15話 領都での留守番生活
旅は順調に、いや、順調以上に進み、バラン子爵の治めるバラン領の領都に予定の3日も早く着いた。
「私は領主様へ挨拶へ行ってくる。予定より早く着いたのですぐに公演の許可が出るとは限らないが、明日公演のつもりで休みを取っておくように。」
この街での公演予定は到着予定日後日だったが早く着きすぎてしまった。
「シルドさんのおかげですよ。皆、旅が快適すぎて疲れを残していません。明日公演できればよし。できなければ練習などの時間が取れます。おそらく移動許可が出るのは昼過ぎになるでしょうから休んでいてください。」
俺の同行が役に立って何よりだ。
とりあえずは共同の駐車場で昼まで待機だ。
「では旦那。俺たちは一時離れます。」
タッパーたちは旅の間の護衛なので、街での公演中は護衛を離れ、その街でのギルドの依頼をこなす様にしている。
「へまをするなよ。」
「解ってまさーな。野郎ども、行くぞ。」
「「「「「「「「「「へい!」」」」」」」」」」」
この後も護衛は続くのだ。危険な依頼は受けまい。
「シルドさんはどうされるんです?」
「俺は素振りでもしながら留守番をしてるよ。アクト達は街を散策してくるといい。」
「じゃあ僕も残ります。」
「そうか。」
結局何人かは残って、各自、練習やら資材チェックする中、俺は剣を持って素振りを始めた。
「いち!に!さん!…」
そのそばで俺の素振りを見るアクト。ずっと見られると落ち着かないんだが…いやいや、無想無想…
「…999、1000!」
途中から視線が気にならなくなり、集中できた。
「お疲れ様です。」
アクトがタオルを渡してくれる。
「ありがとう。アクト、何か言いたそうな顔だがどうした?」
「…シルドさんは田舎に帰ると言ってられましたが、…クランは…」
「シルドの旦那~~!クランを抜けられたって本当ですかい?」
タッパーが ギルドで俺の事を聞いたらしいな。飛んで戻ってきた。
「ああ、あのクランでは俺は用済みらしい。」
「用済みって旦那~。旦那がいればどんな依頼も快適にこなせるのに?」
「依頼が快適でも、Aランク以上の依頼をこなさなければ意味がないらしい。」
新人の教育にはAランクでは重すぎる。
「あの、シル…」
「じゃあ旦那は今フリーなんですね。」
タッパー…アクトが何か言おうとしてるのに。
人の言を遮るとな、
「旦那!ぜひともウチのパーテ…」
「たいへんだぁーーーー!」
お前も同じ目に合うんだよ。
しかしなんだ?大変とは。
「ヒールさんが馬に蹴られた!」
「ヒール先輩が?大丈夫なんですか?どうして?」
「騎士の早馬の前に子供がいてそれをかばって」
「ワキヤさん。ヒールさんの容態は?」
「腕の骨を折った様で。今別の者が医者を捜しに行ってます。」
「場所は?」
「あちらの方、二辻向こうです。」
『アクティブモナー狭索モード』…見つけた。
「行ってくる。アクト、担架を頼む。」
「行ってくるって、シルドさん?」
『空歩』で屋根に上がりそこから『転移扉』目的地のすぐ上に。
野次馬で人垣が出来つつあるが、皆、遠巻きなので着地の空間があり、そこに着地する。
「わっ!」
「空から人が降ってきた!」
野次馬の声は無視しておこう。
「ヒールさん!今仲間が医者を呼びに行ってます。もう少しの辛抱です。」
「モーブさん、ちょっと見せてくれ。」
「えっ?シルドさん?」
ヒールさんは今、痛みを必死に耐えている状態だ。まずは、
「ヒールさん。これを噛んでいてください。」
ヒールさんの口に入れたのは鎮痛効果のあるアーサーという薬草だ。
2、3噛んだところで効果は出たようだ。
少し表情が和らいだ。
次に『MRI』魔力で内部走査してゆく。
腕は聞いていたが一応全身走査だ。
頭部…出血や骨折なし。
胸部…異常なし
腹部…異常なし
脚部…擦り傷あり。他異常なし
腕部…打撲あり。右橈骨単純骨折
良かった。単に蹴られて衝撃で折れただけらしい。
踏まれて複雑骨折だったら治療が難しい所だ。
しかし少しずれてるな。
「少し痛みますよ。」と腕を引っ張ると
「ウガッ!ッッッッ…ッ」
ズレた骨を直す時の痛みには、アーサーの効果は薄かったようだ。
骨が正位置になったところでギ-バスという魔獣の皮に魔力を通しながら巻いてゆく。
この魔獣の皮は、魔力を通すと柔らかく魔力が無くなると固くなる面白い性質を持ち、骨折時のギブスとして重宝するのだ。
腕部固定良し。
処置終了。
後は骨折部の炎症を抑えつつ骨が再生されるまで固定しておくしかない。
3~4日、炎症が収まるまで安静が必要だ。
「どけどけ!骨折患者はどこだ?」
やっと医者が到着したようだ。
「こちらです。処置は終わってます。」
「何?素人が勝手なことをしちゃいかん!下手すればそこから腐っていくかもしれんのだぞ。」
確かに馬に踏まれて居ようものなら筋肉組織はズタズタだ。現代医学なら破損部のみ切り取って接合する方法もあるだろうが、ここでは切断がメインだ。
「私の見た所、右腕部軽度打撲あり。右橈骨単純骨折。骨折による内部組織破壊軽度。よって骨を正位置に戻しギブスで固めた状態です。」
「ぎぶす? なんじゃそりゃ?」
この医者、ヤブ?
「ん?患部を完全固定したんじゃな。ふむ、これなら添え木よりしっかり固定できるのぅ。」
『ギブス』という言葉を知らないだけだった。
『ギーバスの皮』変じて医療用語『ギブス』となったのだが…まだ地方には浸透していないようだ。
「先生。先生の所で入院は可能か?」
「出来ん事ではないが、お前さん。払えるんじゃろうな?」
がめつい!とは思わない。医者も、慈善事業じゃないんだからベッドを使うにもお金がいる。
「とりあえずは金貨一枚だ。必要に応じて追加は払うし、必要な薬草があれば採取してくる。」
「十分じゃよ。儂はアカーブという町医者だ。この患者は?」
「ウーズメ一座のヒールという俳優さんだよ。俺はシルド。冒険者だが、今は一座に世話になっている者だ。」
さて運ぶ方法だが、
「旦那~!」「シルドさ~ん!」
丁度、タッパーとアクトが担架を持ってやってきた。
「よし、ヒールさんを運ぶぞ。そこに担架を敷いて。」
そして三人で息を合わせ、
「「「せーの!」」」
と担架に乗せる。
「あ…あのう…」
近くに少女が寄ってくる。
「お、おじさん、大丈夫?」
おそらくヒールさんがかばった少女だろう。
「ぃっ!…君はケガをしていないかい?」
ヒールさんは痛みをこらえて何とか声を絞り出す。
「はい。」
「ならよかった。」
「でも…わたしのせいで…」
「…君が気に病むことはない。この腕一本で君が助かったんだから安いもんだ、っ!」
「おじさん!」
強面悪役俳優のヒールさんだが、この時はすごく優しい顔だった。
痛みをこらえる時は鬼の形相に戻るが。
「このおじさんの腕は必ず治るから大丈夫だよ。さあ運ぶぞ!」
「へい!」「はい!」
アカーブ先生に案内されてヒールさんを診療所に運び込んだのだった。




