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流星少女  作者: 彼岸花の憂鬱
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0.プロローグ

 僕は、あの日から空を見上げる事は無くなった。見上げてもただ、心が苦しくなる。空が青く澄み渡るほどに、星々が煌びやかに輝くほどに、僕の心を蝕んでいく。僕も僕とて、その攻撃を甘んじてしまう。


 彼女と過ごした日々はとても刺激的で、毎日が特別だった。次はどんな夢を叶えてくれるのかとワクワクした。気まずい瞬間も、もちろんあった。だけど、僕たちは真剣にぶつかり合えた。互いに気持ちを分かり合えていたつもりだ。だからこそ、僕は最後のあの瞬間、彼女の意思を尊重できた。


 彼女が星となってもうすぐ2年だというのに、相変わらず僕は外的刺激にも反応しない抜け殻のような生活を送っている。


 塾からの帰り道。2駅先の最寄り駅までの電車は、いつも通り静まり返っている。乗客は残業帰りのサラリーマンが2人に、僕と同じく塾帰りだろう学生が1人乗っているだけだ。各々、スマホを眺めたり、うつらうつら船を漕いでいたりしている。車内は適度な緊張感で包まれていた。


 車窓に流れる漆黒の海は静かに怒っている。

 不意に対岸に見える煌びやかな街明かりが見えた。それが、夜闇を流れる星のように見えて、、

、、。思わず僕は目を逸らした。心臓は静かに早鐘を打つ。

 嫌な記憶がフラッシュバックしてきた。彼女の秘密をSNSで拡散した奴の侮蔑する顔。糾弾するワイドショーのコメンテーター。彼女の別れ際の笑顔、、、、、。


 ダメだ、世間の非条理さ。人間の賎劣さ。それを意識するだけで、僕は簡単に人間の道を外れてしまう。そうなることを、望んでいる自分さえいる。

 正直、自分でも怖い。コントロールなんて出来ない。いつ、たがが外れるのかも分からない。知らないうちに人を殺してないか不安になる時もある。

 だから、いっそう自分を殺そうと思う事がある。僕はこの世界に存在してはいけない人間だ。それに、僕もこの世界にはもう、何も望まない。彼女のいないこんな世界で。ならば、僕が死んだ方がみんなにとっても、僕にとっても都合が良いだろう。


 だけど、あの日見た流星群が、いや彼女がそれを許さないだろう。 

 とにかく綺麗だった。天球全面に絶え間なく流れる流れ星。見上げる者、全員が息を呑んだ。眩しいほどの星々の輝きは、僕の顔を明るく照らした。さながら、星々のシャワーだった。

 一晩中続いた彼女の最後のサプライズは、絶望の淵に立つ僕を生き永らえさせるには十分だった。

 彼女と過ごした日々、約束、願い、、、、、笑顔。

 それだけを胸に、今日も僕は命を繋げている。


 何とか現実まで戻ってきた。


 「次は、箱崎~、箱崎~」

 車掌のアナウンスが車内に静かにこだまする。

 どうやら僕を含めて、この車両にいる全員が降りるらしい。船を漕いでいたサラリーマンもパッと顔を上げて自分の現在地を確認し、立ち上がる。


 改札を抜けると、電車は闇に姿を消した。下車した人々は思い思いに家路につく。駅前を通る国道を大型トラックが唸りながら通り過ぎる。辺りは静まり返っており、時折吹く海風の音が鼓膜を大袈裟に揺らす。


 駅から家は、国道と垂直に交わる片道1車線の道を真っすぐ行くだけだ。いつもなら電車内で親に連絡を入れて車で迎えに来てもらうのだが、さっきはそれどころでは無かった。今から連絡して迎えに来てもらうのもひとつの手だが、色々勘案するとそのまま歩いて帰っても家に着く時間はほとんど同じだろう。頭も冷やしたいし歩いて帰ることにした。


 駅前を離れると、いよいよ僕を照らすのは街灯だけになった。左側は山とも言えないほどの雑木林、右側は猫の額ほどの小さな水田と古い民家が交互に並んでいる。道は坂を駆け上がり、バイパスの下をくぐり抜けて家のあるニュータウンへと続いている。


 その中を歩く僕。嫌でも、考え事をしてしまう。自分の選択は本当に正しかったのか。彼女を救ってあげる事が出来たのではないか。考え出すときりがない。全ての始まりは2年前。そう、僕らが高校に入学した頃までさかのぼる。

 

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