10 葉瀬君の左腕
というわけで俺と葉瀬君は、碇の元へと向かって歩いた。
目的地は碇の家、ではなく、
昨日碇が一人でキャッチボールをしていた河川敷の橋の下。
俺は今日もあいつがあそこに行っている様な気がしたのや。
あいつは何やかんや言うても野球を捨てきれてない。
そんな碇が何で野球を辞める事になったのか?
俺の勘では葉瀬君がその事を知っていると踏んでいるので、
今のうちにそれを訊いておく事にした。
「なあ葉瀬君、碇の奴は中学時代、
君と一緒に全国二位になった実績を持ってんのに、
高校に入った途端、野球を辞めてしまったらしいねん。
何でか知ってる?」
「野球を、辞めた…………
やっぱり、そうだったんですか…………」
俺の言葉を聞いた葉瀬君は、そう言って淋しげに俯いた。
そしてそのまま黙ってしもうたので、俺はちょっと話の角度を変えて続けた。
「君の左腕、歩く時も全然動かさへんけど、怪我でもしてんの?」
「これは、ちょっと………………」
「もしかして、去年の全国の決勝でやった怪我とちゃう?」
「………………」
俺の言葉に葉瀬君は口を噤む。
どうやらビンゴみたいやな。
事の真相を確信した俺は、ずばり葉瀬君にこう訊ねた。
「その怪我、碇にやられたんとちゃうの?」
「そ、それは違います!」
葉瀬君はそう声を荒げ、その後すぐに冷静になってこう続けた。
「これは、あいつのせいなんかじゃないんです。
俺の腕がこうなったのは、事故なんです」
「よかったら、詳しく教えてくれる?その時の様子を」




