7 何で女子の制服を着てんの?
「あ、はいはい」
頭の中をリセットした俺は、慌てて伊予美の方に向き直った。
「小暮さん、連れて来たよ」
伊予美の言葉通り、隣にはあの小暮が居た。
髪は黒色で、肩にかからない程度のオカッパヘアー、
整った顔立ちにあまり変化のない表情、
何を考えているのかよく分からない目等、
その容姿は去年グランドで対戦した時と、殆ど変わらぬものやった。
強いて言うなら、背が少し伸びたくらいか。
それでも俺より頭ひとつ近く小さいけど。
「じゃ、じゃあ、ウチはもう行くね」
伊予美は何処かぎこちなくそう言って、教室の中に引っ込んでしまった。
「あ、ありがとう」
伊予美の背中にお礼を言った俺は、正面に居る小暮に視線を戻した。
とりあえず、話しかけてみた。
「よ、よう、俺の事、覚えてる?」
「覚えてる」
抑揚のない声で小暮は言った。
見た目も無愛想やけど、中身も無愛想やった。
まあそれはともかく、俺はこの時点で最も気になる事を、小暮に問うた。
その気になる事とは、これやった。
「あ、あの、さ、まず訊きたいんやけど
お前、何で女子の制服着てんの(・・・・・・・・・)?」
そう、そうなのやった。
彼(否、彼女?)、小暮はその身に、
この学校指定のセーラー服を着ていた。
これは、どういう事や?
確かにこいつは女と言うてもええような顔つきで、
体つきも男にしては華奢や。
でも、え?
男やなかったんですか?
パニックになりそうな俺に、小暮は変わらず抑揚のない声でこう答えた。
「俺、女だから」
どうやら女だそうです。
自称は『俺』やけど、女だそうです。
とりあえず、こう言ってみた。
「おう、知ってたけどな」
ノリのええ相手ならここで、
『嘘付け!お前俺の事絶対男やと思ってたやろ⁉』
という激しいツッコミがくる所やけど、
殆ど無表情のこいつにそんなツッコミを期待出来るはずもなく、
彼、否、彼女は、表情ひとつ変えずに黙っていた。
暫く気まずい空気が流れる。
う~む、気まずい。
しかしこのまま引き下がってはキャプテンに合わせる顔がないので、
俺は思いきって、小暮にこう言った。
「単刀直入に言うけど、野球部に、入ってくれへんか?」
「嫌」




