新たな生活
そうして始まった魔王城での新たな生活だけど、専用の玉座が用意され、配下の魔物たちからの報告を魔王の隣で訊く、という日常はトラファルガー城の時と同じだった。
そんでもって、魔王は自分の部屋にいる時以外は、いつも仮面をかぶってボディラインを隠すようにマントを着用。仮面の内側にはボイスチェンジャー的なモノが装着されてるようで、声を極端に低くしてる。
もしかして、自分が女であることを隠してるのか? 部下たちの対応を見ても、男に接するような感じ。もしかしたら、魔王が女であること、しかも少女のようにロリ顔の持ち主だってことは、誰にも知られてないのかもしれない。
そんなこんなで魔王の政務の様子を傍観していたある日、
「ラムズ国の人間を生け捕りにして参りました」
ふたりのサイ男が両脇を固めて、人間の兵士を魔王の前に連れて来た。
ラムズ国といえば、トラファルガー国の同盟国で、記憶はないけど俺の生まれ故郷でもある。そんでもって、あのいけすかないピエール王子がいる国だ。
「わたしの領土になぜ侵入してくる。お前ら人間の侵入は固く禁じているのはわかっているだろう?」
魔王が凄む。
……ん? デジャビュを感じたぞ。どっかで見たことがある。
人間の兵士はフッと微笑んだかと思うと、
「わたしの領土だと? この世界は人間のものだ。魔族ごときが権利を主張するとは生意気な」
うわ、この返事もあの時の『まんま』じゃん。ほら、マルコとイノシシ男が王の間で対峙した時のさ。人間と魔族が逆転しただけだ。
「生意気なのはどっちだ!」
激高して叫ぶ魔王。やめてよ、もう首ちょんぱは見たくないからさ、落ち着いて、どうどう。
「人間の分際でこの魔王様に楯突くとはこしゃくな!」
ダメだ、立ち上がっちゃったよ。もう余計なこと言わないでくれよ、兵士くん。火に油を注ぐだけなんだからさ。
という俺の祈りは届かず。
「愚かな魔族め。我が国の王様もその継承者である王子様も素晴らしきお方。必ずや、お前らを打ち滅ぼすだろう」
自信満々に言うけど、あの国王と王子のことだよね? それはちょっと買いかぶり過ぎなんじゃないのかな。特にあのピエールはロクでもない君主になりそうじゃん。
「人間ごときが何を抜かすか!」
ほら、魔王がさらにヒートアップしちゃったよ。
「剣をよこせ」
サイ男から剣を受け取って、
「国王などこうしてくれるは!」
叫びながら躊躇なく首を切断。……する前に、俺は魔王の前に躍り出た。
「にゃあ!」
無益な殺生はしないでくれと訴える。
「ルシウス、どけ!」
いや、どかない。首ちょんぱなんてもう見たくないからね。
「……そうか、つまらぬモノを斬るのはよせというか。よかろう、ルシウスに免じて我慢してやる。連れて行け」
何とか通じてよかった。
兵士がサイ男たちに引きずられていくのを尻目に玉座に戻ると、
「取り乱してすまなかった」
魔王に囁かれ、頭を撫でられた。そうそう穏便にいこう。
そんでもって、メアリーを自由にしてやってくれないかな? 口を利けないのがもどかしい。メアリーがあの地下牢でどう過ごしてるのかわからず、俺は心配で仕方なかった。