5 千田先輩は不良が怖い
「そうなんや。で、その責任を取れ、と、あいつは言うてるんや。
そやけど君は野球部とちゃうから、俺はその時彼に言うたんや。
『松山っていう子はウチの部員とちゃうから、ここには居らへん』って。
そしたら彼はこう言うたんや。
『嘘つけ。あいつは去年中学の全国大会で活躍した奴やろ。
そんな奴が野球部に入ってない訳ないやんけ』と。
そして俺達の言う事なんか全然信用せんと、更にこう言い出しおってん。
『そんなに松山を庇うんやったら、お前ら野球部全員で責任取れ。
その証に、ここのグランドを、今日からウチのチームに譲れ!』って」
「そんな⁉言ってる事がムチャクチャじゃないですか⁉」
「そうやねん。でも何せ相手は不良やからなあ。
俺不良怖いし、よう言い返せんかったんや」
ヤ○ザみたいな形してんのに?
「そんな………じゃあ千田先輩や正野君は、
そのグランドを追い出されちゃったんですか?」
「いや、流石にそれは俺達も困るから、彼にひとつ、条件を出してん」
「条件、って、どんな?」
「今度の日曜、ウチと矢沙暮高が試合をして、
ウチが勝てば、この話はなかった事にするって」
「………と、言う事は、もし先輩達がその試合で負けてしまったら………」
「そうなったら俺らは、殆どグランドで野球の練習が出来んくなって、
ますます弱いチームになってしまうやろうなあ」
「………………」
ここで千田先輩は、ワザとらしく大きな溜息をつき、
天を仰ぎながらこう言った。
「あ~あ、何でこんな事になってしまったんやろぅ………………」
ワザとらしいな~この人。
そんなん目の前の碇に
『お前のせいじゃ!』
って言うてる様なモンやんか。
すると碇は、そんな千田先輩に気圧される様に、こう呟いた。
「やっぱり、僕のせいなんですか………?」
「当たり前じゃボケ!」




