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『盾』役者の生活  作者: 愉魅夢
クランからの追放
16/25

16話 領都での代役生活

「困ったことになった。」


公演場所の許可も降りてそこまで馬車を移動。

セットも運び込み、明日夕方の公演準備もあらかた整ったところだ。


ヒールさんの治療費は領主様が一部負担してくれることとなったのだが、やはり2~3日は安静が必要との事だ。


「今の俳優の中でヒール以上、いやヒールほどでなくともあの役をこなせるものはいるか?」

「いいえ、あの存在感を出せるものはいません。他の者を回せてもどうしても配役に穴ができます。」

「う~む。困りましたね。」

「あっ、座長! シルドさんがサブ職に『役者』を持ってたはずです。」


おいおい、アクト。そこで俺を出すか?


「ほ、本当ですか?シルドさん。」

「いや、確かに持ってますけど、ずっと盾職続けてたんですよ。『役者』修行もしてない素人の俺が出れるわけ…」


『役者』自身は洗礼の義で聖職者から告げられた職業だが、これも本当の職業ではない。


「『役者』でしたらそこいらの素人よりうまくできるでしょう。やってくれませんか」


『役者』でない俺が劇を成功させるには…


「わかりました。引き受けましょう。」

「本当ですか。」

「ただし条件があります。」

「何でしょう?」

「仮面をつけさせて下さい。この顔ですとヒールさんの様なすごみは出せないでしょう。それに恥ずかしさも紛れますし。」


俺の真の職業からすると表立っての行動は出来ない。

劇を成功させるには顔出し厳禁だ。


「後、名前も伏せておいてください。事情があって名前も出したくないんですよ。」


座長にはクランを追い出された身であることは明かしている。これを隠れ蓑にしよう。

まあ、名前を出さない理由はもう一つあるのだが。


「わかりました。配役表には『???』と表記しておきましょう。誰か、シルドさんに台本を。」


「はいどうぞ。」

「ありがとうワキヤさん。」


受けとってページをめくり、馬車塚での練習風景と照らし合わせながら速読してゆく。


「どうですか?行けそうですかな?」

「はい、早速、通し稽古を始めましょう。」

「えっ?」

「シ、シルドさん。もう台本を覚えられたのですか?」

「あらすじと自分のセリフだけですがね。それに馬車塚での練習を見てましたので。」


皆、あっけにとられているが。


「間の取り方とかの確認をしたいので早く始めましょう。時間もありませんし。」




=====

「ねぇねぇ。ウーズメ一座の劇、見た?」

「うううん、まだ。」

「一度観に行った方がいいよ。主役の子がすごくかっこいいから。」

「えっ!そうなの?」

「それに、最後の魔王との剣撃戦はすごかったわ。本気で撃ち合ってると思えるくらいの迫力だった。」

「そんなに?」

「それにね、悪の魔王の声。渋くていい声だったわ。」

「声だけ?顔は?」

「それがね、始終、仮面を被ってて一切素性がわからないのよ?」

「なにそれ?」

「最後にね仮面は外れるんだけど………。」

「なによ。そっから先は」

「イヤ、ここからはネタバレになるからやめとくわ。」

「わぁ気になるぅ。教えてよ~」

=====




…暗い魔王殿にて

魔王「ふむ。四天王を倒してきたのか。」

勇者「そうだ!後はお前だけだ!」

魔王「仕方がない。私が相手をしよう。」魔王は玉座から降り、邪剣を構える。

勇者「魔王!覚悟!」聖剣を振り下ろす。魔王は<ガキンッ!>と邪剣で受ける。

魔王「勇者の力はそんなものか?」

勇者「なんの!えいっ!」


何合かの打ち合いの後


勇者「神々よ!我に力を!」聖剣が光を増す。「えぃ!」と振り下ろされた聖剣は、邪剣を折り魔王の脳天に。割れる魔王の仮面。その下から現れるは真っ黒で目も鼻もない黒い物体

魔王「見事なり。勇者よ…」崩れ落ちる魔王。その後には、割れた仮面と黒い外套マントだけが残されていた。

勇者「俺が、俺が魔王を打ち取ったぞ!」


次の瞬間、暗い魔王殿は明るい聖殿へと姿を変える。


ナレーション「その後、勇者は王から婿として迎えられ、次代の王として平和に暮らしました」

…終劇





「いやぁ、シルドさんのおかげで大盛況ですよ。」

「とんでもないです座長。ヒールさんほどの演技力がないための演出変更が当たっただけです。」


最後の演出は、崩れ落ちると見せかけて、一瞬で舞台上の梁までに飛び上がった結果だ。某怪盗ルパンのように服を残すわけでなく黒い外套マントだけを残すので楽なものだ。


「剣撃も演技ではなく本気の打ち合いに見えましたよ。」

「アクトも昔、冒険者してましたからね。剣技はしっかり叩き込んでいましたから出来た事です。」


剣舞も教え込んでいたからね。


「ふむ、やはりシルドさん。今後もこの一座に…」

「座長、それはお断りしたはずです。あくまでも俺は田舎クニに帰るまでの同行人。ヒールさんが復帰するまでの代役ですよ。」

「う~む。そうなると、ヒール復帰後はこれ以上の演出をかんがえねばなりませんねぇ。復帰したとしても、右腕はしばらく動かないでしょうし。」

「あえて、動かない右腕をさらしてみてはどうでしょう。『前勇者につけられた傷がうずくわい』とか言わして。」

「面白いですな。」

「最後の崩れ落ちる演出も、舞台を一段上げてその中にしゃがむようにすれば出来ますし。」

「舞台装置で工夫するという事ですか。」

「魔王との対決も剣撃ではなく動きで避けたり外套マントで防いだりするとか。アクトなら寸止めできるでしょうから、『き、切れない。なんて固いマントだ』とか言わせて。」

「なるほど。」

「仮面が割れるシーンも、仮面が半分だけ外れるようにして素顔をさらす演出も考えられます。その顔を見た勇者は言うんですよ『お…お父さん』と」

「魔王は勇者の父だったわけですか。」


よくある『敵。実は生き別れの肉親』


「というより仮面自身が魔王ですね。仮面は代々の勇者の体を乗っ取って魔王として君臨していたと。」

「それは面白い設定ですな。」

「ともかくこれらはヒールさんが復帰してからです。千秋楽まで今の劇を頑張りましょう。」




=====

「見つからないわね。」

「見つからないって何が?」

「魔王俳優よ。勇者はアクト様でしょ。他にモーブ、ワキヤ…ほかの男のメンバーを見ても魔王様を演じてる俳優が見当たらないのよ。」

「座長さんは?」

「無理無理。あの体型じゃあんなに激しく剣は振れないわ。」

「噂で聞いたけど、魔王を演じる予定だったのはヒールって俳優だったんだって。でもそのヒールって方。骨折して入院中だって。」

「そうなのよね。…体型的にみるとあそこで雑用している冒険者が該当するんだけど…どう見ても雑用係ね。」

「それにあの人の声。冒険者にしては優しい声してるわよ。喋り方も優しいし。態度もね、紳士的だし。」

「なんであなたがそんな事、知ってるのよ?」

「えっ。え~と、この前、酔っ払いに絡まれかけた所を助けてもらったの…」

「ふ~ん。それで私の一座裏方見学に付き合ってくれてるんだ。あの冒険者を見に。」

「そっ、そんなんじゃないわよ。」


その冒険者は、隠れて裏方作業を見ている女の子達に気が付いた。


「お嬢さん方。」

「ひゃいっ!」

「今日も見に来てくれたんだね。」

「はは、はいっ!」

「毎日見に来てくれるのは嬉しいけどお小遣い大丈夫かい?」

「はい!だだ大丈夫です!」

「そうだ。これを渡しておこう。はい、割引券。」

「え、え、え、?」

「1枚で5人まで割引けるからね。今日も含めて後4回公演だからね、4枚渡しておこう。」

「あっありがとうございます。」

「シルドさ~ん、こっちお願いします。」

「お嬢さん方、仕事がありますので失礼します。わかった、今行く。」

「…シルド様…」

「で、あなたが夢中なのは、勇者でも魔王でもなく冒険者なのね。」

「そっ、そんなんじゃないわよ。ただ…いい人だな…って」

「はいはい。でも旅演劇一座に同行している冒険者だよ。」

「わかってるわよ。でも、『田舎に帰って暮らす』って言ってたし。」

「そんな事まで聞いてるんだ。じゃあ、一緒についていって田舎で暮らす?」

「もう、そんな事できるわけないじゃない。」

=====





日々の公演もつつがなく済み、無事、千秋楽を迎える事となった。

今日は領主一家も観覧に来ている

あの女の子たち、今日も来ているな。そうだ、


「座長、ちょっとお話が」

「何ですか、シルドさん」

「今日千秋楽なんで特別サプライズを思いついたのですが。」

「大きな事でなければ許可しますが、どうされるんですか?」

「アクトとグラムさんもこっちに来てくれ」


グラムさんはナレーション係だ。

よく通る声で、落ち着いたセリフばかりだが、歌のお姉さんのような声も出せる。


「「何です?シルドさん。」」

「最後のシーンで俺が………でここでグラムさんが観客に……」

「それは面白いですな。許可しましょう。」

「さすがシルドさん。」

「頑張ります。」





…暗い魔王殿にて

魔王「ふむ。四天王を倒してきたのか。」

勇者「そうだ!後はお前だけだ!」

魔王「仕方がない。私が相手をしよう。しかし二人だけでは味気ないな。」と、魔王は玉座から飛んで客席に飛び降り

「「きゃあ!」」と二人の女性を抱え、玉座まで飛んで戻ってきた。

勇者「人質を取るなんて卑怯だぞ!」

魔王「人質なんてとんでもない。私はこの二人に勇者の最後の見届け人として連れて来たのですよ。お嬢様方、魔王のメイにより特別席での観覧を許可しましょう。」

玉座に用意された席に戸惑いながらも座る二人を見て。玉座から舞台へ降り立つ魔王。

魔王「では始めましょうか。」

勇者「魔王!覚悟!」と聖剣を振り下ろす。魔王は<ガキンッ!>と邪剣で受ける。

魔王「勇者の力はそんなものか?」

勇者「なんの!えいっ!」


何合かの打ち合いの後


勇者「神々よ!我に力を!」聖剣が光を増す。「えぃ!」と振り下ろされた聖剣は、邪剣で受けられる。

魔王「そんな力で私が倒せると思うたか?」そこでシーンが止まる。


ナレーション「勇者はみんなの期待を背負って戦っているんだよー。観客みんなで勇者に声援を送ろー。せーの『頑張れー勇者ー!』ハイ!」

観客「がんばれーゆうしゃー」

ナレーション「声が小さいよーもう一、回、ハイ!」

観客「「「「頑張れー勇者ー!」」」」

ナレーション「もう一回、ハイ!」

観客「…「頑張れー勇者ー!」…」

劇場が声援であふれる。


勇者「皆の声が聞こえる。皆の声が俺に勇気を与えてくれる。ウォーーーーーーーー!」聖剣の光が増す。

魔王「オォーーーーー」<パキン>と折れる邪剣。聖剣はそのまま魔王の脳天に。割れる魔王の仮面。その下から現れるは真っ黒で目も鼻もない黒い物体

魔王「見事なり。勇者よ…」崩れ落ちる魔王。その後には、割れた仮面と黒い外套マントだけが残されていた。

勇者「俺が、俺が魔王を打ち取ったぞ!」


次の瞬間、暗い魔王殿は明るい聖殿へと姿を変える。

勇者「御嬢様方、こちらへ」


ナレーション「その後、勇者は王から婿として迎えられ、次代の王として平和に暮らしました」

…終劇



幕が一度降り再び幕が上がると座長および俳優一同がそろっている。ただし魔王役はいない。


「皆さま本日の御観覧ありがとうございました。本日はこの街での最後の公演という事で、バラン子爵様よりお言葉があります。バラン子爵様、どうぞ。」


座長の紹介で、壇上に上がるバラン子爵。


「ほとんどの者が知っていると思うが、私がここバラン領の領主アルデ=バランである。私が王都にて、このウーズメ一座に当領に来てもらうよう依頼したのだが、皆、楽しめたかな?」

「今回の公演は領主様が企画なされたのか」

「面白かったよ」

「りょうしゅさま、ありがとう。」

「楽しんでもらえたようで何よりだ。私も王都で観たがその時よりも数段、質が上がっていたのには驚きであった。特にあの魔王の存在感。彼が勇者の存在をひときわ輝かせていた。彼にもこの壇上で皆の称賛を浴びて欲しかったのだが…いない様であるな。」


と領主が俳優たちへと振り返った瞬間だった。


<ブォン>と領主の前に暗い空間が現れそこに何か光るものが吸い込まれていくのが見えた


「私を呼んだかかな?」


暗い空間から魔王が現れた。


「久方ぶりに地上に出て見れば『魔王を演じてくれ』と頼まれてしまったわ。まあ『魔王が魔王を演じる』なんぞどんな事かと思っていたか以外と面白かったぞ、座長よ。今回は勇者に華を持たせたが、次回はぜひとも魔王が勝つ物語りを頼むぞ。皆の者。私はこれで退散するとしよう。さらばだ。」


<ブォン>と再び現れた黒い空間へ魔王は消えていった。


「……本当の魔王が演じていたというのは驚きだね。邪なるものは常に傍にいるという事だね。でも覚えていてほしい。みんなのあの声援が邪なる力をはねのけた事を。『あれは劇の中の事』ではあるが現実に起こりうることだ。皆で力を合わせればどんな苦難も乗り越えられるという事だ。だから…今後も、皆で力を合わせこの領を盛り立てていってほしい!」

「解ってます、領主様!」

「みんなでこの領を盛り立てましょう。」

「ばんざーい領主様!」

「領主様ばんざーい!」

歓声は領主様が壇上から降りるまで続いた。


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