
「「「お疲れさまでした!騎士団長!」」」
今日の巡回も終わり自室に入ろうとしたが部屋から誰かの気配がする。
ここは騎士団長室だ。
私の許可なく入ることを禁止している。
そこにいるという事は…曲者か?
幸い気配は2人。いや、どうやら一人は縛られてね転がされてる様だ。
誰かが人質になったか?
そう簡単に人質になるような騎士はいなかったはずだが。
イヤ人質がいたとしても曲者の一人や二人、対応できぬようでは騎士団長は務まらぬ。
私は抜剣し、ドアを蹴破る。そして曲者目掛け剣を振り下ろす。
「待たれよ騎士団長殿」
曲者の声に私は剣を寸止めした。
「シュバルツ殿。脅かさないでください。危うく貴方を切ってしまうところでしたよ。」
この方はシュバルツ=リッター。黒鎧をまとわれた冒険者だ。以前、任務に失敗しかけた所を助けていただいた、騎士団にとって大恩ある方だ。
「突然の訪問、済まぬな。内々に報告することがあってな。」
「「「団長!何があったんですか!」」」
シュバルツ殿なら何もドアを蹴破る必要はなかったか。大きな物音に騎士団員が集まってきた。
「なんでもない。シュバルツ殿を曲者と間違えて切りかかってしまっただけの事だ。」
「切りかかってって、シュバルツ殿。大丈夫ですか。」
「団長殿の腕ならば寸止めできると信じてましたからね。問題はないですよ。」
「良かった。お久しぶりですシュバルツ殿」
[[えっこの方が 噂のシュバルツ殿?]]「「シュバルツ殿。お会いできて光栄であります。」」
その後も何度か任務に同行いただいて副長とも顔なじみだ。
新人にはいろいろ彼の武勇伝を聞かせていたので多少緊張気味だな。
「それよりもそこに転がっている芋虫を引きとってくれないか。御領主様暗殺未遂の現行犯だよ。『未遂』なので御領主様は無事だ。」
「なんと!副長!そこに転がっている者は御領主様暗殺の刺客である!至急尋問室へ連れて行き背後関係を吐かせよ! 後、念のため第二小隊を御領主様の護衛に向かわせろ。」
「ハッ!わかりました!シュバルツ殿。失礼します。」「「失礼します。」」
刺客は運ばれていったが、シュバルツ殿にも詳しく事情を聴く必要がある。いくら恩人とはいえ、けじめはしっかりせねばな。
「ではシュバルツ殿。詳しい話をきかせてもらえますかかな。」
シュバルツ殿には私のとっておきの茶を入れましょう。
…
「ほほう。一座に同行している冒険者が観客にわからないように襲撃を防いだと。その後はシュバルツ殿が追跡。捕縛したという事ですか。」
「はい。」
「何にせよ御領主様が無事でよかった。あれほど我らが護衛につきますと言っても聞かれなかったもので。」
「御領主様は領民との触れ合いを好まれる方ですからね。それに刺客の一人や二人位なら返り討ちにできる方ですしね。」
「でもそうなってしまうと会場はパニックになったでしょう。未然に防いでくださったその冒険者にお礼がしたいのですがお名前を聞かせてくださいますかな?」
「申し訳ない。名前は明かさぬようお願いされておりましてな。今回の場合『私が最も信頼している冒険者』で勘弁下さらぬか?」
このお方は、謎の多いお方ではある。鎧は決して脱がず、顔も食事の際にマスク部分を外すだけで、まったく顔がわからない。
しかしこのお方は、幾つかのギルドから直接指名依頼を受ける実力者であり、御領主様からの信任も厚い。
そのうえ何度か危機的状況を救っていただいた恩人の願い。無碍には出来ぬ。
「シュバルツ殿にそういわれると私も『はい』としか言えぬではないですか。」
「申し訳ないついでに、私の名も対外的には出さないで頂きたいのですが。」
「『対外的には』という事は今回の暗殺騒動自身、無かったことに、ですか?」
「そこは御領主様の判断にお任せします。ただ私の活動の上では居場所が特定されない方が都合がいいもので。」
ギルドから直接指名依頼にはいくつか表に出せないものもあると聞く。
今も『バラン領に居る』事は知られたく無いのであろう。後で先の新人には口止めしておかねばな。
「しかし本当に助かりました。今まで刺客を生け捕りにできなかったもので。」
「という事は今までも襲撃が?」
「はい、今まで未然に防ぐことは出来たのですが、捉える前に刺客が自害しまして背後関係が追えなかったのです。」
「そんな状態だったとは。お手伝いできればいいのですが別用がありますので…」
現在、依頼の途中なのであろう。
そんな中、時間を割いてまで立ち寄っていただくとは。
また恩が増えてしまったな。
「いえいえ、これで少しは捜査の進展が見込めます。ありがとうございました。」
「それでは私はこれで失礼する。おいしいお茶ごちそうさまでした。」
そう言って扉から退出された直後…気配が消える。
「本当に、あのお方は神出鬼没ですね。」
私は、自分のティーカップに残ったお茶を飲みほした。
=====
「シルドさん、どこ行っていたんですか? あの演出は確かに面白いですが、相談もなしにやられると困りますぞ。」
アル兄が帰ったころを見計らって戻ったところ、座長から叱られた。
座長には正直に話をしておこう。
「座長、申し訳ない。あの時、バラン子爵様が暗殺されかけていて」
「え?暗殺…ですと。」
「それで俺が魔法で防御したんですけど、その魔法の痕跡がみんなに見られてしまったのでそれを誤魔化すために『魔王』として出て行ったんです。」
「そうでしたか…いや、叱責して済まなかった。」
「いや、もう少しわからないようにできたらよかったんですけど。」
「いえいえ、子爵様の命が助かったのです。そのうえ子爵様はこの事態を民衆への演説に利用なされたのです。結果オーライですよ。しかし暗殺となるとまた御命を狙われるかもしれませんね。」
「それならあの後、犯人を捕らえて騎士団に引き渡しておきました。」
「シルドさんがいなかったのは犯人を追っていたからですか。捕まったのなら子爵様も安心できますな。」
「はい」
刺客を捕らえたのは『シュバルツ』だが名前および事件は外には出ないのだ。
俺が『シュバルツ』であることがばれる事はないだろう。
「これはこれはバラン子爵様。」
さあ、出立の段になりバラン子爵が現れた。
一座のみんな集まり首を垂れる。
タッパーたちも一応その場で頭を垂れている。
「皆の者、楽にしてよい。ウーズメ座長よ。バラン領都へ立ち寄ってくれて本当にありがとう。」
「勿体なきお言葉にございます。」
「して、これで一座の者全員かな?」
そーだよー。俺は一座には含まれないよ。
バラン子爵は1台の馬車に近づきその陰から俺を引きずり出した。
「シールード!てめえ、俺の街に来るんなら一度、顔を出せって言ったろうーが!」
「いや、仕事が忙しくて…」
皆、子爵の豹変ぶりにあっけにとられている。
「夜中にこっそり会いにこれただろうに。ったく『魔王』がお前だったなんてまんまと騙されたぞ。」
「いや、それ不法侵入だから…」
突然、アル兄にヘッドロックかまされた。
そして、小声で
「団長室に忍び込んだんだろう『シュバルツ君』」
うん、それ不法侵入だったね。
「あの~、うちの冒険者が何か?」
事情を呑み込めない座長が、質問してきた。
「いやこいつは俺の弟分でな、昔はこうやってよく遊んだものだ。」
ヘッドロックが締まる。ギブギブ!
「暗殺阻止、ありがとな。」
小声でそういうと頭を放してくれた。
痛かった~。
「一座と弟分の見送りに来ただけだ。座長よ、またこの街に立ち寄ってくれ。歓迎する。シルド!親父によろしくな!」
オーサ兄から俺が田舎に帰ると連絡はあったのだろう。それ以上は何も言わず送り出してくれた。
今度立ち寄るときには美味い酒でも持ってこよう。
=====
門の近くにいた娘2人に気が付いた冒険者が駆け寄ってくる。
「2人とも。昨日はありがとう。」
「い、いえ。と、特別席で観られてかんげきです。」
「まさかあなたが魔王様だったなんて、想像つきませんでした。」
「ははは、俺はあくまで代役だよ、本職はもっとすごいから次の機会には楽しみにしておいてくれ。」
「はい、次一座が来るのを待ってます。」
「で、でも、あなたはもう来ないのでしょう。」
「一座としてはね。また、何か用でこちらに立ち寄ることもあるから見かけたら声をかけてくれ。」
「は、はい。そ…その時には…い、一緒にお茶してくれますか。」
「喜んで。じゃあ、二人ともお元気で。」
「「シルドさんもお元気で」」
「シルドさん、行っちゃったね。」
「いいの。あの人は旅人。私は街娘。住む世界が違うわよ。」
「そう言いながらも、お茶のお誘いしちゃって。エライ、エライ。」
「子ども扱いしないでよ。もう。」
[この子の男基準がシルドさんになってたらヤバイわね。そうなうとこの街の男はイモばかり。この子に恋人ができるのはいつの事やら…]




