3 ゲームセット
今日の試合で最も速いストレートが、俺のミットに飛び込んだ。
バッターはこのボールに対し、バットを動かす事すら出来へんかった。
一瞬、時が止まった様に、
グランドが静まり返った。
そして――――――
「ストライクバッターアウトォッ!ゲームセット!」
球審のゲームセットのコールが響き、
この瞬間、俺達張金高校野球部の初勝利が決まった!
俺はそのボールを持って碇の元へ駆け寄り、
「ナイスピッチ、感動したわ」
と言って、そのボールを碇のグローブに入れた。
それに対して碇は、照れた様な嬉しい様な、
何とも複雑そうな笑みを浮かべ、こう言った。
「やっぱり試合に勝つって、気持ちいいね」
「おうよ、俺らはそれを味わう為に、こうして野球をし続けてるんやからな!」
俺は胸を張って言った。
ホンマはそれ以外に理由があるんやけど、今はその事は置いといて、
純粋にこの勝利を喜ぼうやないか。
そう考えていると、キャプテンを始めとする先輩達が、
満面の笑みで俺や碇に抱きついてきた!
「うぉーっ!やった!勝った!勝ったでぇっ!」
「とうとう連敗が止まったんや!ひゃっほーぅ!」
「もう俺らは全敗チームやないんや!やったぁー!」
まるで甲子園出場が決まった時の様にはしゃぐ先輩達。
そんな中キャプテンが、俺と碇の肩に手を置き、真剣な顔になって言った。
「この試合でウチが勝てたのは、君らバッテリーのおかげや。
ホンマに、ホンマにありがとうな」
それに対し俺は、首を横に振ってこう言った。
「いえ、今日の勝利は、チーム皆で勝ち取った勝利です。
あと、強いて言うなら―――――」
と言って、俺は一塁側ギャラリーの方を見やった。
そこでは鹿島さんが伊予美に抱きついて喜び、
他のギャラリー達も、各々勝利を喜んでいた。
しかしその中に、小暮の姿はなかった。
あいつが居なければ、この勝利はなかったやろう。
あいつはこの試合の、影のMVPかも知らんな。
「強いて言えば、何や?」
キャプテンがそう言って訊いてきたが、俺は首を横に振って言った。
「いや、何でもないです」
「あのぉ、正野君?」
碇の奴が、俺のユニフォームの裾をチョイチョイと引っ張った。




