9 葉瀬君を助ける
そんな事があった後の放課後。
近所の市民グランドに練習に行くべく、
野球部の皆で部室を出て校門へ向かうと、
その校門の所で、男の体育教師と、
昼休みにもここに居たあの男が、何やら口論をしていた。
あんまりしつこくうろうろしてたから、
不審者扱いで尋問されているのやろう。
「だから僕は怪しい者じゃないんですって!」
という彼の弁解の声が聞こえてくる。
俺はキャプテン達に先に行っててくださいと言い、
彼を助けてやるべく、口論している二人の傍に歩み寄り、
彼に向かってこう呼びかけた。
「おお、誰かと思えば葉瀬君やないか」
俺の言葉に彼はパッと振り向いた。
そして俺の顔を見て、『あ!昨日の!』という顔をした。
そんな彼に俺は素早くウインクをし、
彼、葉瀬君を問い詰めていた体育教師にこう言った。
「あ、先生、彼はね、僕の中学時代の友達で、
葉瀬高広君っていうんですよ」
「何ぃ?友達ぃ?」
露骨に疑いの目を向ける体育教師。
それに対し俺は、軽い口調で続ける。
「ホンマですって。きっと俺に会う為に、
ずっとここで待っててくれたんですよ。な?葉瀬君?」
「そ、そうなんです!僕、ずっとここで彼を待っていたんです!」
ホンマは俺やのうて碇の事を待っとったんやろうけど。
まあそれはともかく、体育教師はとりあえず信じてくれた様子で、
「そうか、それやったらええけどやな」
と頷き、
「あんまり部外者が校門の近くをウロつくんやないぞ」
と言い残して、校舎の方に歩いていった。
「ど、どうもありがとうございました。本当に助かりました」
先生の姿が見えなくなったところで、
葉瀬君はペコリと俺に頭を下げてそう言った。
「いやいや、全く知らん仲って訳でもないんやから、気にせんでええよ」
俺が笑ってそう言うと、葉瀬君は頭を上げて言った。
「それにしても、どうして僕の名前を知っていたんですか?」
「あ~、ちょっとね、調べさしてもろうてん。
君、東京の中学で碇とバッテリーを組んどった人やろ?」
「は、はい」
「それで、大阪の高校に行った碇を追って、はるばる東京からやって来た」
「もう、何もかも、お見通しなんですね」
「いや、全部って訳やないんやけどな。
それより、君は碇に会いに来たんやろ?
あいつやったらもうとっくに学校を出たはずやけど、
ここで会わへんかった?」
「いえ。もしかしたら、僕があの先生に尋問されている時に、
気づかずに通り過ぎてしまったのかも知れません」
「元バッテリーの君に気づかんとは、碇も冷たいやっちゃなあ。
しゃあない、そんなら今から行こうか」
「え?行くって何処へ?」
「勿論、碇の居る所へ」




