11話 馬車塚での解体生活
さて、肉が傷まないうちに冷却を掛けて置き…
隊は後30分位で次の馬車塚に着くくらいか。そこで合流するとしよう。
確かあの馬車塚の近くの岩陰にマーキングしてあったはずだが…
「『マーカーサーチ』…あった。状況確認。周囲に生命反応なし。『転移扉』」
『転移扉』は空間をつなげて行き来できる便利な魔法だがマーカーがないと危険な魔法だ。
座標がズレると300m上空だったり、岩の中だったり…あの時は焦ったなぁ。
今ではマーカーを頼りにピンホールをあけ状況確認してからつなげるようにしている。
岩陰から街道に出て、魔熊を引きずりいかにも『なんとか運んで来たよ』感を出し馬車塚へ到着。
「誰か、熊を吊るすのを手伝ってくれないか?」
一人でもできるが、助けを得られるならそれに越したことはない。
俺の声掛けに、何人か休んでいる者たちや、ここで小遣い稼ぎしてる子供たちが集まってくれた。
ロープを枝にかけ、一方を魔熊の後ろ足にくくり、もう一方を皆が引いてくれたおかげで簡単に吊るすことが出来た。
大人たちに礼金を渡そうとすると、
「いいって、いいって。『情けは人のためならず』ってな」
「そうだぁ。『汝、隣人を助けよ』って聖書にもかいてあるべなぁ」
気のいいおっちゃんたちだ。
子供達には銅貨三枚だ。街中じゃ30円程度だが田舎では300円ぐらいの価値がある。
「そうだ、お駄賃とは別にいいものをあげよう。」
確かこの辺に『収納』してあったはずだが…あったあった。
いかにも革袋に手を突っ込んで取り出すように見せかけて、
「ハイ。」
「「「「なにこれ?」」」」
「『飴』というお菓子だよ。なめてごらん。」
クインビー蜂蜜100%の蜂蜜飴だ。
「「「「あま~い!おじちゃんありがとう」」」」
さて、冷却魔法が掛けてあるとはいえ早めに処理をするに越したことはない。
魔熊の口の下に桶を起き『ハートビート』。魔法で心臓マッサージを施す。
本来なら蘇生術として使う魔法だが、この状態の死体に使うと、
<ドボッ!><ドボッ!>(魔熊の口から血が出てくる)
血抜きに使えるのだ。
血抜きもあらかた終わったころだろうか。
「あれは?…シルドの旦那ー!」
一座の馬車一団が馬車塚に入ってきた。
「旦那。いつ追い越されたんですか?」
「この街道は実際は微妙に曲がっていて。魔熊のいた位置からだと直接こっちに来た方が早いんだよ。」
「…まあ、旦那のあの盾術ならあっという間でしょうが…しかし…立派な魔熊ですね。」
なんとか誤魔化せたようだ。
「ほほう、これが私たちを襲おうとしていた熊なのかね。」
「あっ座長!はいそうです。そこでご相談なのですが今日は予定どうり、ここで野営しませんか?」
本来はこの塚で野営予定だったのだが、塚間(魔獣、盗賊被害もなく)ノンストップだったので思ったより早く着いたのだった。
座長は懐中時計を見て
「確かにこの塚で野営予定だったんだが…思った以上に順調に進んだんでね、もうひと塚進めようと思っているのだよ。何かあるのかね?」
「これだけ立派な熊が手に入ったのです。皆に熊肉料理を振舞おうと思った次第ですよ。」
[時間に余裕があるとはいえ、旅というのはどこでトラブルがあるのかわからんのだ。ならば時間のあるうちに先に進むべき。それに熊肉料理?前に食べたことがあるが、あれは臭くて食べれたものでは…]
「ざっ座長!ここで野営しましょう!」
「アクト、どうしたのだね?」
「シルドさんの野営料理は絶品で、それに熊肉料理は特に…!」
アクトの冒険者修業時代、何度か振舞った事はあるがよく覚えていたもんだ。
「旦那の料理ってやっぱり…。旦那、そのつもりでここで待ってらしたんで? ここで旦那と熊を見て、そうじゃねえかと思っていたんですよ。」
[アクトだけでなく、冒険者も期待する熊肉料理とは?…うむ]
「…わかりました。みんな。ちょっと早いが今日はここで野営することとする。」
「やったー!」
「よっしゃー!」
座長の許可は取った。次の行動は…
「ちびっ子たち。集まれー!」
小遣い稼ぎしてる子供たちを集めた。
「「「「おじちゃん。なあに~?」」」」
「君たちの村からこれで野菜を買ってきてくれないか」
それぞれに銀貨2枚づつ渡したら、
「え~これじゃあ多すぎるよ。この前出荷した後だから売り物にならない分しかないし。」
年長の子はさすが計算が早い。それに村の様子も把握しているっぽいな。
「売り物にならない分でいいからかき集めてきてほしい。それにそのお金には運び賃も含まれている。お願いできるかな?」
「…うんわかった。みんな行くよ。」
売り物にならなくっても可食個所は結構あるもんだ。○円食堂を見習おう。
どれぐらい集まるかわからないが、とりあえずできる事から始めよう。
「タッパー。何人かでここに穴を掘って竈を作ってくれないか。そして残りの人数で近くの森から薪拾いを。」
「ウルン、ゴルン、メルンは竈づくり。シーターはその監督と旦那の手伝い。他の者は俺と共に薪拾いだ。」
「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」
「シルドさん。手伝います。」
アクトが座員を連れて来た。
「アクト、助かる。じゃあパンを捏ねてくれるかな。重曹はそこにある瓶だ。卵や塩もそこにあるもので頼む。」
「あっ!あの野営パンですね。配合は覚えてます。」
「そうか、頼む。」
重曹を使ったパンもどきを『野営パン』と言って新人たちには教えていた。
冒険者をやめて数年経つというのに覚えていてくれた事がうれしい。
卵は魔熊をここに運び込む前にケッコーの巣をいくつか『見つけた』事にしてある。
「後、大鍋に水7分目位にして通常の竈で火にかけといてくれ。」
「わかりました。」
指示も終わったし、魔熊の解体に入ろうか。
踏み台を用意し、肛門、フグリのあたりから刃を入れ腹の皮を切ってゆく。
あくまでも皮だけで身は傷つけないようにする。
そしてその肛門から大きなロープ付きフックを刺しロープは枝に固定。そして足を縛っていたロープは外す。
そして肛門のあたりから足に向けて刃を入れ足首まで行ったところで足首の肉と骨を切り放しておく。もう一方の足も同様に。
前足も同様に刃を入れ手首の肉と骨を切り放す。
下準備は整った。
背中側に踏み台を置きそのうえに上り足首に手を掛ける。
うまく皮だけに強化魔力を通して、
「妙技!『皮!剥ぎ!』」
踏み台から飛び降りればそのまま皮はつるんと剥ける。
後は頸椎あたりを切り放せば、お大尽様の熊の敷物様の皮となる。
「失礼。先ほどから見てましたところ、さぞ高位の冒険者とお見受けいたします。」
「一応、Aランクだが何か?」
「私、毛皮商を営んでおります。フェイク=ファーと申します。いやはや先ほどの皮剥ぎ技術。感服いたしました。」
「俺は今忙しいんだ。簡潔に頼む。」
この皮が欲しいんだろうが、今は交渉している暇はない。
この会話中も手だけは動かし解体してゆく。
内臓は今回はパスだ。処理する時間がない。胆嚢だけは取っておこう。
「失礼しました。では短答直入に…この魔熊の皮、買い取らせてもらえませんか」
「構わんがいくら出す?」
「金貨10枚」
「馬鹿にしてるのか?」
通常ならその値段ではあるが、それは仕留めるのに皮が傷まみれになった状態の値段だ。
綺麗な1枚もの。それも頭付きならちゃんと加工すれば、500枚は下らない。
腕の解体終了。骨は鍋に投入。
「っ失礼しました。き、金貨100枚でいかがでしょうか。」
「まぁ相場より低いが、旅中だとそんなものだろう。OKだ。」
「ありがとうございます。貴方様のお名前をお聞かせ願えませんか?」
「シルド=グロップだ」
<サラサラサラ>「こちら、小切手にございます。」
商人はある程度の金は持参しているが高額となると、為替や小切手での取引となる。
差し出された小切手をのぞき込むと、
『シルド=グロップ様へ金貨100枚をお支払いいたします。毛皮商フェィク=ファー㊞』
うん、商業ギルド発行の小切手だな。ちゃんと魔力印も押してあるし間違いはないだろう。
「フェイクさん、そこの女の子に小切手渡してくれ。毛皮持ってっていいよ。シーター受けとっておいてくれ。」
俺の手は熊油でべっとりだ。こんな手では書類は受け取れない。
足の解体終了。骨は鍋に投入。
「ハイ、確かに受け取りました。って僕がこんな高額の小切手もらっていいんですか?もしかして僕を嫁に?結納金ですか?」
タッパーが好きでパーティーにいる僕っ娘だが…こういう冗談で返すとは。
「俺の代わりにあずかっといてくれ。という意味だ。そうだな、クニに帰れば無職の俺だが…嫁に来るか?」
「う~ん魅力的ですね。無職でもこれだけあれば遊んで暮らせますし、シルドさん。何気にイケメンですしね。考えちゃいます。」
『イケメン』とは初めて聞いたな。モテている自覚はないんだが。
レードと一緒だと、みんなレードに群がるからなぁ。
「そうか…今の会話を全部、タッパーに聞かせてやろう。」
「わわわ!今のなし。冗談だからね。ぼ、僕が悪うございました。」
「ハハハ、わかればよろしい。」
おじさんをからかうもんじゃないよ。
胴体も解体完了。ちゃんとこびりついた肉もこそげ取ってある。骨は鍋に投入、と同時に灰汁取りだ。
丁寧にこれをすることで、えぐみが取れておいしいスープが出来上がる。
肉は適度な厚みに切り調味液につけておく。
ヨーグルトをベースに香辛料を付加した『なんちゃってタンドリー液』だ。
用意したヨーグルトの乳酸菌は乳糖分解だけでなく、タンパク質も分解してくれるので、固い肉でも30分ほどで柔らか肉に変身する。
また付加している香辛料が、獣臭さを滋味な香りへと変化させるのだ。
こそげ取った肉はハーブと塩を混ぜ、ハンバーグにしておく。




